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二人を見送ったキャロルは、
「さて」
と部屋を見渡した。
「ジャスミンさまのお世話がないとなると暇ね」
とりあえずジャスミンの部屋の掃除を始めることにする。
ほうきを手に取ったところで、部屋の扉がノックされた。しばらくして開いた扉から顔をのぞかせたのは、ウォーレスだった。
「ジャスミン! 私と一緒に城下町にーーって、キャロルだけか? ジャスミンはどこだ?」
恐らく王妃のところから逃げてきたのだろう。キャロルは苦笑いしながら、
「リュディアスさまとお出かけに行かれましたわ」
いずれバレることだろうから、正直に言うと、ウォーレスはまなじりを吊り上げた。
「なんだと!? 婚約者でもないのに、二人きりで外出など! 行先は? 城下町か? 竜の島か!?」
「恐れながらウォーレスさま? いずれジャスミンさまは結婚されますよ。むしろされないと困ります。庶民と違って王女ですから」
幼い頃からよく知っているキャロルは、ウォーレスにも遠慮がない。キャロルの正論に、ウォーレスはうろたえる。
「そ……それは分かっているが……。だが、まだジャスミンは結婚できる年齢ではないし」
「もうすぐできますよ。第一婚約者でなくても、二人で出掛けるなんて普通です。フ・ツ・ウ! そろそろ妹離れしないと嫌われますよ?」
「嫌われ……うっ……! 急に急ぎの仕事を思い出した。ではな、キャロル」
急にウォーレスは苦痛そうに顔をゆがめて頭を押さえると、ふらふらと部屋を出て行った。思い当たることがあったらしい。
「はーい。頑張ってくださいね、ウォーレスさま」
にこやかにキャロルはウォーレスを送り出す。ウォーレスの姿が見えなくなると、
「兄妹仲がいいのは結構だけれど、あれではウォーレスさまが結婚できたとしても、お相手の方が苦労するわねぇ」
と独りごちた。
「ともかくリュディアスさまが、上手くやってくださればいいのだけれど。ジャスミンさまと絶対お似合いだもの!」
ジャスミンに対して溺愛しすぎているところもあるが、それを除けばリュディアスは結婚相手として申し分ない、とキャロルは思っている。
主人であるジャスミンの、幸せな結婚を何より願っているので、できれば政略結婚などではなく、彼女を心から大切に思ってくれている相手と結婚してほしいのだ。だからおせっかいなのは承知のだが、少々強引にジャスミンを送り出すことにした。
国王と王妃もリュディアスを悪くは思っていないし、ジャスミンさえその気になればすぐにでも縁談がまとまるだろう。
早くも二人の子どもはどちらに似ているだろう、と想像を膨らませながら、キャロルはほうきで床を掃き始めた。