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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
信用レート編

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第27話 計測不能な女性

 二〇二〇年四月二日。東京、魔法災害隊東京本庁舎。

「響華っち、昨日の人質にされた子は大丈夫だったの?」

「うん、病院に運ばれて何とか一命は取り留めたよ」

「それは良かったね」

「だけどしばらくは魔災隊には復帰できないだろうってさ」

「そっか、仕方ないね……」

 響華は昨日、守屋刑事に呼び出されて事件現場に向かった。しかし、銀行強盗事件ということ以外の情報を知らなかった遥は、その後どうなったのか気になっていた。

「それでね。少し話違うんだけど、守屋刑事もアイプロジェクターで犯人の信用レートを計測してたんだけど、やっぱり守屋刑事にもレートに対する不信感があるみたい」

 響華の話に遥は納得したように言う。

「まあプライド持ってやってる人ほどそういうのは信じられないかもね」

 するとそこにリンファがやって来た。

「でも、AIを作ったシステムエンジニアにもプライドはありますからネ?」

「あっ、リンファさん! おはようございます」

 響華はリンファの方に向かって軽く頭を下げる。

「おはようございマス!」

 リンファも笑顔で挨拶した。

「システムエンジニアのプライドって何ですか?」

 遥が問いかけにリンファは。

「それはもちろん、完璧なシステムだというプライドですヨ」

 当たり前といった様子で答える。

「リンファさんも中国でやってた研究にはプライドがあるんですか?」

「当然デス! ただ、実際に完璧とは言えませんでしたけどネ……」

 響華の質問に答えた後、リンファは少し下を向いた。

「何かあったんですか?」

「そうですネ……。ちょっとセキュリティが甘かったんですヨ」

 リンファは中国で携わっていたあるプロジェクトの失敗について話し始めた。

「ワタシは解放軍の新しい通信システムを構築するプロジェクトに参加していたんデス。ですが、ワタシの担当した部分のセキュリティが少し甘かったみたいで、電子操作魔法であっさりやられてしまいまシタ……。それから、魔法科学技術についてより一層深い知識を得ようと頑張っていたところに信用レートなるものが日本に出来ると聞いて、これは行くしかないと思い今ここにいるんデス」

「そうだったんですね」

 響華にはリンファが完璧な女性に見えていたので、ミスをした経験があると聞いて意外に感じていた。

「あの、リンファさん。聞いていいのか分かんないんですけど、電子操作魔法をかけたのはどんな人だったんですか?」

 遥が聞くと、リンファは鋭い目をこちらに向けた。

「それは……日本の魔法能力者、ですヨ」

「えっ、日本の……?」

 響華は驚きの声を上げた。

「はい。日本の魔法能力者は優秀ですから、あっさりデシタ」

 リンファはさらっと言っているが、もしそれが本当なら立派な国際問題になりかねない。

「それって一体、どういう状況でそんなことになったんですか?」

 遥の質問に、リンファは不敵な笑みを浮かべて言う。

「それは、アナタ達の方が詳しいんじゃないデスカ?」

 リンファは踵を返しデータ分析室に行ってしまった。

 響華と遥はリンファの言葉の意図が理解できず、顔を見合わせた。




 警視庁、魔法犯罪対策室。

 守屋刑事は部屋の中で一人考え事をしていた。

(信用レートはAIによる即時量刑のようなもの……。それだけでも問題がありそうなのに、なぜその数値によって射殺が許可されるの? 信用レートには裁判所の判決と同じだけの力があるとでもいうの? 新刑法って一体何なのよ……)

 守屋刑事は頭を抱える。

 衆院補選により公民党が与党に返り咲いて間も無く、憲法改正法案は可決成立した。それと同時に、刑法も新憲法に沿った形に改正された。

『デジタル技術の進歩と共に社会もアップデートしていく必要がある』。これは神谷総裁の発言だが、その考え方自体は間違いではないかもしれない。ただ、突然のAIによる国民監視システムはさすがにやりすぎだというのが多くの国民の意見だ。

 しかし、警察の内部の考えは違った。少なくとも警視庁の捜査一課は信用レートを重用している。積極的にアイプロジェクターを使用し、常に周囲の人物の信用レートをスカウターで測定していた。そこまではまだ理解できる。問題はその信用レートが千五百を下回った人物、不信者の扱い方だ。

(犯罪者でもなく不審な行為もしていない善良な市民が、なぜ突然拘束されなければならないの? あのやり方は間違ってるわ)

 考えているうちに、守屋刑事の思考は信用レートへの不信感から捜査一課への不満に変わっていた。

「もう、元の法律に戻して!」

 守屋刑事は頭をくしゃくしゃとして叫んだ。

 その直後、すぐそばから男性の声が聞こえてきた。

「警察は法律を守らない者を取り締まる組織なのに、法律に文句を言いますか」

「……!」

 守屋刑事は驚いて声のした方を見る。

「何かお悩みですか?」

 そこにいたのは国元だった。

「ちょっと、驚かさないで下さい。誰かと思ったじゃないですか」

「すみません、守屋さんすごく集中しているように見えたので邪魔しては悪いかと思いまして……」

 申し訳なさそうに言う国元に、守屋刑事は深いため息をついた。

「それで、あなたはこんなところにいて大丈夫なの? だってあなた……」

「心配は無用です。魔災隊の使いと名乗って入りましたから」

「確かに、嘘ではないわね。何の用です?」

 国元は一枚の写真を見せる。

「これ、何かおかしいと思いませんか?」

 守屋刑事が写真を覗き込む。

「別に……普通のデータセンターに見えるけど?」

 その写真は、一見するとサーバーが並んだ何の変哲も無いデータセンターだった。

「実はここに写っているのは、去年運用を終えて解体撤去されたはずのスーパーコンピューターなんです」

「それってどういうこと? 神戸の研究所では無いわよね?」

 国元の言葉を聞いた守屋刑事はもう一度写真に目をやる。

 かつて計算速度世界一になったこともあるスーパーコンピューターは、去年その役割を終え神戸市の魔法科学研究所から撤去された。その当時の報道では、移設は非現実的だとして再利用はされないという話だったはずだ。

「つまり、別の場所で何かに利用されてるって言いたいの?」

 守屋刑事が問い詰める。

「いえ、最近撮影された写真ということ以外は分からないんです。どこで撮影されたのか、実際に稼働しているのか、そういう情報は一切無いんですよ」

「じゃあこれは誰から得た情報なの?」

「それは機密情報なのでちょっと……」

 守屋刑事は言葉を濁す国元を少し怪しんだ。

「で、あなたはなぜ私にこの情報を?」

「僕は表立って動けないのでね。少し協力してほしいんです」

「結構危ない案件のように思えるけど?」

「はい、危険はかなりあると思います。ですが他に頼れる人もいないので、ここは信頼できる守屋さんにと思いまして」

 守屋刑事は諦めたように頷いた。

「……分かったわ。やれるだけやってみるけど、結果に文句は言わないでね?」

「安心して下さい、文句なんて言いませんから。では、僕は戻らないといけないので失礼します」

 国元が部屋を後にする。

(スーパーコンピューターなんて、隠して運用できるものでもないと思うのだけど……)

 一人になった守屋刑事はパソコンを立ち上げ、そのスーパーコンピューターについて調べようとした。

 しかし、それを遮るように緊急通報の電話が鳴った。

「はい、警視庁魔法犯罪対策室の守屋です」

『もしもし! あの、押上管轄の川辺かわべですっ!』

 通報してきた隊員は人見知りなのか声を振り絞るように言う。

「川辺さん、何かありましたか?」

『えっと、あのっ……。スカイツリーの近くで、魔法能力者が暴れてますっ!』

「魔法犯罪……! すぐに行くわ。あなたは安全なところで待機してて」

『わ、分かりましたっ!』

 守屋刑事は電話を切るとスマホを取り出した。

『はい、進藤です』

「もしもし、魔犯の守屋です。スカイツリーで魔法犯罪が起きました。魔災隊の応援を要請します」

『それは傷害事件?』

「おそらく。現場の様子は分かりませんが、所轄の隊員が対応できない点から相当能力の高い人物だと思われます」

『分かった。じゃあ響華さんたちを向かわせるから、守屋刑事は現場に行ってて』

「了解しました。状況が分かり次第またご連絡します」

 守屋刑事は急いで駐車場へ向かい、パトカーに乗り込む。

「魔犯から警察本部。現在押上地区で魔法傷害事件の事案発生中」

『了解。魔犯および二七四と付近のPMは直ちに現場へ急行せよ』

 守屋刑事はアクセルを踏み込み、パトカーを発進させた。




 押上、東京スカイツリータウン。

 守屋刑事が現場付近に到着すると、住民や観光客の避難誘導に当たっていた警察官が近寄って来た。

「魔犯の守屋です。現在の状況は?」

「女性一名が魔法を周囲に放ち続けています。それによる負傷者は男性一名。その男性はすでに救急車で病院に搬送されています」

「女性の身元は? 魔法能力者なんでしょう?」

「それがですね、国民情報システムで照会したところ魔法能力者では無かったんです」

「どういうこと? 女性は魔法を使っているのよね?」

 守屋刑事は状況が分からず困惑する。

 その時、後ろから少女がおどおどした様子で歩いてくる。

「あっ! 守屋さんっ、ですよね? 私、さっき通報した川辺ですっ」

「川辺さん、あなたは怪我とか無い?」

「は、はいっ! 大丈夫ですっ」

 川辺隊員は緊張でがちがちに固まっている。

「私はそんな怖い人じゃないから、安心して」

 守屋刑事が笑顔を見せると、川辺隊員は焦ったように言う。

「こ、怖い人なんて思ってないのでっ。ただ、人見知りなだけで……」

「そう、それならいいんだけど」

 守屋刑事は心配そうに言うと、川辺隊員に質問をした。

「あなたは現場に居合わせたのよね? その時の状況を教えてくれる?」

「えっと、最初に男の人がいて、そこに後から女の人が来て、そしたら突然女の人が男の人に魔法弾を……。なんか喧嘩みたいになってたような……」

「なるほど、その辺は単純ね。だけど魔法能力者に該当しないというのが引っかかるわね……」

 状況としては痴情のもつれといったところだろう。しかし、国民情報システムによると魔法能力者ではないとなっている点に疑問が残る。日本では戸籍を持つ全ての女性が幼少期に魔法能力検査を受けているため、この情報が間違っているとは思えない。魔法能力は後天的に身につくものでもないので、これは明らかにおかしい。

 守屋刑事が悩んでいると、一台の車が横付けされた。

「守屋刑事、今どんな状況ですか?」

 車から降りてきたのは響華たちだった。

「とりあえずは喧嘩が発展して魔法使用に至ったってところかしらね。ただその魔法を使っているのが魔法能力者では無いと思われるのよ」

「えっ? みーちゃん、それってどういうこと?」

 遥が首を傾げる。

「それが分からないから私も困ってるのよ。まずは女性を取り押さえましょう。川辺隊員は一旦待機してて」

「はい!」

「分かりましたっ」

 守屋刑事と響華たちは女性が暴れている現場まで向かった。


「ウワァァ……」

 その女性はゾンビのようなうめき声を上げながらその場をさまよっていた。

「魔法災害隊だ。手を上げて膝をつけ」

 碧が呼びかける。

 するとその女性はゆっくりとこちらを向く。

「手を上げて膝をつけ」

 碧がもう一度呼びかけた次の瞬間、その女性は血相を変えてこちらに駆け出した。。

「ウワァァ〜!!」

「この女性、様子が変よ」

 芽生が言う。

「なんか、操られていた時の私みたいな……」

 雪乃はアマテラスに操られていた自分と似たような状態なのではないかと感じていた。

 しかし、遥はそれを否定する。

「いや、ユッキーの場合感情が無かった。でも、この女性は違う。怒りの感情で動いてるような気がする」

「ああ。喧嘩が発展したという点からも、感情的になった結果こうなったと考える方が自然だろうな」

 碧が守屋刑事の情報から推察する。

「とにかくあの人の身に何か起きてることは間違いないよ。早く助けないと!」

 響華は女性に一歩ずつ近づく。

「ウワァ……!」

 女性は近づいてくる響華を警戒している様子だ。

「大丈夫ですよ。私はあなたの味方です」

 響華は優しく語りかけながら女性のそばまでたどり着いた。

「何かあったんですか?」

 女性の顔を覗き込もうと響華が屈む。その瞬間。

「ウワァ!!!」

 女性が突然魔法弾を繰り出した。

「響華、避けて!」

 芽生が叫ぶ。

 響華は魔法弾を既のところで躱し、女性と距離をとる。

「守屋刑事、あの人の信用レートってどれくらいですか?」

「ちょっと待って」

 響華に聞かれた守屋刑事は、アイプロジェクターのスカウターを起動し女性の方を見る。

《Credit Rate:unknown》

「あれ? おかしいわね?」

 守屋刑事は何度かスカウターを再起動させたが、その女性の信用レートだけどうしても計測できない。

「どうかされたんですか?」

 雪乃が心配そうに守屋刑事に問いかける。

「あの女性だけ、信用レートが計測できないのよ……」

 守屋刑事の言葉を聞いた五人は、もう一度女性に目をやる。

「ウワァ……」

 女性はこちらを睨んでいる。

「これは一体、どういうことだ……?」

 碧が呟く。

 守屋刑事と五人は不気味な状況に恐怖を感じていた。

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