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虚構原型-プロトタイプ・フィクション-  作者: 山下 式
第1層-オートマタ-
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グレッグ・ジャケドロー1

真鍮製の配管が、月光に反射して新しい。


エイダのおかげで、グレッグ・ジャケドローなる人物の居場所はすぐに特定できた。


ギア・テック社のお膝元にある工場で稼働していない場所は一箇所のみだったからだ。


人の悪意が集まる所はいつだって廃墟、波止場、宿屋だと相場が決まっている。


悪巧みをする人間の思考はいつだって単純だが、タチの悪い汚れのようにいつも私を困らせた。


いつか大悪臭もろとも、ロンドンに蔓延る悪意をテムズ川が洗い流してくれることに期待しよう。


荷物の搬出入が容易い波止場の近くにギア・テック社の工場はあった。


私はぐるりと辺りを見回し、そしてたっぷりと時間をかけて様子を伺う。


工場の入り口周辺にはマルティニ・ヘンリー銃を持った警備員が二人と、ガード型オートマタを二体確認できた。


等間隔に配置された警備員同士の間は、少人数の襲撃で撃退されないための工夫だ。


それは明らかに訓練された兵士の技術だった。


ビンゴ。


軍用銃を持った訓練済みの警備員など、ただの廃工場にしては厳重すぎだ。


前もって侵入経路は図上で研究していたので動きは迷いなく、警備員から死角となる石壁を半ば強引によじ登って敷地内へと侵入した。


先程の訓練された警備員が見回りに来たとしても、私の侵入を察知できる証拠を残さないように注意を繊細に研ぐ。


錆が浮いた鉄製の壁に張り付きながら扉の前まで猫の歩みのように移動して、気密扉の隣にある茶色く色褪せたボタンを押すと、エアロックの空気が抜ける音がした。


錆びた扉が唸る軋りは、取りこぼされたかつての今。


栄華を極めんとするロンドンの街には、この工場のように役目を終えた産業の名残りがあちこちにある。


かつての先端技術も数年経てば日常となり、さらに数年経てば邪魔になる。


人であれ物であれ、国であれオートマタであれ、今という時間にはかつての名残りは必要ない。


産業革命とは、急進派の目指すユートピアとは、ノスタルジーを許さない。テクノロジーを超えた魔法の世界。


魔法の世界では女王陛下への忠誠心でさえ、計算盤の上となるのかもしれない。


時代が諜報を不要と言えば私はその役目を終える。


・・・いつまでもハインライン家の繁栄に寄与し続けること。


何度目かの夢想が産業の蒸気のように噴出して、ロンドンの寒空へと溶けていった。

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