デパートの雑学
昼食を終え三人はデパートにやって来た。
この町では1番大きく、多くの人が行き交っている。
普段外に出ない津楽は、人混みを見た瞬間帰ろうとしたが、半ば強制的に一ノ瀬に連れてこられた。
「何買うのか知らんが、早く買って帰ろう。で、どこに向かうんだ?」
「え?決めてないけど。今から回っていいものがあったら買うんだよ」
「そっか。なんかあったらいいな。んじゃ」
「どこに行くのかな!」
「ぐぅぇ!?」
流れるように帰ろうとする津楽を一ノ瀬は襟を掴み力尽くで引き戻す。
霧崎は「諦めなさい」と一ノ瀬に手を貸して何やら楽しそうな笑みを浮かべる。
そんなやりとりの後、三人は化粧品コーナーに来ていた。ただ、化粧品コーナーというのもあり、津楽は退屈そうに買い物している二人を見ていた。
「なぁ、違うところに行かねぇか?」
「ちょっと待って、女の子の買い物は長いんだから」
「気の短い男はモテないわよ。まぁあなたの場合、問題は気の短さより腐りきった性根でしょうけど」
「勝手に腐らすんじゃねぇよ。だってさっきからずっと見てるだけで、全然買う気配がないんだけど。そもそも化粧なんかしねぇだろ」
「女の子はおしゃれに敏感じゃないといけないの!いつ使うかもわからないし」
「元が良いから当分大丈夫だよ」
「なーー」
津楽の言葉に一ノ瀬は赤面する。
それとは反対に霧崎は全然動揺することなく返す。
「確かに元が良いのは認めるわ。一番化粧が必要なのはむしろあなたかもしれないわね。あ、でも化粧で隠せるのは外見だけで中身は変わらないのよ。変な希望は持たないことね」
「希望なんか持ってねぇし、自分の性格に絶望してもねぇよ。なに?お前褒め言葉に対して毒しか吐けない呪いでもかかってんの?もしかしてお前ツンデレ?」
「私がいつデレたかしら。あなたが脳内でどんな妄想をしてるか知らないけど、幻想と現実くらい見分けてほしいわね。あと、褒め言葉に限らずあなたには毒しか吐かないわ」
「ねぇ……ちょっと……」
一ノ瀬が恥ずかしそうに話しかける。
津楽と霧崎は一ノ瀬の方を向いたあと周りを見渡すと周囲の人がこちらを見ている。
三人は恥ずかしそうにしながらその場を去った。
「もう、何で人目を気にしないかな!」
一ノ瀬はご立腹なようだ。津楽は「悪かったよ」と返すが「そもそも」と続けーー
「お前があんな所で時間を取るからだろ」
「だって目に付いたんだもん。気になるよ」
「まぁそれを狙ってるんだけどな」
「どういうこと?」
「デパートの一階に化粧品売り場があることが多いのは、出入り口が多いから匂いがこもらないようにするためなんだけど、それ以外に客は女性が多いから関心を示す効果があるんだ。それをきっかけに上の階に客を呼び込むのが狙いだ。これを噴水効果と言う。」
「へ〜説明長いね」
「まさかの批判!?」
少し津楽の扱いが分かってきた一ノ瀬だった。