いざ、スパイア王国へ
クルス王国 港町にて
これが戦闘でなければ綺麗だったろうにと竜騎士のアルは思った。彼らは港町攻撃の一番槍を命じられて、あらかた市民や駐屯兵を殺した後、帝国兵が降りるの見届けた後にやることがないためにこうして高みの見物をしているのだった。
「おーい!アルよ」
アルの元にもう一人の竜騎士が横に着いた。
「どうしたんだ。アルベル」
アルベルはアルが所属している竜騎士団の騎士の一人であり、アルの親友の一人だった。普段は騒がしくいつも団長からこっぴどく叱られている。
「なんか歯ごたえがないな。クルス王国の連中は骨のある連中だと聞いたんだがな」
「それはこれが田舎の港町だからだ。奥に進んで行ったら更なる強敵が待ちつけているかもしれないから油断はするなよ」
「へいへい、相変わらず真面目だねぇ」
「おい、アル、アルベル、煩いぞ!」
会話を聞いていたのか、団長から叱咤の声が飛んできたのでおとなしく黙っている事にする。しばらく上空から町を見ていたら魔導無線から連絡が入った。
『こちら32小隊、防衛線を突破された!敵は港方面に逃走中の模様!』
降りて町で掃討作戦をしていた歩兵部隊から報告が来た。それを聞いたアルベルが舌打ちをする。
「チッ、歩兵連中はたかが駐屯兵に手こずっているのか。先が思いやられるぜ」
そう言いながらアルとアルベルは団長の指示で港に向かった。すると何かが港で動いているのが遠目でも見えた。
「やつら、港から船で逃げてやがる!逃がしたらまずい、仕留めるぞ!」
「でも団長に・・・・」
アルの言葉を聞かずにアルベルは突撃していった。
「くにさき」CICにて
レーダーには既に二騎を反応は捉えることが出来た。その内一騎はこちらに突撃してきている。CIWSの射程距離に入るだろう。
「すまない」
やはり”撃つ”という行為には躊躇ってしまう。特に日本で海自の輸送艦は特にそれから離れてしまっている。既にこれは重大な憲法違反だが自分が生き残るためには撃つしかないのだ。だからこそ彼は誤った。自分が生き残る為に犠牲になる名もなき人に。
ついにレーダーの赤点は射程圏内に入った。いつでも撃てる。彼は能力を発動した。
「射撃開始。レーダー上の”敵”を排除せよ」
その言葉に答えるかのように外の20mm機関砲がアルベルが乗る竜に向かってその銃身を向けた。
「何だ?あの船は?」
アルベルにとってはそれはあまりにも異様だった。その船は甲板上がやけに平らになっていて素材は鉄で出来ているのだろう。一瞬、竜母かと見間違えしそうになってしまった。それに色も赤や黒などではなく灰色だ。そして一番目を引くのはその大きさだ。あんなでかい船は帝国のどこを探しても存在しない。
「帝国の新兵器か・・・?」
その言葉を自分で言ったがアルベルの体に寒気がしたがすぐにそれを打ち消した。あれが何だってんだ。鉄で出来ていようがデカイだろうが関係ない。自分は最強の帝国竜騎士だ。だからこそ
「お前を食いちぎって!______!?」
アルベルが気付いたのが遅かった。彼の眼の前には20mm機関砲から発射された銃弾があった。その時、彼は気付いた。さっきの寒気の正体に。そうか、そうだったんだ。
あれは死の予感だったんだ。
それを気付いたときにはすでに彼の意識は彼の乗騎の竜と共に刈り取られていた。
「あ・・・あ・・・」
アルはその光景を見た時に思考が停止してしまっていた。いや、信じられなかったのだろう。自分と共に一生懸命訓練に励んでいた親友であるアルベルがあの鉄の船から発射された魔導弾にまるで木の葉のように穴だらけになって海に落ちている姿を。
ようやく思考が戻ったのは団長からの魔導無線の呼び出し音が聞こえてきたときだった。
『おい!何だ今の音は!』
「あ・・・るべ・・・が・・・」
『どうした!聞こえないぞ!』
「ぁ…アルベルが落とされました・・・」
『何!?』
団長の声が無線越しでも分かった。だが何かを思ったのか、アルに指示を出した。
『アル、お前はすぐに俺達を所に返ってくるんだ。落とした奴には構うな。いいか、手出しはするな』
その言葉にアルは怒りを覚えた。
「それではアイツの仇がとれません!」
『それが分からんか!この作戦で二騎も竜騎士を失うわけにはいかない。頼む』
最後の言葉でアルの頭は冷えた。団長にとっても怒りで今にも飛び出しそうなのだろう。それを自分みたいな新米が飛び出て、死ねば今度こそ団長は飛び出し、負の連鎖が始まってしまう。
「わ、分かりました」
そして無線を切ると平らな鉄の船を睨む。
「この仇は必ず取る。私の名はアル ディスカバル。黒竜騎士団の竜騎士だ。精々、首を洗って待っていろ!」
彼の言葉はどこまでも青い海に吸い込まれていった。
「どうにか振り切ったか」
敵は一騎撃墜した。むしろこの数で終わらすことが出来たのは幸いだった。この結果に安堵しながら格納庫に向かった。既に王国は臨戦態勢に入っているはずだ。さすがにこの船がいきなり入って行くのは無理がある。王国や帝国では無い国に行かなくてはならない。その為に彼女に会いに来た。
「ちょっといいかな」
すると少女が顔をこちらに向けた。そこで始めて気が付いた。
「あッ、君は!」
「あ、あなたは!?」
少女も気が付いていなかった。しばらくして二人とも落ち着きを取り戻したところで話を本題に戻した。
「君、クルス王国や帝国以外で知っている国はあるかな。たとえば中立国みたいな国は」
どうしてそんな事を聞くのかと言われたので事情を話すとなるほどと納得してくれたみたいだ。
「事情は分かりました。あなたの恩も返し切れていないのでここでお返しするとしましょう。そうですね・・・・」
少女は少し考え込むとあっと思い出したような声を出して
「スパイア共和国はどうでしょう。あそこは王国にも帝国にも属していないので完全な中立国です。それに主な産業は自分の国で取れた生産物の輸出なのでこの船なら受け入れてもらえるかもしれない」
少女の話を聞く限り、涙がでるくれい嬉しい国だと思った。すでに話を聞き始めて数秒でここにしようと決めた。
「良し、じゃあそこに行くか」
「え!?本当に行くんですか!」
テンションの差がおかしい気がするが気にしないようにしよう。気にしない。
「じゃあ、スパイア共和国に出発!!」
それにどこか呆れた様な顔をする少女だった。そういえば彼女の名前を聞くのを忘れていたなと俺は今、気が付きつつあった。
戦闘シーンが少なすぎるだって?すいません、輸送艦なもので。