秋の雑学
「スポーツの秋、芸術の秋、紅葉の秋。いっぱいあるけどやっぱり一番は食欲の秋!」
そう言って一ノ瀬は弁当を平らげる。
時間は昼休み。生徒たちが四時間の授業を乗り越えた至福の時であり、これからの五、六限に向けて英気を養う時間でもある。
ここ、雑学部でも昼食をとっているところだ。
「にしてもよく食うよな。弁当だけじゃなく購買のパンまで」
「秋は食べることを許された季節なんだよ。達也君にもないの〇〇の秋的なの」
「俺は睡眠の秋かな。やけに眠いし」
「あなたが眠たそうにしているのは一年中でしょう。お迎えが近いのかしら」
「残念だがまだ不気味な川の夢は見ていない。んで、お前はどうなんだよ。なんかあんのか?」
「そうね……しいて言うなら読書の秋かしら」
「だろうな」
「だろうね」
霧崎の秋はそれしかないだろう。彼女の場合読書は趣味なところもあるが。
「はぁ、でも秋は食べすぎるからなぁ。後で取り返すのが大変なんだよ」
「食べなきゃいいだろ。って言いたいところだが、秋に食欲が増すのは日照時間が少なくなって満足感や安心感を司る“セロトニン”っていう神経伝達物質の分泌が減るかららしい。なんでもこのセロトニンは糖質や肉類の摂取、後は睡眠によって増やせるから、秋に食欲が増すのは足りないセロトニンを増やして精神を安定させようとするかららしい」
「へぇ~じゃあ私の食が進むのは生理現象みたいなものなんだね」
「因みに食欲の秋には栗ご飯がいいとされているわ。栗には糖質をエネルギーに変えるビタミンB1や、食物繊維が豊富だから胃腸の働きをよくするのよ」
霧崎が言うと一ノ瀬は突然立ち上がり、
「それホント!? 確か食堂の日替わり定食栗ご飯だったよね! さぁ二人とも行くよ!」
部屋を出ていく一ノ瀬と、後が面倒なので渋々立ち上がる津樂と霧崎。
二人は机の上の弁当とパンの袋を見て、
「彼女の胃袋は計り知れないわね……」
「胃腸の働きが良くなったら更に食うんじゃないのか……」
しかし、今日の日替わり定食は終了し、膝から崩れ落ちる一ノ瀬だった。




