13
「いやだぁぁー! お母さまものすごく張り切っているのよ……。お兄さまに矛先が向いてよかったーと思ってたのに! 結婚したくないいー!」
部屋に戻ったジャスミンは、キャロルに事の顛末を話した。ベッドに突っ伏して、ジタバタ手足を振り回す。
そんなジャスミンをキャロルはあきれ顔で見つめ、
「私しかみていないとはいえ、はしたないですよ。ジャスミンさま。それに舞踏会に来た相手と、即結婚しなければいけないわけではないですよ。気軽に楽しめばいいじゃないですか。綺麗なドレスを着て、美味しいものを食べて、普段なかなかお会いできない方と、楽しくダンスするだけですよ」
「別にダンスは得意じゃないものー!」
ジャスミンはひとまず起き上がるとベッドに座って、唇をとがらせる。
「国内の有力貴族や他国の王族の方と交流を深めるのは大切ですわ。ジャスミンさま」
「正論は聞きたくないのよー」
こんこんと諭されて、ジャスミンは耳を押さえて首を振った。
その時、扉が軽くノックされる。
「どうぞ。開いているわ」
扉から顔をのぞかせたのは、リュディアスだった。
「リュディアスさま!」
しぃ、とリュディアスが軽く人差し指を唇にあてる。
「エリクを巻いてきた。竜の島を案内しよう。空からしか見たことがなかっただろう?」
「今からですか? ええと、何か用事があったような……」
もちろん用事などない。ジャスミンは基本的に公務以外の予定はないため、部屋に引きこもっていることが多い。ちらっとキャロルに目配せしたが、通じなかったようだ。
「ジャスミンさまのご予定はございません。どうぞいってらっしゃいませ。お茶の時間までなら大丈夫ですから」
「キャロル!」
「そうか。ならば心置きなく連れて行こう。お茶には間に合わせる」
側仕えのメイドの許可が出て、リュディアスは嬉しそうだ。ジャスミンはジト目でキャロルに訴える。
(恨むわよ、キャロルー! 二人で出掛けるなんて、こんな気を持たせるようなことしてー。わたしには結婚する気なんてないのに)
だが、キャロルは恐らく通じていてあえてにっこりと笑った。リュディアスの肩を持っている節がある。
「普段引きこもりがちですから、お誘いいただいてよかったですわね。いってらっしゃいませ。ジャスミンさま」
リュディアスはバルコニーに出て、部屋側を向いてテラスの上に立った。手を伸ばす。
「おいで。ジャスミン」
(断れる状況じゃないわね。仕方ない……)
ジャスミンは意を決して、リュディアスの手を取った。リュディアスはその手をぐっと引き上げて、お姫様抱っこをする。
「じゃあ楽しんでくるわ。あとはよろしく。キャロル」
厭味ったらしくにっこりと微笑んで手を振るが、長年側仕えを務めているキャロルはまったく動じていない。
「いってらっしゃいませ」
にっこりと手を振り返してくる。リュディアスは大きく羽を広げると、空に羽ばたいた。