冒険者ギルドでギルドカードを作ろう!
やってきたのは冒険者ギルド。キラキラした神殿とは違ってアラブ系の建物をしたギルドだ。
「おう、アザラン聞いたぜ。サーソリーが出たって?」
「あぁ、今報告しにきたところだ」
S級冒険者は、知り合いもいっぱいらしい。町でもたくさん声を掛けられていたし、ギルドでもみんながアザランに手を挙げている。
扉から左奥に行ったところにカウンターがある。カウンターから右側横一杯にビラがびっしりと貼り付けられている。依頼書だろう。フラフラと誘われて行きそうな東雲、ではなくて今度は北里先輩の首根っこを相変わらず良い筋肉をしたアザランが捕まえていた。
「おかえりなさい、アザランさん」
「う、うさ耳!ぐえっ」
がばっとカウンターに乗り上がる勢いでカウンター越しのお姉さんに近づこうとした北里先輩。いや、あなたの首根っこアザランが持ってるじゃん。お嬢が冷ややかな視線を送ってる。
「えっと、こちらは?」
「こいつらは、ギルドカード発行しに来たんだ」
「まぁ!ようこそ、冒険者ギルドへ。ギルドカードの発行は、そちら階段上がって二階になりますね」
「おう、その前にサーソリーの依頼報告頼む」
「はい、ではこちらにカードを」
アザランは慣れたように差し出された水晶板にギルドカード挿す。するとデータを読み込むのだ。まじ便利。
「では、精算しましたらお呼び致しますね」
「頼む。あっ、毒の分は」
「イヨさんに付けておきますね」
「あぁ、頼む」
心得ていると胸を叩いた白耳兎獣人さんに、まいったなとアザランは照れたように頭を掻いたのだった。
アザランに連れらて二階に上がると、一階とは違いがらんとしていた。
「アザラン、二階に来るなんて珍しいな」
「あんたこそ、またサボりか?」
「違ぇよ。仕事だ」
書類を受付の職員に渡した男は、湊たちの前にやってきた。片腕のない男はだった。顔に横一文字についた大きな傷跡に、思わず後ずさる。南は、小さく悲鳴を上げてお嬢の後ろに隠れた。
先輩、そのキラキラした顔は違うと思う。
「ほほう、こいつらが町で噂になってる糸族か?」
「いや違ぇよ。こいつらは、ただの」
そこでアザランは言葉を切った。ただの、何と答えたら良いのか分からなくなったのだろう。
「俺らギルドカードを発行しにきたんす!」
東雲の言葉に、ほほうと男は腕を組む。片腕だが。
「あの、ギルドマスターですか?」
「何故そう思う?」
北里先輩の言葉に、男はひょいと片眉を上げた。
「強そうだからです」
「片腕の男がか?」
「それでも、きっと貴方はアザランさんより強い」
「くっ」
言い切った先輩の言葉に、男は突然大声で笑い出した。
「そうか!そうか!アザランより強そうか!お前見る目あるなぁ!ギルドカードの発行か!よし、こっちに来い俺が出してやる!」
がっはっはっは!と笑いながら先輩の背中をバシバシ叩き、カウンターへと連れ去ってしまった。
「うわっ、ギルマスに気に入られてる」
「え、まずいの?」
「ギルマス、男もイケるからな」
「うわぁ」
そこ!東雲!お尻押さえない!
というわけで、ここでも私は待つだけである。
ブラブラ、キョロキョロしてギルドの二階を探索した後は、座って待つだけ。
「みんなカード発行できるかな」
「どうだろうな。あのお嬢さまは大丈夫だろうよ。良い弓の腕をしてた」
「そっか。あと先輩は大丈夫だと思うな、銃が得意って言ってたし」
「ほう、先輩っつーのはあの眼鏡の奴か?中距離二人に、魔法の使い手一人。あと近距離がいれば良いパーティになるな」
「そう、北里先輩。近距離かぁ、もう一人の男子いおりんて言うんだけど腕っ節には自信あるって言ってたよ?」
「あの細腕でか?」
「うん、あの細くて白い腕で。あ、たぶん南ちゃんは無理だろうなぁ」
「あぁ、ありゃあなぁ」
どうしたもんかねぇ、と二人で悩んでいると四人が戻ってきた。
案の定。
「俺、貰えなかったんだけど!」
「わ、私も駄目でした」
ですよねぇ。
ところ変わって冒険者ギルド一階、食事処。
「たっくよー、何で俺が冒険者なれねぇんだよ!」
グサッと東雲はフォークをお腹に突き刺した。じゅわぁと滲み出た肉汁ごと、ぱくりと食べる。
「うっめー!なんだこの肉!うっめー!」
久しぶりのまともな食事に東雲だけでなく、みんな黙々と食べ始める。
うまい。うまいが、この肉、いったい何の肉なんだ。
フォークでツンツン刺してたら「お行儀が悪いわよ」とお嬢に怒られた。
「あーん。もぐもぐ。まぁ、仮免もらえたから良かったじゃんね」
「それ!」
「どれ?」
フォークを人に向けるなって東雲もお嬢に怒られてた。
「聞いたら仮免カードってガキが貰うらしいじゃん!」
「ほほう、こっちのちびっ子を舐めたらあかんよ」
「なんで?」
「ギルドで仮免カードを貰ったちびっ子たちは、ほら、そこの掲示板の端っこ」
みんな食事の手を休めて、掲示板を見る。
ずらりと並んだ依頼書。冒険者のランク毎に分けられている。右側の端っこの小さい枠にランク外と書かれた札が打ち付けられている。
「あれは、仮免カードで受けられるクエストで」
「クエスト!きたぁ!」
「うん、北里先輩、ちょっと静かにしてようね」
「あ、ごめん」
「えーっと、そんでクエストをこなしてくと正規のギルドカードを貰える仕組みになってるんだよ」
あってるかなって、ちらっとアザランを見れば、その通りだと頷いてくれた。
そうそう、最初は私も薬草採取とかしたなぁ。あと近所のあばちゃんのお使いとか。あれは、あれで楽しかった。
「じゃあ俺たちもあっちのクエストこなせばギルドカードもらえんのか!」
「まぁ、そうね」
冒険者ギルドなので戦闘ができないとどうしようもない。薬草採取にしたって、低級モンスターと遭遇することもあるしね。
「とにかくお前ら砂漠越えしてきたばかりだろ?細けぇことは明日にして、今日はもう休め」
「え、でも服とか武器とか」
湊がまだまだやることあると口にしようとしたら、アザランが顎でくいっと示した。
なんだ?と振り返れば、こっくりこっくり船を漕いでる東雲と南。北里先輩も、大きな欠伸をしている。
「もう限界だろ?」
「そうみたいね。神山さん、今日はもう休みましょう」
「うん、アザランさん。どこか良い宿屋紹介してくれますか?」
「宿屋か?だったら」
「猫屋が良いよ!」
「イヨ!」
ぴょこん!と現れたのは草色のローブを着た男の子。
「怪我してねぇか?」
「うん、大丈夫だよ!たくさんお薬できるよ!」
「そうか、よかったな」
よしよしとアザランに頭を撫でられたイヨは幸せそうに笑った。
「あ!猫屋!ご飯が美味しくて、宿のおかみさんもとっても優しいんだよ!」
「あぁ、俺が案内しとくから、お前はちゃんと報告してこい」
「そうだった!じゃあまたね!」
イヨは、アザランのほっぺにチュッってして、うさ耳受付嬢がいるカウンターへと駆けて行った。
「ほっぺチューした」
ぼそっと呟いたら、アザランが咽せた。