そうだ。村を開拓しよう 1
すいません。重機が出るにはもう少しです。代わりに違う物が出ます。
「おっ、ミルシアちゃん。村が見えたよ」
双眼鏡でのぞくと確かに村が見え始めていた。規模的には中ぐらいだろう。
「もう分かりましたよ。何回聞かされた事か」
彼女は陸自の防弾ベストを着用し、手には64式小銃を持っている。最初は89式を渡そうとしたのだが本人が「鉄よりも木があるほうがよい」という事でこれを装備することになった。以外にもミルシアが強情であると知った今の自分である。
「何回言ったっけ?」
「さっきので4回目です!はしゃぐには着いて仕事を終わらせてからにしてください」
怒られた。おとなしく黙っていることにしよう。何か次言うと今度こそ海に叩き落されそうだ。しぶしぶ双眼鏡を見て地形を確認する。
「切り立った崖が多いな。これじゃあまともな湾岸設備も無いだろう。あるのは崖と砂浜だけか」
「王女様から貰い受けた手紙によりますとルスト村は地形的に厳しく海運での輸送はほぼ不可能で物資はいつも空輸で行っているそうです」
それなら納得だ。確かに崖と砂浜だけだと空からの輸送の方が効率的だ。海からも行けなくはないが砂浜からボードで物資を運ぶのはかなりの重労働だし時間的にも効率的にも悪い。本当なら俺達もそうするところだがあいにく「くにさき」にあるものを使わずに諦める程愚かではない。
俺は双眼鏡をしまうとミルシアの方向に向き直り指示を出した。
「じゃあ、仕事を始めるよ。手順を言うからよく聞いてね」
「はい」
「まずは車両がたくさん止めてある場所より奥に行ったところに真ん中が開いているイカダみたいなやつがあるでしょ。それに車両を詰めておいて既に入り口は開けてあるから安心して大丈夫だよ」
「車両を入れるんですか?でもどうして」
考えていることは大体分かる。彼女もセオリー通りにやろうとしているのだろう。だからこそセオリーに沿わない格納庫に行くことを不思議に思っているのだろう。
「お前には説明していないことがまだまだあってな。それを使っていく」
「まさか空を飛べるものがあるのですか。見たところそんなものがあるようには思えなかったのですが」
まぁ、彼女にヘリなどの区別がついているとは思えないだろうし仕方ないか。地図を広げて簡単に説明してやる。
「俺達が移動手段に使うのは何も空だけじゃない」
そして地図のある一点を指す。
「俺達が上陸する手段はここ。砂浜だ」
唖然とするミリシアに向かって俺は最大限の笑みを送った。
「くにさき」は輸送艦だ。しかしその艦種になっているのは日本の自衛隊に「おおすみ」型に適した艦種が無い為に仕方なく輸送艦の枠組みに収まっているが本来ならば「おおすみ」型は揚陸艦に該当する艦だ。他のタンカーなどの輸送船にはなく、揚陸艦だからこそ持っている能力。それが
「このLCACって訳ですよ。ミリシアちゃん」
説明してあげたが当の本人はLCACの轟音と風景に目が奪われてしまいこちらの話をほとんど聞いていなかった。
LCAC。「Landing Craft Air Cushionにし」の略称で日本ではエア・クッション揚陸艇と呼ばれており自衛艦の一種になっている。この船の特徴は何と言ってもホバー機能。海面に浮くのではなく滑るためあらゆる場所での揚陸が可能になっている。今回はこれを使って依頼を達成していきたいと考えている。
そう言っている間に着いてしまった。衝撃音と共に砂に乗り上げる。少ししてから加速を弱めて停止させる。完全に止まったのを確認してLCACの扉を解放した。
「乗り心地はどうだったかな?」
「すごく・・・新鮮な感じでした・・・」
反応は上々なようだな。さて仕事もここからが第2ステップだ。
「良し、車両を出してとりあえず村の人と顔合わせだ」
人脈確保というのは以外にも侮ることができない。自衛隊は海外派遣などでそれを怠る事はなく現地住民といい関係を作れているという実績もある。舐めてかkると破滅することになるのはこっちなので慎重に刺激しないように心がけよう。
村に行く編成は俺がパジェロに乗り、ミルシアがトラックという分担となった。LCACが待機している砂浜から出て10分後にようやく目的の場所に着いた。目的の建物を探すとあっさり見つかった。どうもこの世界の住人は重要度の高い建物ほど高くしたり派手にすることが好きらしい。
その建物の前で車両を止める。その建物とはこの村で一番重要度が高い場所つまり役場みたいなものだ。
「ミルシアはここで車両の警備を頼む。身の危険があったら銃を使ってもいい」
「了解しました。クニサキさん」
俺が教えたのは海自式の敬礼だが俺が教えて通り出来ているようだ。(細かい点が少し出来ていないから後でもう一回教えてあげよう)それに答えながら俺は役場に入った。
「すいませーん」
「クニサキ様でございますか?」
扉を開けて中の様子を確認するとすぐに中年の男性が出てきた。人懐っこい顔をしていて話しやすそうな印象を受けた。
「あなた様の事は王女殿下より承っています。ご希望の者もほんの少し揃えられてはいませんがほとんどの者は物はそろっていると思います」
「すいません。何か苦労を掛けてしまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ。お気になさらずに過ごしてください。私達は歓迎しております」
確認もとれたし、次の目的地に行こうとした時に役場の扉が豪快に開いた。飛び込んできたのは男性。しかも何かに吹き飛ばされているような感じだ。
「グェ!!」
地面に激突すると変な声とともに男は動かなくなった。触ってみるとどうやら気絶しているだけのようだった。安堵しながら犯人を捜す。外に出るとすぐに分かった。
「ミルシア・・・・」
そこには数人の男達に囲まれたミルシアがいた。彼女は鬼の形相というのがふさわしいほどに顔をゆがめている。対して男たちは味方が一人瞬殺されたことに戸惑っているようだった。俺の横を役場の人が慌てて走っていく。
「お前たち何をやっているんだ!?今度騒ぎを起こしたらもう庇いきれないといっただろう」
「チッ!覚えておけよ!」
やけに聞き覚えのある捨て台詞を吐きながら帰っていった男達。役場の人が補足する。
「あの者達は近くのギルドの冒険者です。あそこは血の気の多い連中ばかりで。どうか許してやってもらえんでしょうか?」
どうやらこの人も苦労しているらしい。さっきの襲撃はミルシア目当てだと思うがこの人に免じて許してやろう。しかしこの町も今までの街と変わらないようだ。いや、田舎だから更に危険度が増している気がする。
「大丈夫か。ミルシア?」
「はい。逆に吹き飛ばしてやりました」
どうやら心配いらないようだ。言っている事はだいぶ物騒だがな。
「しかし治安が荒れているな。道路だって荒れてるし・・・・」
さすがにこれはひどいレベル。道路整備されていた日本が恋しくなるほどに酷い。いや、待て確か「くにさき」に施設科の重機があったような気がする。
(気が向いたらしようか。とりあえずは目的の場所に行かないと」
「そういえば目的地ってどこなんですか?」
「ああ、俺達の家だよ」
「そう家ですか・・・ってはぁ!?」
おっ、珍しくミルシアの慌てた顔が見れたぞ。
「いや、王女様に頼んだんだよ。そしたら快く受けてくれて・・・」
「頼んでいい限度があるでしょう」
そう俺が頼んだのは家だ。さすがに「くにさき」からここまで来るやら物資運ぶやらは大変だ。だからここを拠点にしようとする俺の考えだ。それにここで情報収集もしたいしな。
「呆れますが行きましょう」
トラックに乗る前に「ストレスが溜まります」というミルシアの愚痴を聞いた。許せミルシア。まったく反省していないけどな。