武器屋のダックスフンド
やってきました武器屋さん。
今までのお店で一番大きいお店だ。屋根に大きな剣と銃がバッテンで飾ってある。防具屋さんも魔道具屋さんも扉の上にマークがぶら下がってるだけだったのに。
入り口の扉も、店主の大きさに関係なく誰でも通れるような両扉。冒険者がひっきりなしに出入りしているし、繁盛しているようだ。
お店に入るとイヨが「こっちだよ」と剣の売っている場所まで案内してくれた。
「イヨさんもよく来るの?」
「ううん、僕はそんなに。アザランと一緒にたまーに来る程度かな。あ、でも僕のこの薬草採取用のナイフはここで買ったんだよ」
イヨは、ほらっと腰を見せてくれた。
腰には小さいナイフと大きなナイフが差してある。小さい方が薬草用で大きな方は護身用だろうか。ドワーフとハーフなだけあって、手はがっちりしている。ぽやぽやしている印象からモンスターを屠っている姿はあまり想像できないが、サーソリーの毒を率先して採取しに行ったあたり、優秀な薬師なのだろう。
「ミナトさんには、この辺の剣とかどうかな?」
持ってみせてくれたのは女性向けの華奢でキラキラした装飾の剣だった。うむ、どっちかというなら私は、と手を伸ばしたところで店の店員さんがやってきた。
「イヨ、いつからお前はうちの店員さんになったんだ?」
「ダックス!」
ぶふっ。
思わず噴き出したことを許して欲しい。だってこの店員、犬獣人さん。垂れ耳に、短足のダックスフンドそっくりなんだもん!
「なんだアザランは一緒じゃないのか?」
「うん、今日はミナトさんの案内役なんだ僕」
「ミナトさん?」
えっへんと胸を張ったイヨに、ダックスが眉をしかめてミナトを見た。ふーんと顎に手を当ててミナトを眺めたと思えば、ミナトが手を伸ばそうと思っていた剣を手に取った。
「お嬢さんには、そんな見せびらかし用の剣よりもこっちの方がお似合いだろうよ」
そう言って差し出したのは無骨な剣だ。鞘は飾り気一つないが、実用性に特化した剣なのだろう。ミナトはその剣を受け取って、スッと剣を引き抜いた。剣を正面で立てて、刃を眺める。
よく切れそうな剣だ。でも少し重たいかな。それに両刃っていうのがなぁ。
店内の剣ゾーンをぐるりと見渡したところミナトが愛用してたような剣はないようだし。
「なんだお嬢さん、片手で持つつもりか?」
「え?はい」
「男なら問題ないだろうが、お嬢さんが片手で持つには重たいだろう」
なるほど、ダックスはどうやらミナトが両手剣の剣士だと思ったのだろう。それならば、この重さと長さの剣を勧めるのも頷ける。
「私、短刀の二刀流なんです」
「なるほどな、したら刃も長いな」
ダックスは、「それならこっちだ」と別棚を案内してくれた。イヨが「二本持つならアザランと一緒だね」と可愛らしく見上げてきた。
うん、可愛い。
年上なのに思わず頭を撫で撫でしてもイヨは慣れているらしく、特に嫌がるそぶりもなく受け入れていた。
「この辺の短刀が二本で一対になってる。あっちの短刀を二本選んでも良いぜ」
お礼を言ってミナトはまず、二本で一対になっている剣から見ることにした。
どれも西洋っぽいデザインだな。まぁ、特別こだわりがあった訳じゃないし。私、武士じゃないし。
おもむろに一対の剣を手に持ってみる。
「あれ?」
「ん、どうしたお嬢さん」
「いや、なんか」
短い?
持っていた剣を戻して、違う剣も持ってみる。それを何回か繰り返して、腕を組んだ。
どれも短く感じる。なぜ?
「短く感じる?」
ミナトが感じたことをダックスに相談してみると「短刀と言えば大体はみんなこの長さなんだけどな」と耳をぺたんとしてしまった。いや、ダックスフンドの耳なので元々ぺたんとはしているのだけど、何故かしょんぼりしているように見える。
「今までどんな剣を持っていたんだい?」
「えっと、ム」
しまった。防具屋のドワーフ爺さんに、無闇矢鱈に国宝級の剣を使っていたなんて言いふらすもんじゃないと言われたんだった。
「「む?」」
イヨとダックスが二人揃って首を傾げた。
おっふ、可愛いがすぎるぜ。
ニマニマしてしまう口を引き締めて、何て言おうか考える。
今まで、今までね。そもそも剣とか数年ぶりに、あ。あーそういうことかぁ。
あちゃーとミナトは頭を抱えた。
「おいおい、大丈夫かい?」
「あーすみません。私、剣持つの久しぶりなんです」
「久しぶり?」
「ざっと七年振りくらい」
「七年、見たところお嬢さんは人族だよな?」
「えぇ、もちろんです」
ダックスは「そりゃあ体格が変わってるだろうよ」と呆れた。
その通りなのである。剣の長さなんてオーダーメイドでない限り、基本の長さが決まっているもんだ。子どもの頃に持っていた短刀が短く感じるのは当たり前。子どもだったから短刀の長さでぴったりだったんじゃん。
あの時の感覚で剣を扱うなら、短刀よりも脇差ぐらいで丁度いいのかもしれない。
「短刀持ちだと言ったからこっちのエリアに案内したんだが」
申し訳ない気持ちでダックスの後に付いて行くと、そこは今まで案内された棚の中で一番賑わっていた。
「片手剣は冒険者に一番使われている剣だな。城の騎士やどっかの流派に師事してた剣士でない限り、両手剣を持っている奴は少ないよ」
ダックスの言っていた通り、西洋風の片手剣がズラリと並べられており剣エリアの半分を占めているようだ。
「女だし、軽めの方が良いよな。あんまし軽すぎても重心が心もとないか。いや久しぶりつってたか」なんてブツブツ言いながら、ダックスは目をキラキラさせながら並べられた片手剣を吟味し始めた。
イヨがツンツンとミナトの外套を引っ張りながらコソッと教えてくれる。
「ダックスは元々冒険者で、片手剣持ちだったんだよ」
「なるほど」
自分の得意分野という訳か。ここは、お任せしよう。
「これなんてどうだ?」
ダックスが手渡してくれる剣を受け取っては、ちょっと重いとか、ちょっと長い、今度は短いかも、装飾が、なんて返す。ダックスは、「お嬢さん、なかなか手強いお客だね」と顔を引き攣らせて、「んじゃあこれは?」とちょっと投げやり気味に剣を渡してきた。
「お」
「マジか」
渡されたのは棚の隅に飾られていた剣。シンプルもシンプル。装飾一つ付いてない、柄と刃と鞘があるだけ。軽く見えるそれは見た目通り軽い、が手にしっくりくる重さもある。剣には詳しくないし、特に拘りもない。ただ、しっくりくるかこないかの感覚だけ。それがぴったりだと言っている。
「これにします」
「ちょ、ちょっとお待ちを。それは売れ残りで、あ、研ぎます!研ぎ直しますんで!」
パッと口を押さえたダックスをじろりと見れば、慌てたように言った。言われて刃を見れば確かにくすんで見える。
「じゃあサービスでよろしくお願いしまぁす!」
「あ、こら、イヨ!」
「それくらい当然でしょ!残り物なんだから!」
人差し指を立ててビシッと言うイヨに、ダックスはがっくしと項垂れた。耳も尻尾も垂れてしまった。
あ、耳は元からか。
結局、二刀流なのに気に入った剣は一本しかなかった。
「一本で良かったんですか?」
イヨの言葉にミナトは「うん」と頷く。
二刀流も別にこだわりがあった訳じゃないんだ。元々一本だったところにもう一本貰った剣が気に入ったから、二刀流カッコイイじゃん!程度の気持ちで始めたのだ。
「ふふ、明日が楽しみですね!」
うん、楽しみだ。外套にマジックバック、防具と剣が揃えば冒険者の完成だ!




