ハロウィンの雑学
「ハッピーハロウィン! トリックオアトリート!」
放課後の雑学部。
いつものように一ノ瀬の声が教室に響いた。
本格的な仮装ではなく、猫耳をつけて津樂に上目遣いを向ける一ノ瀬。
思わず目を逸らした津樂は、
「はいはいハロウィンハロウィン」
「ちょっと何その適当な感じ。ハロウィンだよ。楽しく行こうよ。ね、霧崎さん! トリックオアトリート!」
話を振られたくなかったのか、黙々と本に意識を浸透させ、風景と一体になっていたが、一ノ瀬はそんな霧崎を見逃さない。
最初は津樂同様適当にあしらっていたが、一ノ瀬は何度もハロウィンハロウィンと話しかけ、霧崎はついに本にしおりを挟む。
そして、ついに意識を向けてくれたと嬉しそうにしている一ノ瀬に不敵な笑みをプレゼント。
「悪戯かもてなしか、ね。いいわ、悪戯してみなさい。出来るものならね」
案の定霧崎もハロウィンなるイベント。と言うよりはハロウィンと銘打ってはしゃぐ人があまり好ましくないようで、目が笑っていない笑みに一ノ瀬とついでに津樂も全身に悪寒を走らせた。
「おぉ怖い。そんだけ怖かったら仮装しなくても悪霊なんて寄りつかねぇな」
「あら、津樂君もいたのね。てっきり一ノ瀬さんに取り憑いている悪霊かと思っていたわ。デット・オア・ダイ。ハッピーハロウィンね」
「そのフレーズのどこにハッピー味があんだよ」
「まあまあ二人とも。お菓子でも食べよっか」
「結局一ノ瀬がもてなすのな。それにしても、テレビでよく見るけど毎年毎年馬鹿騒ぎしてよく飽きないよな。神聖な儀式をただ騒いで迷惑かけるだけのイベントにされて、ケルト民族の皆様は今頃泣いてるだろうなー」
「儀式……ケルト? なんの話? それにさっきも悪霊どうのって」
「何も知らずに騒いでたのかよ。ハロウィンってのはカトリックの祝日で、キリスト教の『万聖節』って言う聖人と殉教者の魂を記念する日の前夜に行われる祭りのこと」
「祭り? 儀式じゃないの?」
「ハロウィンそのものの起源はヨーロッパのケルト民族の宗教にある『サウィン祭』なんだ。夏の収穫を祝う行事で、同時に死者の魂が現世に帰ってくる日とされてる。死者の魂が帰ってくる時に悪霊も共に来るから身を守るために仮装するのが『サウィン祭』。これをカトリック教会が取り込んだわけ」
「ふーん、じゃあ日本で言うお盆みたいなもんなんだ」
「まあ、そゆこと」
「じゃあ張り切ってご先祖様をお出迎えしないとね!」
「いやそういう感じじゃ……ま、いいや」
因みに霧崎が持ってきたパンプキンケーキはとてつもなく美味かったそうだ。
ただ、これを食った津樂は霧崎がパンプキンケーキを持ってきたことに、
(意外に楽しみにしてたのか? いやまさかな)
そんな感想を抱きなが、ケーキを頬張った。