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一方リュディアスに抱きかかえられたジャスミンは、無事竜の島に到着した。港に降り立つ。二人で出掛けるなんてこともなかったので、ここに来たのは二年ぶりだ。
以前見た時よりは船の数が増えている。ヴァ―リアス王国に荷物を運び入れるためだろう。
「リュディアスさま! おかえりなさいませ」
「その綺麗な人はだれ―?」
「わぁー。人間だ! 初めて見た! 羽がない」
近くで遊んでいたらしい子供たちがわらわらと集まってきて、二人を取り囲む。リュディアスは慕われているらしい。
リュディアスとエリクはたまに他の国に行くこともあるそうだが、基本的に他の竜族は島から出ないので、人間を見たことがないのだろう。
(こんなに慕われるなんて、王としては大事なことだわ)
ジャスミンはこっそりと感心した。
リュディアスは優しく子どもたちを見下ろしながら、頭を順番に撫でてやる。
「オレの番だよ」
「番!? 人間なのに?」
竜王の番が長く見つからなかったことを子どもたちも気にしていたらしく、ジャスミンが番だということを知って、嬉しそうだ。
「いつこの島に来るのー?」
ドレスの裾を引っ張られて、ジャスミンは困ってしまった。結婚の約束もできないのに、島に来る予定もない。
困っているジャスミンを見かねてか、リュディアスが口を挟んできた。
「いつ来られるかは分からないんだ。彼女は王女だからな。そう簡単に結婚できない」
「本物のお姫様なの!」
「だからすごくきれいなドレスなんだね! 触ってもいい?」
子どもたちの関心がドレスに移って、ジャスミンは内心ほっとする。
「ええ。いいわ」
「飾りが壊れないよう優しくな」
好奇心旺盛な子どもたちが少々乱暴に触るのを見かねて、リュディアスが口を出す。
「大丈夫ですよ。うちのお針子は優秀なので、取れても元通り直してもらえますわ。子どもたちが触った程度で取れた飾りならば問題ありません」
「そうか」
ジャスミンが微笑むと、リュディアスもほっとしたように微笑んだ。
「ジャスミンさまばいばーい! また遊ぼうね!」
「ええ。また来るわ」
ひとしきりドレスを触ったり、ジャスミンに質問したりして満足したらしいこどもたちに見送られて、リュディアスとジャスミンは歩きだした。行先は秘密らしい。
時折通りすがりの竜族に軽く挨拶をしながら。