異国にお届け物をするための前準備
今回から更なる国へとお届け物をします
「はい、そうです。申し訳ありません」
国東達がパジェロで去った後に商人は魔導石で誰かと話していた。ひどく慌てた口調と表情で。
商人が考えていた作戦ではロックドラゴンを召喚し冒険者を襲わす。それの調査にやってきた国東達をロックドラゴンが襲い、隙が出来たところを眠らせて連れ帰るというものだった。
まさかあのロックドラゴンを倒すとは!
「クニサキ様。どうやら一筋縄ではいかないようですね」
商人は通信を終えた後に魔導石を握りつぶすような力で握りしめた。
「使えない奴だ」
暗い部屋で一人の人間が舌打ちをした。せっかく捕まえた”ペット”の一匹を無能に任せたのがそもそもの間違いだった。帰ってきたら相応の罰を与えよう。
「しかし情報は正しかったということは確認できたので良しとしましょうか」
魔導石から送られてきた映像でそれを確認した人物は大きく笑みを浮かべた。
「戦いは近い。今度は私からそちらに行こう。それまで待っていろ」
人物の後ろに大きな何かが一つ見えていた。
一方、国東達
ロックドラゴンを倒した後に冒険者ギルドへと赴いて冒険者の一人の印を渡した。受付嬢さんは悲しんでいたがすぐに元の顔に戻った。ここでは当たり前のことらしい。俺はそれに同情しながらギルドを出た。まず家に行き、すぐに寝た。
あんな命がけの仕事をしたのに一睡もせずにまた次の仕事というのはさすがに無理である。
二日目はある意味カオスな状況だった。
「お、おいっ!ロックドラゴンがいたぞ!」
「えっ、んな訳ないだろ!酒で酔ってんのかハハハ」
最初はそう思われたそうだがそれを目撃した人が周囲のまだ信じてくれている人たちを集めてロックドラゴンの死体を持ってきた。それを見て村人達は目玉飛び出して心臓発作で死にそうなくらい驚いた。
そして当然、誰がやったかという犯人?探しが始まる。
「お前かッ!」
「ちげぇよ!!」
というようなコントみたいな会話が至る所で起こり、冒険者達が悲鳴を上げだしたのでとうとう受付嬢さんが俺達が話した内容を喋ってしまった。
「お前すげぇな!!」
みたいな視線に加えて元々あった好奇の視線も合わさって更に恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。その分、ミルシアは誇らしいらしく胸を張って歩いている俺にそれを分けてください。自衛官___というか人生で一度もこんな好奇と期待が混じった視線を受けたことが無い為にどこか気恥ずかしかった。
「クニサキさん、ここですよ」
「おっと、行き過ぎるとこだった。ありがとう」
俺達が着いたのはいつもお世話になっている村の役場である。見慣れてしまった扉を開けると職員の方が満面の笑顔で待っていた。
「お待ちしておりました。ロックドラゴンの討伐お疲れ様でした」
いや、望んでやったわけじゃないからそこまで褒められる事は無いと思うんだけど。
「それで素材の件なんですが・・・・・あいにくこの国にはロックドラゴンの鱗を丁寧に素材を変換することが出来ないのです」
えっ、せっかく素材を変換していいお金にしようと思ったのに。
「それでもし変換なさるのなら隣国のマダス王国に行かないといけません」
またいかないと行けないの。悪いけど断らせてもらおうかな。
「もし断られるならそれは出来ません。王女殿下もロックドラゴンの素材に高い興味を持っておられまして何としても手に入れたいので隣国まで行ってもらえたら高い報酬を支払うそうです」
俺も隣国に興味があったからなぁ、一度行ってみたいと思ったんだ。喜んでいきましょう。
お金が俺の今の生活を支えている為にお金に目が無い俺だった。人間って欲に目が無いよね。人の事は言えないけれど。
「依頼を受けましょう。丁度行きたかったところでしたし」
「分かりました。あなた方に頼められるなら王女殿下も安心して任せられるはずです。ではそのようにお伝えしておきます」
分かっている。どうせ断れないように根回しは出来ていたんだろう。はぁ、面倒くさい。だが依頼を受けてしまった以上行かないといけない。変な事をされる前に。
二日経った後に時間と手間がかかるので施設科の装備はLCACに載せずに家の倉庫にしまってきた。確かにこの世界は現代日本では考えられない程に盗難の事件が多い。
実は俺も何回か物を盗られた事がある。この世界で警察の役割を担っている兵士に訴えたが「盗られたものは仕方がないから諦めろ」と言われた。どうやらこの世界では日常茶飯事らしい。
えっ、そんな事はいいからさっさと進めろだって?悲しい。
「う・・・・」
相変わらずミルシアはLCACに弱いようだ。そこまでだめなのかなLCACって確かに風圧は凄いけど浮くんじゃなくて滑るんだから船酔いって類では無さそうだし。少なくとも俺とその周りのLCACの隊員からはそんな事は一切なかった。「おおすみ」や「しもきた」などの他の輸送艦ではあるのだろうか。
(ってそんな事よりも・・・・)
俺は横目で”ソレ”を見る。
「相変わらずデカイし固そうだな。よく倒せたな」
俺の横には頭が吹き飛んだロックドラゴンの巨体が横たわっている。その体を俺は手で叩く。こいつの体を見る限り俺達の銃弾が効かなかったのは鱗の固さだけではなかった。体の鱗が微妙な角度で体に張っていて避弾経始になっている。この鱗の固さだとキャリバー50の12,7mmも防ぎそうだ。
よく生きていられたな、俺。
「倒したあなたが言うセリフですか。そういうものは周りが言う者です」
さすがしっかり者のミルシアちゃん、顔色が絵の具の様に青くなっているのに俺の言葉に素直にツッコミをいれてくれる。ミルシアちゃん、無理しなくいいんだよ?
「何はともあれ、こういうのが居るという事はもっと対策を練らないといけないな」
都合よくパジェロの中に84mm無反動が入っていたから倒せたがこういうのが更にこういう事があると思うと火力不足が否めない。ほぼ確実に重装備の戦闘車両が必要になるだろう。
「少し研究をしてみないとな」
再び、資料集めが必要になると思う俺だった。あれ?いるじゃん、ここに。
頭の中でロックドラゴンの事や関係ないことが入り乱れながら二人を乗せたLCACは「くにさき」に入っていった。
こうして出港準備が出来たから「くにさき」は王国へと向かっていった。ただここで誤算があった。
主に国東に。補足しておくがミルシアは知っているのでLCACに乗る前にしっかりと近くの服屋で買っていた。
「王国はどんなところかな?やっぱりビーチか何かあるのかな?」
もうお分かりだろう。国東がどんな勘違いをしていたのか。その勘違いのお蔭で準備を怠った結果が一日後に分かった。
翌日、マダス王国近海にて
俺は震えていた。それは恐怖でもなく、ましてや武者震いでもない。
「さ・・・さ・・・」
「最初の言葉しか出てないですよ。さぁ、吐き出しちゃいましょう」
おのれ!?ミルシア、は、図ったな!
「あなたの無知がいけないんですよ」
俺は隣のミルシアを見る。彼女は温かいお茶を飲み、厚いコートでマダス王国の情報を書類でまとめたものを見ていた。
「マダス王国は”永遠の極地”と呼ばれる氷の大地にとても近くて、いつも雪が降る地域だそうです。その為、温泉や武器の鍛冶屋が主な国の収入源となっているようです」
「ハックシュン!!」
くしゃみをしてしまった。「くにさき」にあった一番厚い服を着ても寒い。
「まぁ、頑張って下さい」
とりあえずマダス王国で行う最重目標が出来た。装備などを下す前に。
「とりあえず温かいコートが欲しいです。は・・・は・・・」
俺は甲板から急いで中に入る前に最後にもう一回だけ大きなくしゃみをした。
「ハックシュン!!」
次回はマダス王国編です。最近は雪は降ってきているのでそれに合わせてです。(ちなみに自分の地域はまだ雪は降っていません)
お楽しみに。