服屋に行こう!
服屋に行く前に現金を引き出さなきゃ。
財産没収されてませんようにって祈りながら、冒険者ギルドへ向かう。制服姿はやっぱり目立つから、早く着替えたい。みんなも同じ気持ちなのか自然と足早になっていた。
「あら!昨日の!」
「あ、うさぎのお姉さん」
ギルドの扉を開けたところで、ふわふわな白いうさ耳のお姉さんがいた。たくさんの書類を抱えている。
新しい依頼書かな?
「お手伝いしましょうか?」
「いえいえ、大丈夫ですよぉ。今日はどのようなご用ですかぁ?」
よいしょと抱え直したうさ耳お姉さん。
「えっと、お金を引き出したいんですけど」
「ああ、それならあっちの受付になりまーす」
白い耳をぴょこんと曲げて方向を指してくれる。なんて素敵なお耳。
「ありがとうございまーす」
お礼を言って、ぞろぞろと口座カウンターへ向かう。
「すみませー、はっ!ね、猫耳!」
「猫耳!はっ、さ、触りたい」
伸びてる先輩の手をパシンとお嬢が叩き落とし、そのまま後ろに下がらせる。お、お見事である。
「はは、すみません」
「いえ、獣人を見るのは初めてですか?」
猫耳お兄さんは気にした風もなく笑って対応してくれた。
「あはは、えぇ、まぁ」
「この辺は、多いみたいですからねぇ」
はいっと差し出された水晶板。
そうそう、これにカードを挿してと。
「残高を確認して下さい」
「はい」
水晶板に映し出された文字は、自分だけに見えるようになっている。
えーっと、残高は。
「え」
「どうされました?」
「あ、い、いえ何でも」
ひえー。びっくりする額が入ってる。子どもだったから、お金とか全然気にしてなかったからなぁ。使うのも買い食いとかお菓子にばっかりだったし。
引き出し金額をピッポッパッと打ち込む。
お菓子や食べ物の金額なんてたかが知れてるし、防具や武器は貰いもんばっかだったからなぁ。
「それではこちらになりますね」
「はい、ありがとうございます」
皮袋にこんもり入ったお金を受け取った。
重い。嬉しい重さだけど、マジックバックを持っていない私にはちょっと負担である。
服を揃えて、さっさとマジックバックも買わなきゃ。
みんなも自分のお金を引き出して、満足そう。
初期費用てそんなに貰えるのかな?
皮袋をチャラチャラ鳴らしてうさ耳お姉さんに紹介された服屋さんに向かう。女の人に人気のお店らしいと聞いて、心なしか女子はワクワクしている。なんたって町の人たちの服がアニメやゲームの中の衣装みたいだから、期待しちゃうよな。
「女はどこにいても買い物が好きっすねぇ」
「ははっ、確かにね」
男子二人は後ろから付いてきている。東雲は早速買い食いした串肉をもぐもぐしていた。
「ここじゃない?」
「ラビットショップ、ここみたいですね」
うさぎさんの看板がぶら下げられた服屋さんだ。うさぎ?
「ごめんくださーい」
中にはずらりと並べられた服。入ってすぐは女性物。奥に男物もあるようだけど半分以上が女性物のようだ。
「いらっしゃませー」
「「「「「あ」」」」」
出てきた店員さんに、みんなの口が揃う。
うさ耳さんだ。
「えっと?」
うさ耳を傾げる姿がギルドのお姉さんそっくりである。丸い大きな眼鏡をしていて、スタイル良しのギルドのお姉さんよりも小柄で可愛らしい印象だ。
「もしかして冒険者ギルドの受付の方とご親戚だったりしますか?」
先輩が目をキラキラさせて尋ねてる。
「ええ、妹です。あ、あの子ったらまた実家の服屋を紹介したのね。まったく!」
「あ、いえ、僕たちこの町に初めて来たので教えてもらって助かりました」
「そお?まぁ、物は良い物ばかりだから、ゆっくり見てってね」
「はい!」
先輩デレデレだね。
「先輩ケモミミフェチなの?」
「え?そういうわけじゃないけど、ケモミミってロマンでしょ?」
ロマンかぁ。
良い顔でロマンを語る先輩に、湊は顔を引きつらせたのだった。
「見て。これなんて素敵じゃない?」
「良いけど、動き辛くない?」
「そうかしら?」
お嬢は、持っていた服を戻した。
「あのぉ、これはどうでしょう?」
「うーん、ちょっとヒラヒラが邪魔な気がする」
「そうですか」
南ちゃんも、見せてきた服を棚に戻す。
さっきからこれの繰り返しである。ちなみに、私は既に購入して着替えも済ませている。男子もだ。
「ちょっと、あなたファッションに興味ないの?その服、男子たちと変わらないじゃない」
「うーん、そんなことないけど。ただ、これから冒険者するってわかってる?初期費用がどのくらい貰ったのか知らんけど、あまり余計なお金は使わない方が良いと思うし。クエストで稼げるけど、最初は日銭程度だと思うよ?」
お嬢さまは、ぎくりと言葉に詰まって俯いた。
そうなのだ。オシャレよりは、まず生きることである。まだ実感してないんだろうな。男子たちのがよっぽどその辺は物分かりが良い。アニメやゲームのおかげかな。
「まぁまぁ、女の子だもの。冒険者だってオシャレしなきゃね。ねぇ、あなた武器は?」
見かねた店員のうさ耳お姉さんがアドバイスをくれるようだ。
「えっと、たぶん弓です」
チラッと湊を伺いながらお嬢さまが答える。
たぶんて。
「まぁ、素敵ね。そちらのあなたは?」
「え!わ、私ですか!?わ、私は」
南まで湊を見る始末。
「お姉さん、近くに防具屋さんある?」
「防具屋?それなら一本裏通りを入ったところに、防具屋って看板が掛かってるお爺さんがやってるところが良いわよ。偏屈なお爺さんだけど、この町で一番だから」
「ありがとうございます。お嬢に南ちゃん、私たちは先に防具屋さん行ってるから。お姉さん、そっちの黒髪の子は弓使い、甘栗色の髪の子は、たぶんヒーラーとかだと思います。防具は別で揃えるので、インナーだけで。あと靴も防具屋さんで買いますから。あ、男子二人とお揃いの外套を二人にもお願いします」
「わかったわ。外套は防具屋さんじゃなくていいの?」
「はい、いざという時の防御力高いものは持ってるので」
うさ耳お姉さんは、湊の纏っている外套を見て納得したように頷いた。
「なぁ、ミナト先輩。女子たち置いてきて良かったんすか?」
「いやだって、長くない?服買うのにどんだけ時間かけてるの?」
「女子ってあんなもんじゃね?うちの姉ちゃんも超長ぇし」
「へぇ、でも時間の無駄だし。私、防具揃えたいし」
「ふはっ!ミナト先輩、自分の欲求に正直!」
東雲がお腹を抱えてゲラゲラ笑った。
「というかミナトさんだけ、その外套着てるのずるくない?」
「先輩、私強いので」
「俺たちじゃ追い剥ぎ遭うもんなぁ」
東雲、よくわかってる。
「二人とも急に名前呼び?」
「え、だってこっちでは名前でってミナト先輩言ってたじゃん」
まぁ、言いましたけど。
照れてポリポリ頬を掻く姿が面白かったのが、二人に笑われた。
次は、防具である。あとマジックバック!




