サーソリーの丸焼き
日の出とともに、目が覚めた湊たちは軽く食事を済ませると揃いの外套のフードを被りまた砂漠を歩き始めた。
「親方様、今日には町に着くって言ってたよな」
「うん、順調に進めば昼にはつくみたいだよ」
北里先輩が地図を広げながら頷いた。先輩が持っているのは弟子からもらった簡易な地図だ。所々が破けている古い地図で、もう使ってないからって譲ってくれたのだ。地図を読める先輩が持ち歩くことになった。
昨日同様に、徐々にみんなの口数は少なくなっていた。それでも砂漠越えは順調に進み、地平線に緑がうっすらと見えてきた。そんな時、砂漠では聞こえないはずの地響きが鳴った。
「なぁ、なんか揺れてねぇか?」
「地震?」
東雲が空を見上げ、南が怯えたように言う。
地震?砂漠で?
私は辺りを見渡した。ふと陰った気がした。
「あれ!」
悲鳴にも似た声で叫んだ西條の声に振り向けば、そこには体長三メートルぐらいある巨大な黒光りするサソリがいた。
「おいおい」
私一人ならまだしも、この四人を護りながら戦えと?
しかも、巨大サーソリー相手に?
無理ゲー。
「お前ら走れ!」
怒鳴るような指示にハッと周りを見渡せば、馬に跨った人たちが、手に剣や槍など武器を構えている。
冒険者!
サーソリーが大きなハサミを振り上げた時、冒険者の一人が呪文を唱えた。
あれは、盾呪文!
「何突っ立ってんだ!」
「うっ!?」
ひょいっとすくわれた湊は、あっという間に馬上の人に。ひょいなんていってるが、実際はお腹に回された腕に内臓を押し上げられ危うく朝食べた干し肉を戻しそうになった。
「ちょっ、乱暴」
「うるせぇ、舌噛むぞ!あんたら装備もなしにこんなとこで何してんだ!死ぬ気か!?」
「確かに武器は持ってませんけど!防御は最強ですから!」
ぐっと外套の襟を掴めば、冒険者の男はぎょっとした。後に、無防備に自慢するな!と説教された。
「おまっ!それ」
「それに!私は武器なんていらんし!ほら、倒すんならもっと離れて!」
「離れるってお前」
男はハッとしたように、仲間たちにも離れるように指示をだした。いつのまにか、他のみんなもすくわれたようだ。て、お嬢、まさかの流鏑馬ですか!
「いけるのか!?」
「ハッ!誰に向かって言ってんの?」
笑い飛ばした。この体内を迸るうずうずして止まらない激動を。
「雷針!」
「雷使いか!」
右手を天に翳し、人差し指を貫けば雷雲が渦巻く。
男が慌てたように、仲間へ耳を塞ぐように指示を飛ばす。
「神の雷を浴びろ、『落雷!』」
天を裂く雷が、まるで神の剣のように落ち、それは真っ直ぐ意志を持つかのようにサーソリに直撃した。
これぞ、まさに天災。
「ばっきゃろー!」
ただいま砂漠のど真ん中、いや端っこで正座させられているのはセフィロトの守護者、湊です。
「すみませんでしたぁ」
「こんなとこであんな大業使うなんて何考えてんだ小娘がっ!」
「だって!久々だったんだもん!めっちゃ気持ちよかったです!反省してます!」
「嘘つけ!」
ガミガミ怒ってるのは、私をすくい上げた冒険者の男。日本では見ない鍛えられた体に焼けた肌。彫りの深い顔に、無精髭。両腰に無骨な剣を帯刀している。このパーティのリーダー、アザランさん。
ちなみに自己紹介を済ませて、私以外はみんな和気あいあいとお話している。
なぜ、私だけ。やっつけたの私なのに。
「んな顔しても許さねえ」
「ぶふっ」
膨れっつらを掴まれて、むにゅっとなる。大人げない大人である。
「いやぁ、それにしてもお嬢さん素晴らしい弓の使い手だね」
「恐れ入ります。まぁ、昨年インハイに出場したと言っても分からないでしょうけど」
「そうそう!お嬢!すごかった!見事に関節きめてた!」
「ほほほほ!父が流鏑馬の名手ですの」
めっちゃお嬢様言葉になってるけど、まじ凄かったから尊敬。武器は弓を持たせよう、うん。
「で、お前らどこ向かってんだ」
やれやれとアザランさんが聞いて、私たちはそろって緑の森を指差したのだった。
「それにしても揃って糸族の外套を着てるとは」
パッカラパッカラと馬を走らせて、親方様が言っていた砂の海終焉の町に向かっている。
久々の馬さん可愛い。栗毛色の馬の頭を撫で撫でしながら、アザランさんの話を聞く。
ちなみにお嬢は馬も乗れるらしく姿勢正しく横座りしている。南ちゃんは、ゆらゆらしていて一緒に乗っている冒険者さんがハラハラしている。そこは、もっとがっしり掴んでやって下さいよ。
男子二人は、小柄の冒険者さんと三人乗り。窮屈そうだが楽しそうに話している。馬さん、三人も乗せて大丈夫かな。小学生の時は三人ぐらい乗ってたけど。子ども体重だったもんな。
それに。
ちらりと後ろを見れば、ずるずる引きずられているサーソリーの体の一部。四頭が同じように引きずっている。
サーソリー食べるらしい。殻は素材だとか。
毒は尻尾とハサミをだけだから、他は食べられるって。ハサミの毒も貴重らしいから、あとで薬師と一緒にまたくるらしい。
私は前を向き直してまた撫で撫でした。馬さんが機嫌良さげに「ヒヒーン」と鳴いた。うむ、可愛い。