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「ああー。疲れた……」


湯あみまで済ませたジャスミンは、ベッドにごろんと横になった。クッションを抱きしめる。帰宅したジャスミンを発見したウォーレスに、お茶をしたあとさんざん城下町をお忍びで連れまわされて、ぐったりしてしまった。執務は大丈夫なのだろうか、と心配になる。


「キャロルに強引に行かされたけれど、楽しかったな」


 ジャスミンはベッドに転がりながら、竜の島のことを思い出していた。

泉を見た後は市場で買い物をしたり、城を案内してもらい楽しく過ごした。前回は時間的にも気分的にもゆっくり楽しむ余裕などはなかったが、今回は興味深く楽しむことができた。

 竜族は全体で二百人ほどしかいないため、皆が家族のような関係らしい。リュディアスが竜族に出会うたびに紹介してくれたが、彼らはジャスミンのことも歓迎してくれたようだ。

 キャロルと約束した通り、お茶の時間には送り届けてくれた。ウォーレスたちと顔を合わせるのが面倒なのか、ジャスミンの部屋のバルコニーに送り届けた後、リュディアスは「またな」と言い残してさっさと帰ってしまった。


(さっきまでさんざん話したけれど、もう少し話したっていいのに)


 自分勝手だが、なんだか寂しい気がしたのは気づかないふりをした。


 こんこん、とバルコニーの窓がノックされる。


「何かしら。こんな夜に。……鳥?」


 恐る恐るジャスミンは窓を開いた。そこに立っていたのは、


「リュディアスさま……」


 ジャスミンはぱちくりと瞬きした。一応夜淑女の部屋を訪れてはいけないとわきまえているらしいリュディアスが、日が暮れてから会いに来るのは初めてだ。


「ちょ、ちょっとお待ちください」


 今着ているのが薄手の夜着なことを思い出して、ジャスミンは慌てて一旦部屋に引っ込んでストールを羽織った。


「昼間もお会いしたではありませんか」


 呆れているジャスミンに、リュディアスは大まじめに


「『も』ではなくて『しか』だ。お前とかたときでも離れているのはつらい。本当なら、ずっと一緒にいたい。だが、まだ婚約者ですらないし、ジャスミンの立場を尊重しているだけだ」

「リュディアスさまったら」


 呆れる一方で、嬉しいという気持ちがあることも確かだった。ジャスミンはそんな自分の気持ちに気づかないふりをした。

咳ばらいをして、わざとそっけなく、


「それで? 淑女のお部屋を訪れるには少々遅い時間ですけれど、何のご用でしょう? お茶のお相手でもいたしましょうか? キャロルが用意してくれればですけれど」


 自分でも嫌になるくらい厭味ったらしい言い方だったが、リュディアスはまったく気に留める様子がなかった。


「いや。お茶はまた今度ご招待にあずかろう。マナー違反なのは分かっているが、オレはジャスミンと散歩に行きたかった。今夜は満月で、ことさら美しいからな」


いたずらっぽく笑う。


「オレと、夜の散歩に行きませんか?」


 わざと仰々しくそう言って、リュディアスはジャスミンに手を差し伸ばした。

 リュディアスの気持ちに応えられないのに、この手を取るべきではない。ましてや昼間も不本意とはいえ、デートまがいのことをしているのに。

 だけれど、ジャスミンはその手を取った。


「……はい」

(月が、きれいだったから)


 空から見たら、バルコニーから見るよりも、美しいと思ったから。



 



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