クリスマスの雑学
「もうすぐクリスマスだねー」
「そうだな」
「そうね。一ノ瀬さん窓を閉めてもらえるかしら」
窓を開けて空を見上げる一ノ瀬に、二人の返事はとても淡白だ。
外から入り込む冷たい冷気よりも冷ややかな霧崎の視線を受けて、一ノ瀬は不満げに窓を閉める。
「もう二人ともなんか冷たくない? 冬休みだよ、クリスマスだよ、冬の大イベントだよ! クリスマスはみんなで集まろう見たいな気分にはならないの!」
「いや、もうクリスマスが楽しく感じる年齢じゃないだろ。そりゃ昔はさ、サンタのプレゼントを待ち望んでなかなか眠れない自分がいたよ? でももう貰える年齢じゃないしさ。そうなったらクリスマスの楽しみはもう無いだろ」
「クリスマスが物欲だけのイベントだと思ったら大間違いだよ!」
津樂に詰め寄って外の冷え切った気温に負けないほどに熱く語る一ノ瀬。
「プレゼントが無いのことを年齢のせいにするのは良くないわね。今後の為に教えておくけれど、サンタさんは品行方正に過ごしている人だけにプレゼントを渡すのよ」
「おいおい俺を勝手に親不孝者にするんじゃねぇよ。むしろ、まだ貰ってもいいくらいの好青年だぞ俺」
「いや……それはどうかな……」
「そもそも何故そこで親不孝かどうかになるの? サンタさんは常日頃の行いを見る人よ。親の前だけ好青年を演じても無駄よ」
「……は?」「……え?」
「…………何よ?」
霧崎の言葉に、津樂と一ノ瀬は同時に首を傾ける。
その反応に霧崎も懸念の表情を浮かべた。
そんな彼女に津樂は質問する。
「なぁ、お前今年のクリスマス、サンタに何頼んだ?」
「……ぬ、ぬいぐるみだけど……それがどうしたの?」
恥ずかしそうに告げる霧崎。
二人は彼女の前でサンタの話題は止めておこうと思った。
津樂と一ノ瀬の反応が何なのか気になる霧崎を置いて、一ノ瀬は思いついたように手を合わせて、
「そ、そう! 何もクリスマスはプレゼントだけじゃないよ。みんなで集まってワイワイするのも魅力の一つだよ。それにクリスマスと言えばイエス・キリストの誕生日。神様の誕生日はみんなでお祝いしないとね!」
「別にクリスマスはキリストの誕生日じゃないぞ」
「そうなの!?」
「そもそもキリストの誕生日は分かってないし。12月25日に祝っているのは太陽の復活を祝う冬至の祭りを取り入れたかららしい。それにクリスマスイブは日本独自の文化だし、海外はクリスマスは家族で過ごすものらしいぞ。それにクリスマスよりキリストが復活したとされるイースターの方が行事としては重要らしい」
「へぇ~。それじゃそもそもなんで日本ではクリスマスの方が有名なの?」
「日本でのクリスマスの始まりはフランシスコ・ザビエルがミサと言われる祭儀をしたことが始まりと言われてる。クリスマスの語源は英語で『ChristのMass』らしいしな。イースターが流行らないのは単に宣伝不足なんじゃないかって言われてる。よく分からん行事だし、年によってイースターの日は変わるしな」
「『ChristのMass』か……ん? クリスマスってX’masじゃないの?」
「XmasのXはギリシャ語でキリストを意味する『XPIΣTOΣ』から来てる。短さとか表記の見た目とかで使われだしたみたいだ。’の有無は間違いだっていうのと正しいっていうのがある」
津樂の説明に納得の表情を浮かべる一ノ瀬。
しかし、この部室には納得していない少女がいた。
「私を置いて勝手に話を進めないでもらえるかしら。二人ともさっきの反応の理由を説明しなさい」
「いや、それはその……ね、達也君!」
「俺に振るなよ……」
気になったことを追求せずにいられない彼女の性格が、一番面倒に感じた日だった。
補習授業〖XmasをX’masと表記するのは間違いについて〗
雪代「さて、この件は最近出番がない雑務学芸部顧問のこの私が担当するぞ。えー米国ではChristmasやX‐masと表記するそうだが、19世紀の英語文献でX’masと表記されていたり、Xがギリシア語の頭文字を省略している為に省略時に使う’の使い方としては間違っていないという見解もある。この’を家族や友人に指摘する際はしっかりと調べてから発言することをお勧めする。自慢げに指摘して論破された時の恥ずかしさはヤバいの一言だからな。では私は明日配布するプリントを雑学部の連中に手伝わさせないといけないから失礼する。今後も応援よろしく!」




