腹の雑学
「好きな食べ物って何?」
唐突に一ノ瀬が読書をしている二人に質問する。
すると、霧崎はちらりと一ノ瀬に目をやり、たった一言
「特にないわ」
友好関係を築こうとした一ノ瀬の問いに一瞬で終止符を打つ霧崎。そんな二人のやり取りを聞いていた津楽は手に持っている本から視点を変えることなく口を開き
「さすが霧崎さん。会話の続かなさにおいて右に出るものはいませんね」
「あなたへの不満ならいつまでも会話が続く自信があるわ」
「そんなことはまず愚痴る相手を作ってから言うんだな」
「あら、知らないの?今はネットという人の悪口を書き込んですっきりするという便利なものがあるのよ」
「お前、そんなことやってんの?」
「冗談よ」
目を合わせることなく皮肉をぶつけ合っている二人を見ていた一ノ瀬は空気を換えるように津楽の方に目をやり
「達也くんは好きな食べ物とかあるの?」
「俺は甘いものが好きだね。特に和菓子。疲れているときとか最高に美味く感じる」
一ノ瀬は津樂の返答に賛同するように両手を合わせ
「それ分かるーお腹一杯でもスイーツだけは入るよね。甘いものは別腹ってやつ」
一ノ瀬の言葉に津楽は手に持っている本を閉じて
「別腹って存在するって知ってる?」
「そうなの?」
津楽の発言に興味を示す一ノ瀬。それを見た津楽は手に持っている本を机に置き
「満腹の状態でも好きな食べ物を見ると脳の前頭葉が摂食中枢を刺激して食欲を感じさせるんだ。すると胃の活動を調整するホルモンが分泌されて、食べたものを小腸に送って胃の上部に空間を作るんだ。この空間が別腹という」
自慢げに話す津楽を一ノ瀬は「へぇ~」と頷きながら
「じゃあ、お腹一杯でも好きなものは食べられるんだ。なんだか嬉しいな」
関心している一ノ瀬に霧崎が隣から現実を叩きこむ
「そんな考えだと、急激に太るわよ」
先ほどまでの盛り上がった空気が嘘のように消えた……