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Mijloc

幻想郷 ___ それは、この現実と平行に存在するもう一つの世界。

自然があり、何処か日本的で、或いは欧州的。そんな世界だ。

そして僕は、今そこに居る。


確かに、こんな文面では伝わらないと思うが、何というか、空気と言い景色と言い、全てが澄み渡り、同時に透き通っている。

木々からは時折木漏れ日が差し込み、鳥の囀りさえ聞こえる。


「さて、あなたの家はもう少し下ね。ここからは歩いて行きましょう」


雄大な景色に見とれていると、後ろから声が掛かった。

彼女曰く、此処は妖怪の山と言うらしい。

しばらく歩くと、後ろから葉が揺れ合う音がした。

それに気づいた時、背後からそれらが近づきつつあった。

「曲者、早く立ち去れ」

「えっ」

「ちょっと、貴方達。私達は怪しい者では無いわ」

「誰だ、名乗れ」

「八雲紫よ。此方は連れね」

「そうか、失礼した」


「あの人達は誰ですか?」

「この山を警備している白狼天狗よ。ここらは治安が良く無いから、侵入者にはデリケートなのよね」

「そうですか」


麓に着いたのは、その日の夕方だった。

「ご苦労様。後少しで貴方の家よ」

「あの、僕の家族って、一体誰ですか?」

「あっ、それを言っていなかったわね」

「…」

「貴方の家族はね。もう居ないわ。まあ最も人間だから」

「…でしょうね」

「気を落とさないで。と言うか、前世の記憶が残っていたの?」

「いいや、勘です」

「苦しんで死んだわ。不治の病でね。毎日血を吐いて、身体中で病が暴れまわっていた」

「誰がですか?」

「誰もがよ」

「その頃はここに病院と言う概念が無くってね。それが出来たのも、つい10年程前なの」


山を降り、辺りは完全に真っ暗になった。

「さぁ、あと少し。ここを真っ直ぐ行けば貴方の家よ。私はここまでしか着いていけないわ。これで、何か美味しいもの食べなさい。」

そう言って、彼女は少しの小銭を手渡した。

「あ…ありがとうございます」

少し歩いて、ようやく外れの方に出た。林の方から視線を感じるが無視して進む。

周りを確認し、また歩き出した。


が、3歩目で、僕はそれに出会ってしまった。



「…?」

「気づいた?」

「ここは…」

「ふふっ、暗いでしょう」

「誰?」

「この辺で知らない人は居ないよ。もしかしてあなた、外の世界の人?」

「多分…それより何処?ここは」

「私の作り出した闇の中。あなたは私の夕食よ」

「え、食べるの?」

「そうよ。だって、一ヶ月ぶりの獲物よ。あなたも随分馬鹿だね」

「待てよ、僕は不味いぜ」

「食べてみないと分からないわ」


僕はポケットにガムが有ったことを思い出した。

「こっちの方が美味しいさ」


そう言って、僕はガムを差し出した。

「ふぅん。一つ貰うわ」


彼女は包みを開けると、板状のそれを口へ運んだ。

「何これ、甘い。そして…辛い!」


「まだまだ子供だね。美味しいのに」

僕も一つ口に放った。


「うぅ…辛いな…。水が欲しいわ」

「僕を解放してくれるなら、水を汲んできてやるよ」

「あなたがこんな物を食べさせるからよ!」

「僕はそう押し付けた訳では無いし、自分から取って行ったじゃあないか」

「くっ… 仕方ない。早めにね」

僕は近くの川から水を汲み、彼女に飲ませた。

「うわっ、辛さが増した!」

「この清々しさが売りなのに」

結局、彼女は僕を置いてどこかに行ってしまった。


気がつくと外は真っ暗だった。

時刻は午後6時ごろと言ったところか。

生憎手元にランプも無い。

暗い夜道をゆっくり踏みしめて行く。

しかし疲れからか、瞼が重く、意識がぼんやりとしてきた。

結局その日は、近くの木陰で一夜を過ごした。


後日、漸く家に着いた。

そこには、二つの真っ黒な塊と、埃被った端子に卓袱台。

黒い塊はよく見たら死体だった。

居間の畳は廃れ黴が辺り一面に。

箪笥には服と呼べるのかも怪しい黝ずんだ麻布が詰め込まれていた。

奥には土間があり、モルタルの塊の上に焜炉が。隣には流しがあった。

流しには食器が積み重なり、又、焜炉は埃と煤で汚れていた。

そして、僕はここが本当に僕の家なのかと、もう一度考えた。

僕は音を成る可く立てずに引き戸を閉め、その場から逃げるように立ち去った。


人里をぶらぶらと歩き回っていると、一軒の食堂を見つけた。

丁度腹も減っていたので、何か食べようかと中へ入ることにした。

「いらっしゃいませ!」

中には、女将と数人の客。

しかし、僕以外は人間では無いようだ。

僕は「家」が、何故あの様な有様なのか、女将に尋ねてみた。

「ごめんなさい、私は行ったことないの。でも、きっと紫さんなら知っていると思いますよ」

「ああ、あの結界の人?」

「ええ。でも滅多に逢えないの」


適当に定食を食べ店を出た。

そして、もう一度、あの家に出向いた。


その家に着いたのはその日の正午を少し過ぎたくらいか。

今朝とは違い、少し日が入り明るい。

僕は、腐乱臭を我慢しながら中を探索した。


玄関からは見えなかった居間の柱には、時計とカレンダーが掛けられていた。

時計の時刻は夜中の2時31分で止まっており、又、カレンダーは1月12日となっていた。


1月12日…


僕は思い出した。

その日何が有ったか。


僕はその日の夜中…

記憶が蘇ってきた。

鮮明に。


鮮血。

鉄錆の臭い。

懺悔。


よく見ると、畳には黒く変色した血飛沫が見えた。


そう。僕は、彼らを、殺した。

あの黒い塊は…人が腐敗しきった物。

動機は…思い出せない。


しかし何故、放置されているのか。

少なくとも、あの人ならば知っている筈なのに。



その日、僕は店の女将の家に厄介になり一夜を過ごした。

寝ずにずっとその時の記憶を思い出そうとしていたが、無駄だった。

僕は再度、紫を訪ねようと思った。


外は良く晴れていて、如何にも散歩日和と言った天気だ。

僕は女将に教えてもらった場所を頼りに歩き始めた。

疲れたら休み、喉が渇けば水を飲み、と言った具合にゆっくり歩いた。

昼過ぎに漸くそこへ着いた。

そこはやけに広い造りの平屋で、如何にも庶民的な家だった。


引き戸をコンコンと叩き、彼女を呼んだ。


「紫さん、僕です。いらっしゃいますか」

すると、ガラガラと音を立てて戸が開いた。

「どちら様ですか」

「紫さんに連れてきてもらった者ですが」

「御主人様は今、御休み為さってます。どうかお引き取り願います」

「そんな、急用なんです」

「そうですか…。ならば、少々お待ちを」


少しすると、紫が出てきた。


「あら、こないだの」

「お世話になりました」

「悪いわね。私寝てたの」

「そうなんですか。随分遅くまで」

「体質よ」

「ところで、ちょっとお話したい事がありまして」

「何かしら?」


僕は気になっている事を打ち明け、答えを待った。

その間に茶と菓子まで頂いてしまった。


「この事は絶対秘密。言っちゃダメよ」

「あ、ええ」

「顔、見た?死体の」

「いいえ」

「真っ黒で分からないかも知れないけれど、不気味な模様が描かれた布が被さっているわ」

「それが、どうかしたんですか?」

「まさか、取ってないでしょうね」

「取るもなにも、怖くて無理ですよ」

「なら良かった。あれは私が被せたの」

「何故ですか?」

「あの事件が起きて翌日に私は出向いたわ。腐った様な匂いの中で人影が見えたの」

「亡霊?」

「いや、厳密に言うと概念ね」

「殺された憎しみ、と言う概念?」

「そうね。それを封じる為に被せた」

「何か悪さをするのですか?」

「ええ。概念自身が他人にその概念を植え付けるのね。あなたはその概念に乗っ取られた赤の他人に殺される所だったのよ」

「でも、僕はそれ相応の事をした。これは定めではないのでしょうか」

「あら、でもそうだったら私が閻魔様に叱られている筈だわ」

「じゃあ、何で…」

「動機は思い出せないの?」

「全く…さっぱりです」


その時はまだ、もう一つ、悲惨な事件が起こっていた事を僕は知らなかった。


後編はまったり書きます

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