ドラゴンとの遭遇
ひとまず受付嬢さんが落ち着いて話が出来るように一度自宅に戻り、改めて話を聞くことになった。
「それで緊急の用件とは?」
こんな田舎の輸送屋に頼んでくるのだ。余程の理由があるのだろう。
「はい。実は輸送屋のあなた達に頼むのもなんですが実はとある人物の捜索をしてほしいのです」
「とある人?」
「はい、実は最近、冒険者の行方不明が続出しておりまして捜索に行かせた冒険者も未だ戻らずどうすればいいか困っていたところで。ですがあなた達の魔獣ならもしもしの時に逃げられると思いここにお願いしにやって来たという感じです」
ふむ、事情は分かった。だが何か危ない感じがするんだよなぁ。実際危なそうな言葉が幾らか出ていたし。
「ちなみに何時ぐらいからそれが発生しているのですか?」
「はい、丁度一週間前少し前ぐらいから発生しております。最初はただの徹夜だと思ったのですが二日たっても帰ってこなかったのでたぶんそのくらいからだと思います」
一週間前か。俺達と関連性があるとすれば俺が村とその周辺の道の整備をしようと思ったぐらいの時期だ。
関連性があるかは未知数だがその可能性は低いと見ていいだろう。
「う~ん」
俺は考え込んだ。確かに陸自は行方不明者の捜索などもしているためにいる。俺は今は自衛官ではないがそれも考えるなら自衛隊としての法も。人としての良心的にしてもOKを出してもいいが何か凄い余計なものまで来そうな感じがするがまぁ、その時は逃げればいいか。
頭の中で瞬時に脳内会議を終わらせて彼女達に向き直る。
「そうですね分かりました。引き受けましょう」
「あ、ありがとうございます」
受付嬢さんが息を吐く。どうやら余程心配していたらしい。これは早く見つけてやらないとな。
「でも今日はやめにしよう。さすがに今から森に入ったら見つけられるものも見つからないし、ダイヤウルフなどのモンスターに襲われて二次被害が出かねない」
もう少し早ければよかったがもうすでに後の祭りだ。今から装備を整えて行っても村から森にはかなり距離があるし、着いたとしても夕方になるだろう。
「分かりました。では明日からお願いします」
そう言い残し家から出て行こうとする。ドアの取っ手に手をかけた時にふと思い出したのか「あの・・・」と言い、最後の言葉を残した。
「もしも冒険者に何かがあったら首元にかけてある印をギルドまで持ってきてください」
「了解しました」
そうして今度こそ家を出た。俺は窓辺から彼女が消えたのを確認すると同時にミルシアに聞いた。
「なぁ、ミルシア」
「何でしょう?」
「原因は何だと思う?いくら新米でも仮にも冒険者なんだろ。ダイヤウルフみたいなそこらへんにいそうな奴らに負けるとは思えないんだが?」
捕捉しておくが冒険者は簡単になることは出来ない。何か実績があったり例外的なものがいくつかあるがそれ以外は度重なる研修がいる。それをクリアしたものだけが冒険者になれる。実力的にはダイヤウルフを最低限倒せるぐらいはなっているはずだ。
俺と同じことを疑問に思ったのか、ミルシアも首を傾げている。
「そうですね。一人ならまだしも複数人行方不明になっていますからね。幾ら田舎で不埒なものが多いギルドでもそこまで遅れを取る者などいないはずです」
若干、ミルシアの言葉にギルドの悪口と私情が挟まっていたのは良しとして、やはり原因が分からない。
原因が分からない為、それに対するリスクも高まる。
「とりあえず装備を確認だな。ミルシア明日は早起きだ」
「はいっ!」
気合も十分。明日は人探しだ。
未だに筋肉痛に悩まされながらも俺達は村を出て、冒険者が消息を絶ったという森の近くまで来ていた。
ちなみに装備は
車両 パジェロ一台
装備品 俺 89式小銃、9mm拳銃、閃光手りゅう弾
ミルシア 64式小銃、9mm拳銃、閃光手りゅう弾
今回は割と軽装備だ。理由としては別々に行動すると危険度が増すためにいっしょになるためとあくまで今回は捜索がメインになるために大規模な戦闘はないと考えたからだ。
「しかし前も来ても思いましたがこの森は薄暗いですね」
パジェロから身を乗り出して辺りを見ていたミルシアがそう呟く。
「村長の話だとこの森はかつては荒れてたんだって」
「そうなんですか?」
俺の話に食いついてきたようだ。この為に村長に事前に昔話を聞いといて正解だった。俺は得意顔になりながら話した。
「昔はこの森に強力な魔物が住んでいて高レベルの冒険者でも命を落とす事例が多くあったから余程の事が無い限り冒険者も村の人も滅多に入らなかったんだって」
「それがどうして今は入れるようになったんですか?」
「これが本当かは分からないけどそんな時に一人の若者が現れて、村人が困っているのを見て自身が持っていた強力な魔導で魔物を倒したんだって」
「へぇ~~でも嘘っぽいですよね」
「そうだよな。タイミング的にも何か出来過ぎだし脚色されたやつか初めから存在していないのどちらかだな」
嘘っぽい昔話の考察をしながら俺達は進んでいた。奥に進むごとに森は段々と暗くなっていく。まるで幽霊でも出てきそうな雰囲気だ。
「この辺りはゴースト系の魔物は出ませんよ」
空気を読め!てか何で俺の心を毎回暴露するんだ?お前、俺についてこずに霊媒師か手品師になれ、お儲けするぞ。
「それは出来ません。まだまだあなたに習うことが山ほどあるので」
二回目だよ。二回も連続で心を読まれたよ。俺の記憶まで覗かれそうで怖いよ。
俺はミルシアの心を読まれたことで半分、疑心暗鬼に陥りそうなるが目の前に何かが飛び込んできたことで慌てて思考を現実に戻しブレーキを踏む。
「キャッ!」
何とか物体を踏む前に止まることが出来た。9mm拳銃を取り出して確認した。
「これは!?ミルシア」
「痛たたた・・・何ですか?うん?・・・これは!?」
彼らの前にいたのは血まみれの一人の男だった。酷い有様だ。出血もひどい。おそらく行方不明になっていた冒険者の一人だろう。
「ミルシア!座席の下に救急キットがある。それを取ってきてくれ!」
ミルシアに救急キットを取りに行かせるが内心ではすぐに病院に行かないといけない傷だ。とりあえず応急処置だけして出血を止めてから病院に運ぶべ気だと判断した。
「う・・・あ・・・」
血まみれの男が何かを言おうとしたがすぐに血を吐いてしまう。それでも何かを言おうとするので耳を傾ける。
「気を・・・けろ・・・こ・・こ・・には・・アイツが・・・」
アイツ?何の事だ。この男や他の冒険者を襲った奴のことか。
「近くに・・・いる」
それだけ言うと最後に血をもう一度吐いて目を見開いたまま絶命した。俺は彼の目をそっと閉じてやる。
遅れて彼女が来たが彼女には首を横に振る。それだけで彼女は何かを感じたようだ。すぐに救急キットを元の位置に戻しいく。
「ミルシア、ここはどうやらかなり危ないようだ。一旦態勢を整えよう」
さすがにこの人数とこの装備ではそれらに対抗することはできない。一度は退却し情報を集めた方がいいと思い、パジェロに乗ろうとした時にミルシアが動いていないことに気付いた。
「どうしたんだ?ミルシア」
「・・・・・」
「ミルシア?」
俺は不思議に思い、振り返った。そこには何かが居た。ゴツゴツとした表面、大きな翼、白い体表、トカゲを思わせる顔。俺は知っている。この世界だけではなく元の世界でも有名な生き物だ。
「どうしてこんなところに・・・魔獣大陸にしか存在しないはずなのに・・・・」
彼女も目を見開いている。俺はそれを聞くことにしかできなかった。
「どうしてロックドラゴンがこんなところに・・・・」
その言葉に答えるかのように元の世界ではファンタジーを象徴する生き物がこちらを振り向き、威嚇の声を上げた。