ロックドラゴンVS元自衛官
「まずい・・・・」
ロックドラゴンと呼ばれたドラゴンは明らかにこちらを見つけている。ここに留まるのは危険だ。というか既にヤバイ。
「乗れ!」
「言われなくても乗っています!」
俺達は転ぶようにパジェロに乗り、急発進した。後ろを向くと凄まじい音と共にさっきパジェロがあった場所は陥没し穴が開いている。
「あっぶねーー!」
俺は思わず叫んでしまう。見た今の!?陥没だよ陥没。アニメか漫画しか見たことないよあんなの!?
「ミルシア、奴の情報は!?」
ミルシアは何か知っているようなので教えてもらおうとする。ミルシアは64式を構えながら答えてくれた。
「あれはロックドラゴンです。見た目と名前の通り表面は岩で覆われていて槍や弓が効かないドラゴンです。ですがあれはかなりの上位種で魔獣大陸にしか存在しないはずです!」
「そんなこと言ったって実際いるんだよ!てか何でいる!?」
「知りませんよ。そんな事!」
そんな話をしている間もロックドラゴンが追いかけてくる。冒険者達を襲ったのもこいつだろう。凄い血走った眼でこちらを追いかけてきている。どれだけ腹が減っているんだ。
「ミルシア!小銃で牽制しろ」
「了解!」
ミルシアは安全切り替え軸を「ア」から「レ」に切り替えた。
「うらりゃぁぁぁ」
ミルシアが絶叫しながら銃を撃つ。ミルシアちゃん、こんな状況で言うのも何だけど女の子らしく言おう。
そんな事を思っていると俺の服の中に(胸の中」に飛び散った薬きょうが入った。
「熱ぃぃ!!」
車が左右にくねくねと曲がるがお蔭でロックドラゴンの腕の攻撃を避けることが出来た。
「凄いです。クニサキさん!」
「あ・・・あぁ・・・・」
俺としては喜ぶべきなのか悲しむべきなのかは分からない。とりあえず喜んでおこう。
「で、どうするんだ!?ミルシアなら何か知っているんだろう!?」
ロックドラゴンの生態を知っているのなら当然対処法も知っているはずだと思った。
「ロックドラゴンは固い皮膚を持っています。倒すにはそれらと共に吹き飛ばすような上位の爆裂魔法か口の中が開いた時に攻撃するしかないです!」
64式の撃ち切った弾倉を別のに交換しながら答える。
「そんなものどうやって!?」
ロックドラゴンが通ったことで吹き飛んできた木を避けながら愚痴を言う。
「それが分かったら苦労_____!?]
その時、後ろが光った。まずいと思いながらあえて見てしまう。それはロックドラゴンがブレスを放とうとしていた瞬間だった。
「ブレスが来ます!避けて!」
俺は右に大きくハンドルを切って別の細道へと入る。ブレスは俺達が居た道をまっすぐ突き進んで周囲の木を吹き飛ばした。
「何て威力だ」
あれを喰らえばパジェロなんて俺達ごと木端微塵だ。あれには言われなくて気を付ければならない。だが状況をこのままにしては置けない。この近くには村がある。今はまだ遠いがこのまま追いかけっこをしていればいずれは近づいてきてしまう。もしも近くを通った時にロックドラゴンに村の存在を勘づかれたら終わりだ。
(どうすれば!?)
「くっ!」
考えていると後ろの席から呻く声が聞こえてきた。後ろには一人しかいない。ミルシアだ。
「どうしたんだミルシア!?」
異変に気づいて運転に気を付けながらミルシアを見ると彼女は64式を取り落して腕を抑えていた。傷口には火傷の跡があった。
「さっきのブレスか!」
スレスレに避けたが熱波で彼女の腕が火傷したらしい。
「大丈夫です。行けます・・・くっ!」
64式を取ろうとしたが無理が祟ったのかすぐに痛みに呻く。
「銃は撃たなくていいから運転は出来るか?」
「何とか・・・・」
どうやら運転は出来そうなので直線の入った所で交代する。俺は89式を撃つ。狙いは目だ。
7,62mm弾で貫けない皮膚を5,56mm弾で貫けるはずがない。だからこそ生物で一番の弱点である目を狙ったのだ。
効果はてき面でロックドラゴンは目を手で覆いかぶせて嫌がるようなしぐさを取り始めた。しかしそんなⅦ動きをしていれば当然のことながらスピードが落ちる。そこが俺の真の目的だ。
「そこの角を曲がって!」
この先には洞窟がある。その先には村から離れた何もない平原になる。そこなら回避も容易になるだろう。
甲高いタイヤの音を響かせながらパジェロは突き進む。暗い森の中の木を巧みに躱し、ついに第一段階で必要な洞窟が見えてきた。
「良し、そのまま突き進め_______!?]
パジェロに暗い影が差し込む。森が暗いからではない。突如として陰が差し込んできたのだ。そしてその陰は俺達を追い抜いていき、洞窟へとその陰は落下した。
「な!?」
洞窟に落下してきた陰は巨大な岩だった。しかもすっぽりと洞窟の入り口をふさいでいた。
「しまった!_____うぉ!?」
いきなり前の方に重力が傾いた。ミルシアが急ブレーキをかけたのだ。その反動で俺と荷物がいっしょに落ちてしまった。
「痛い!!」
背中に衝撃と痛みが走る中で俺は絶望的な気分になった。今更パジェロに乗る暇はない。その前に追いつかれてしまうからだ。このまま留まっていても二人とも仲良く炭になるだけだ。だからこそ取れる行動は一つ。
「ミルシア、俺を置いて逃げろ!!」
「そんな!?出来ないですよ!」
案の定、ミルシアは俺を置いて行くのを躊躇った。想定済みとはいえ少し気持ちが焦る。
「こんな所にいたら二人とも死ぬだけだ!ならば一人でも生き残った方がいいに決まっている。だからこそ逃げてくれ!」
「嫌です!!」
「この分からず____!?」
分からず屋と言いそうになった時にふと視界にあるものが映った。それは俺と一緒に落ちた荷物だ。最初は俺が持ってきた荷物かと思ったがこんな大きな箱を持ってきた覚えはない。
俺は痛む体を引きずりながら、その箱の蓋を渾身の力で引きはがした。俺は箱の中身を見て、驚愕しそして笑みが浮かんだ。
(どうしてこんなものを忘れていたんだ。こんなものを忘れるなんて俺は馬鹿だな)
ミルシアは雰囲気が変わった俺を不思議な顔で見つめている。何か策があるのかと待っている顔だ。俺はそんな顔を見つめお願いをした。
「少しだけアイツを引き付けてくれ。後は俺がやる」
俺は少しだけ作戦内容を伝えた。といっても作戦とは名ばかりのただの博打だが。
「了解。お気を付けて」
彼女は国東が何か策を見出したとして黙って連いてきてくれた。後は俺にかかっている。俺は海自自衛官な為に例のやつは一度も撃ったことが無い。おそらく一度撃っただけで体がひっくり反ってしまうかもしれない。たった一度だけのチャンスだ。
「こっちに来い!化け物め!」
パジェロを運転しながらロックドラゴンにミルシアは挑発する。当然ロックドラゴンは人語を理解する能力を持っていないためにまったく以て聞こえてはいないが自分を害になるものだとは理解できているので追いかけてきていた。
「良し、連いてきているな」
バックミラーでその姿を確認しながら目標地点に近づいていた。目標地点とは岩で塞がれた洞窟前だ。ドラゴンの攻撃を見事に躱しながらついに直線に来た。彼女の目の前には変な大きな筒を持った女性がいた。
パジェロが横を通り過ぎた。彼女の役はここで終わりだ。そして自分は俺の仕事を果たすだけだ。
「こいつがあってよかった・・・」
俺は今、担いでいる筒____84mm無反動砲を見て呟く。これが無かったらこんな博打を思いつかなかったし今頃、ドラゴンの腹の中に二人とも収まっていたところだ。
「グォォォォォ!!!!」
ドラゴンは雄たけびを上げながら突っ込んでくる。馬鹿なやつだ。
そんなことを思っていると横を何か熱いやつが通り抜けて背後で爆発が起こった。あれ、聞こえちゃった?
俺、人間なら仕方ないけどドラゴン相手にも心の中読まれるってやばくない?顔に出るってレベルじゃないよ。俺は目元に涙を受けべながら引き金を引いた。
「畜生めぇぇぇぇ!!」
84mm無反動砲から放たれた榴弾が更なるブレスを吐こうとしていたドラゴンの口の中にすっぽりと入った。
「グオ?」
何か分からない顔をしたドラゴンだが次の瞬間に顔面が吹き飛び、顔を失ったドラゴンはそのまま倒れ込んだ。
「嘘・・・・」
ミルシアは夢でも見ているような顔をしている。俺は胸をなで下ろしている。正直泣きそうだった。
「凄いじゃないですか、クニサキさん!」
安心している時に背中からミルシアが抱き着いてきた。く、苦しい。
「B級のロックドラゴンを倒すなんて、この国だったら表彰ものですよ!」
えっ、そんなものだったの。てっきりC級の上位モンスターだと思っていた。あ、そういえば魔獣大陸からきていたって言っていたな。すっかり忘れていたよ。
「さてとどうするかな・・・」
後はこの後始末をしないといけない。俺はいつになったら休めるのだろうか。
「すまない。少し寝る。村に着いたら起こしてくれ」
「はい、お疲れ様でした」
すまないと思いながら俺はパジェロの荷台に寝転がった。森の木の隙間からは青空が見えている。
「たまにはこういう感じもいいかもな」
いつも俺が運転していてまともにしたことは無かったがこれはこれでいい。ここまで頑張ったのだ。少しくらい休んでいてもバチは当たらないだろう。
「ふぁ~~」
欠伸が出た後に俺は目を瞑った。あの戦いの後からかすぐに意識は落ちた。
しかしロックドラゴンを倒したことで更に仕事を量が増えることを国東はまだ知らない。
そんな事を知らない彼に空だけは味方していた。
ここで第一章が終了です。次は第二章ですが少し遅れるかもしれないのでご了承ください。