戦闘?いえ逃げます
戦闘シーンありです。
帝国軍の竜だと分かった時にはついに来たかという感情が大きかった。しかし王国軍の兵士達は一体どうしたのだろうか?
「これは・・・まずいな。早いとこ逃げないと」
船を繋ぎ止めている錨やロープを上げに行こうとした時にふと思い出した。
「彼らは・・・」
俺の脳裏にマスターやおじさん、そしてあの少女の顔が浮かぶ。しかし助けに行けば間違いなく脱出は遅れてしまい敵から攻撃されてしまう。どうする俺。
「まったく一年前はこんなことは無かったのに・・・」
一年前が懐かしいです。こういう時こそ言うセリフだよな。「あの時は平和だった」って。気が付くと俺は変な思考に入り込んでいた。自虐心で笑いがこみ上げてくる。
「決まった」
短く言って頬を二回ほど叩いた。覚悟は出来た。俺は格納庫に向かわずにとある場所に向かった。
「逃げろーー!」
「て、帝国軍が何で!?王国の連中は何をしてやがんだ!!」
既に町は地獄絵図となっていた。黒竜が辺りの町人を食い散らかし、その間に大鳥に乗った帝国軍兵士が降りると各々が剣や槍でその地獄に更に赤みを追加する。
「お願い・・・・助けて・・・」
黒竜に食われ、右足を失った女性が足を引きづりながらも逃げようとするがその背中に帝国兵が笑いながら剣で切り捨てた。その様子を彼女はじっと見ていた。
「あ・・・ああ・・・」
息を止めて隠れ、そしてその光景を見てしまった。彼女は怒りから飛び出てしまいそうになったが踏みとどまった。あそこにいっても武器もない自分ではどうしようもなかった。むしろ飛び出してしまえ人を救う前に道端に死体が一つ増えるだけだ。
(ごめんなさい。許して)
今、犠牲になっている人たちに対して彼女は謝った。自分では無いにしろ、この状況を作ってしまった原因の一端は彼女にあったのだ。後悔の念に潰されそうになる彼女の前に更なる絶望が降りかかろうとしていた。
「このガキが!」
彼女が隠れている場所の目の前に傷だらけの子供が転がり込んできた。その後に来たのは顔に傷を負った帝国軍兵士だった。
「お母さんを返せ!!」
「あ?」
子供は泣きながら帝国兵の足を叩くが子供の力ではどうにもすることが出来ずに逆に放り投げられてしまった。彼女は周囲に誰もいないので飛び出して自分の短剣を突き刺してやろうと思ったがまたしても運が無かった。
「おい、何をしているんだ?」
向こうの通路から別の兵士が現れたのだ。おそらく心配になって確認しにきたのだろう。
「そんなガキ、さっさと殺って捜索に加われ」
「へいへい、まったく余計な仕事だよな。裏切り者の始末なんて普通俺らみたいなのにやらせるか?」
「上の潔癖がよく見えるぜ。お気に入りの部隊を怪我させたくないんだろう」
「まったくだ。さて、そろそろ遊びは終わりだな」
その言葉を聞いた時についに彼女は飛び出した。
「うぉ!」
兵士は派手に尻餅をついて転んだ。
「おい、こいつは!?」
「いてて、あ?」
両者共に驚きの目をしていたが次第に笑みに変わっていた。彼女は短剣を抜いて臨戦態勢になる。
「へへ、まさかこんな所で会えるとな。裏切り者」
「ここでお前を殺せば俺達は更に出世できるぜ」
剣を抜いてじりじりと迫ってくる。彼女は背筋の凍るものが走ったが子供を後ろに下がらせて間合いを取る。
「おらぁ!」
最初に仕掛けたのは兵士のほうだった。彼女も上手く短剣を剣に重ね合わせ鍔迫り合いになる。
「くっ!」
「おらおら、どうしたぁ!」
やはり男と女では力の差は歴然だった。力負けをして地面に膝をついてしまう。
「おらぁ、やれ!」
「おっしゃ!」
気を取られている間にもう一人の兵士が彼女の後ろを取っていた。
「しまった!!」
「死ねぇ!!」
後ろを取られた彼女は死を覚悟した。すぐに来る痛みを彼女は覚悟した。
キィィ!! ドン!
何かが来る音と鈍い音が響いた。だがそれは彼女に死を合図する音ではなかった。背中には何の痛みは無いし、ましてやあんな爆音はしない。
「え?」
恐る恐る目を開けてみると信じられない光景を見た。そこには先程自分の命を狩ろうとしていた兵士達が彼女からかなり離れた位置で痛みに悶えていた。そして音の方角を見てみると更に信じられなかった。
「そこの二人、早く乗って!」
緑色の箱に乗った女性がいた。こちらに向けて箱の扉を開けてこちらに叫んでいる。
「えっ・・・あ・・・」
「何の音だ!?」
「こっちからだ。急げ!」
帝国兵の慌てる声と足音でようやく我に返った。そして女性が言っている内容がようやく頭の中で理解できた。女性は焦ったようにもう一度同じ言葉を言った。
「死にたいのか!早く乗れ!」
「は、はいっ!」
怒鳴られて勢いで子どもと一緒に乗ってしまった。中は以外にもシンプルだ。しかも座っている椅子は柔らかい。
「しっかり捕まっていろ!」
注意をされた直後に凄まじい加速力がかかり、後ろにもたれかかってしまう。
(なんて加速力!しかも馬なしで!?)
彼女はこの箱に驚きながら興味を持った。そしてそれを操る女性の事も。
パジェロで向かったが既に遅かったようだ。街はどこも帝国軍であふれている。既に多くの道が封鎖されはじめている。このままではこちらも脱出できなくなってしまう。マスターやおじさんは残念ながら見つけることが出来なかった。生きている事を願おう。それよりも今、救った彼女達を「くにさき」に連れて行くことが先決だ。
その時だ。
「チッ!ここにも」
既にここまで封鎖が広がっていた。だが時間的にもここを抜けなければ間に合わない。いつ黒竜に見つかるか分からないのだ。ということは強行突破だ。ホルスターから9mm拳銃を取り出す。あくまで逃げる為に使う。パジェロの窓を開けて銃を構えた。
「どけ!当たると怪我じゃすまないぞ!」
一応、警告してみたが聞くどころか逆にこちらに突撃してきている。
「警告したからな!」
それは自分自身にも言った言葉でもあった。間髪入れずに9mm拳銃の引き金を引いた。撃った銃弾は胸を狙ったがつま先にぎりぎり当たったくらいだった。しかし兵士達にとっては大きなダメージ。その隙に包囲網を一気に突入し崩した。
「ふぅ~~」
包囲網を抜けると一気に緊張が解けた。今もなお銃の反動が手にこびりついている。まだ緊張を抜いてはいけないがここまで来れば港は目と鼻の先だ。
「あ、あの・・・」
「すげーな!お姉ちゃん!」
女の子はしゃべろうとしていたところを男の子に遮られる。何か可哀想。
「これからどこに行かれるのですか?」
「えっと俺の船」
すると少女が慌てた。それに俺もビビる。
「そんな!今、海に出たら黒竜に見つかってバラバラになりますよ!?」
「大丈夫・・・・たぶん」
「たぶん!?」
おそらく大丈夫なはずだった。黒竜にブレス吐かれようがかぶりついたりされても大丈夫なはずだ。
「でも・・・」
やはり不安そうだ。まぁ、言葉よりも実物見せたほうが良いだろう。
「安心しろって大丈夫なもんは大丈夫だ」
「なんか男みたいな口調ですよね」
ドキッとした。恐る恐る後ろを見るがどうやら気付かれたわけではなさそうだ。そしていろいろしている間に港に着いた。
「何ですか・・・これは?」
やはり驚いている。いつ見てもこういう反応はおもしろい。しかしいつまでもそれを眺めている暇は無かった。乗り込んだ事を確認して俺は能力を発動する。これは一度しかしたことがないために少し不安だった。しかし振動音がした後に少しずつ艦が動きつつあった。
「何とか動いたか。よかった」
安堵の息を吐いたと同時に警報が艦内に響き渡った。俺はそれに驚きながらまさかと思い、「くにさき」のレーダーを覗いた。
「どうやら楽をさせてはくれないようだ。いい加減見逃してもらいたいんだけど」
思わず愚痴をこぼしてしまう。「くにさき」のレーダーには多くの赤点が点滅していた。この世界に緑になる航空機はない。つまり敵、しかも恐れていた黒竜だ。愚痴が出るのも仕方がないことだった。しかも「くにさき」は動き始めたばかりだ。やはり避けられない戦いだった。
「・・・・・」
俺は画面から離れてもう一つの能力を起動させ、「くにさき」の全ての武装を解放した。
「対空戦闘用意」
能力発動条件の呼び声をかけた。数で勝る黒竜か先進科学の塊である「くにさき」の20mm機関砲は勝つか。勝負がどうなるかは始まってみないと分からない。
プロローグの為、戦闘シーンが多くなりますが後一話ぐらいで本編?が始まりますので気長にお待ちください。