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二度目の異世界渡り  作者: 723
帰還編
10/15

宿屋の砂ねこ屋

 アザランに案内されて到着したのは砂色の猫の看板がぶら下げられた宿屋。メイン通り沿いにあって、冒険者ギルドよりも門に近い。客の目に付く素晴らしい立地だ。

 カランカランと鈴を鳴らして扉を開ければ、「いらっしゃい」と優しい声が招いてくれた。お母さんみたいな声だと南がポツリと零した。そうだね、って思わず言ったけど私は、おばあちゃんの声だなって思った。


 「アザラン、珍しいじゃないか。うちに何かようかい?」

 「おかみ、部屋空いてるか?こいつら宿屋探しててよ」

 

 ポンッと背中を押されて湊は、ちょっと慌てて頭を下げた。


 「こんにちは、部屋空いてますか?」

 「おや、こんにちは。ちょっと待っててね」


 女将は、エプロンに引っ掛けていた老眼鏡を掛けて、カウンターに置かれた台帳をペラペラと捲った。


 「綺麗そうな宿ね」

 「高ランク冒険者が勧める宿屋だからハズレはないと思うよ。お値段が心配だけど」


 お嬢は、店内を見渡してホッとしたようだ。生粋のお嬢さまなのだろう。それでもサバイバルで生きていく胆力もある。強い子だなと湊は改めて思った。


 「そうね。そう言えば、冒険者ギルドギルドカードもらった時に初期費用?だって幾らか貰ったんだけど、単位が分からなくて」

 「あ、そうか。さっきはアザランに奢って貰っちゃったしね。私覚えてるから後で教えるね」

 「助かるわ。ギルドカードがキャッシュカードの代わりにもなってるって聞いたんだけと、そっちも使い方分からなくて」

 「それなら」

 「ミナト、二部屋空いてるってよ」

 

 アザランに呼ばれ、お嬢にちょっと待ってと伝えて女将とアザランの側に近寄る。


 「男女で分けたいんですけど。女三人で一部屋泊まれますか?」

 「ベッドは二つしかないけど、簡易ベッドが空いてたはずだからそれでも良いかしら?」

 「助かります」

 「食事はどうする。朝は宿泊とセットで付けられるわよ。夕食はその日の朝のうちに伝えてくれれば準備できるわ。昼は基本はみんな外で食べてくるわね」

 「朝食セットでお願いします。部屋にお風呂はついてますか?」

 「お風呂?あぁ、シャワーなら各部屋ついてるわよ。バスタブもあるけど、少し時間がかかっても良いならお湯用意しましょうか?」

 「大丈夫です。自分でできるので」


 魔法で貯めちゃえば楽勝である。それを読み取ったのか、女将はちょっと驚いた顔をした。


 「こいつ、こう見えてすげぇ魔術師なんだよ」

 「あらあら、まぁまぁ」

 

 こう見えてって酷いなぁ。

 むすっと頬膨らませたら、むにゅっと潰された。女将に、クスクス笑われた。


 「あと、こいつら着替えもなくてよ、部屋着で良いから貸してやってくれや」

 「部屋着ね。じゃあタオルも人数分必要ね。あとは、宿泊はどのくらいする?」

 「とりあえず一週間で」


 「え、そんなに?」と北里先輩が首を傾げた。北里先輩の肩には限界を越えた東雲が涎を垂らして寄りかかってる。


 「うん、とりあえず。先輩たちは色々説明しなきゃだし。仮免も二人いるし」


 たった三日だったが、疲労を回復する必要があるだろう。それに、安息の地に辿り着いたことで思考が冷静になって色々と思い悩むことも出るはずだ。既に湊の中では、目標は王都へ向かうことだと決まっているが、仮免二人抱えて旅をするのは辛い。一週間では短いぐらいだが、ここで一ヶ月契約などしたらその期間元の世界に戻れない現実に直面するだろう。疲れ切っているみんなに追い討ちを駆ける必要はない。


 「前払いになるけど大丈夫かい?」

 「あ!現金持ってなかった」


 ギルドで引き出しておけば良かった!さっきお嬢と話してたのに!

 ちらっとアザランを見る。


 「いや、さすがに俺も持ち合わせてねぇよ」

 「うー、じゃあもう一回ギルドに戻って」

 「あぁ、いいよいいよ。アザランの紹介だ。明日ギルドで引き出しておいで」

 「いいんですか?助かります」

 「ははっ、そっちの子たちは、もう限界みたいだからね」


 主に、東雲と南ですね。はい、すみません。

 

 「ギルドカードには金入ってんのか?」

 「え、多分。そのままになってれば」


 え、財産没収とかされてないよね?

 アザランの言葉にちょっと不安になってきた。明日、早急にお金の確認しに行こう。


 「神山さん。部屋着とタオル預かったわ」

 「あ、お嬢ありがとう」

 

 眠たくてぽやぽやしている南を、お嬢が「ほら、しっかり歩きなさい。シャワー浴びれば寝れるわよ」と促している。シャワーは絶対浴びせるようだ。

 男子二人はアザランに首根っこ掴まれて二階に引きずられて行った。あれは、そのままベッドコースだろう。



 案内された部屋も質素だが清潔感のある部屋だった。

 

 「南さん、あなた先にシャワー浴びて来なさい」

 「え、でも」

 「お先どうぞー。寝ないように気をつけてね〜」


 順番待ちしている間に眠ってしまいそうな南を先にシャワーへの向かわせた。

 部屋についてる一つだけの窓を開け放てば、少し砂の香りが混じった風が入ってきた。


 「ふぅ」

 「ふふ、お嬢さまもお疲れさま」

 「あなたもね。ほんと疲れたわ」

 「ゆっくり休もう」


 ゆっくり眠って、よく食べて、現実を受け止めたら、これからのことを話そう。

 だから今日は、もうシャワーを浴びて眠ってしまおう。

 あぁ、疲れたな。

 足もパンパンで怠くて仕方ない。


 あぁ、だけどなんて心地いい疲労感。

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