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短編・季節もの

前髪アイデンティティー

作者: 鵠っち

 今日もまた一段と寒くなった、夕方の通学路。寒くは感じるが、今年は例年よりも気温が高いらしい。信じられない。

「タケったらなに難しい顔してんの?」

「うわっ! ユキか。びっくりさせんなよ……」

「そんなことより、マフラーって便利よね。喋っても髪が邪魔にならないから喋りやすい! 冬サイコー!」

 いつの間にか俺の後ろに立っていたのは、何年か前からご近所さんのユキ。なんだか声がこもっていると思ったら、マフラーを口元まで巻いている。前髪が長くて、いつもは風が吹くと髪を食べながら話しているようだが、マフラーがあるおかげで髪が口に入らなずに喋れている。喋りにくそうなことには変わりないが。

「おまえ、それは……」

「前髪切れって言うんでしょう? 人のアイデンティティーを何だと心得てるの」

「確かにユキの特徴ではあるけどさぁ……」

 ユキの大きな外見的特徴のひとつではあるが、それだけではないと思う。かといって、具体的に『何が』というのは分からない。

「実をいうと、前髪邪魔ではあるんだけどさ、慣れ親しんだ、こう、なんていうのかしら? なくなるのが怖いのよね……」

 それは、十数年も伸ばしてきた前髪をばっさり切ってしまうのは勇気がいることだろうとは想像できる。俺だって、三年使っていたシャープペンが壊れた時にはショックだったものだ。

「でもさ、最近思うのよ。私は別に不細工なわけじゃないんだから、顔が隠れてるのって、ちょっともったいないんじゃないかなって」

「まあ、不細工な人ってそんなにいないけどな。たいていは人並み、平凡、中庸だろ」

「それはさすがにデリカシーがないっていうかさ、ちょっとは気の利いたこと言ってくれないの?」

「うん、かわいいかわいい」

「なによそれ」

 確かに、デリカシーがないというのは反省するべきかもしれない。でも、普段どんな表情をしてるかよく分からないのは、ちょっとマイナスなんじゃないだろうか。

「まあ、かわいいって言われて動揺してるのは、仕草に出てるから、分かるっちゃわかるんだけどさ」

「え、私ってそんなに分かりやすいことしてるの?!」

「うん、すごい分かりやすい」

 そりゃあ、不自然に体を近づけてきたり、指先をちょっと遊んでたりすれば……ねえ。見てて面白いから教えてあげないけど。

「表情で伝わらない分、自然と身に着いたのかもしれないし。そんな感じだと表情もコロコロ変わっててかわいいのかもしれないけどさ」

「も、もうっ! あんまりからかわないでよね!」

 髪の隙間から一瞬見えた頬がちょっと赤く見えたのは、寒さからだろうか? 照れからだろうか? そんな想像をさせられるユキの前髪は、やっぱりアイデンティティーなのかもしれない。

 2018年もあとわずかです。みなさん、後ろ髪を引かれることのないよう、一年を締めくくりましょう!

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