転移から一年後
至らない点があるかもしれませんが温かい目でお願いします。
「よっと」
ちゃぽんという音と共に釣りえさが水の中に入っていく。よし、あとはかかるのを待つだけだ。
俺、国東 信吾がいるのは海上自衛隊が誇る輸送艦の一隻である「くにさき」である。さすがに甲板では出来ないので届きやすい位置まで来てやっている。一見平和そうだが俺が直面している事態はどこか違った。俺が待っていると上から影が差しこんできた。
「最近はやけに軍が活発的だな」
上には現代社会には存在しない生物がいた。そう、ドラゴンである。ちなみにここも日本の海上自衛隊の基地ではない。クルス王国と言う国の港である。ちなみに俺と言っているが男ではない。何が言いたいかと言うと
俺は女となり輸送艦と一緒に異世界に転移させられたのだ。
「お、お嬢さん。頑張っているねぇ」
「あ、どうも」
話しかけてきたのはこの港を管理しているおじさんだ。俺が異世界に転移して1年経ってもここで仕事をして生きていられるのもこの人のお蔭だ。ちなみに仕事が輸送を主にしている。輸送艦だけに。
「クシュ!」
くしゃみをしてしまった。おかしいな。この国の温度はいつも暖かいのに。
「どうしたんだ?」
「あ、大丈夫です」
おじさんにも心配されてしまった。あとで近くで検査してもらおう。
「今日は暇なのか?」
「午前はさっき終わりました。午後はもう少しです。よっと」
竿が動いていたので引き上げる。一つのエサに二匹かかっていた。大当たりだ。
「そうかい。まぁ、頑張ってな。応援しているよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言っておじさんは去っていった。それを見送ると俺は甲板に急いだ。「くにさき」の第四格納庫につくと73式大型トラックに乗り込む。荷物も詰め込んでいる。あとは出発するだけだ。
「よし、行くか」
大型トラックのエンジンがかかり、勢いよく外に出た。これが俺の今の生活だ。
「いや~すまないね。ここまで届けてきてもらって」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
今は港から少し離れた山奥にいる。ここは山道が険しくとてもじゃないが馬車がいけるような場所ではない。なので物資が滞りやすいのだが俺が物資を届けているために改善している。俺も収入が入っていて、ここはお得意様の一つである。
「しかもこんな美人さんとは。驚きましたよ」
「え、あ、ありがとうございます」
やめてくれ。彼は褒め言葉で言ったのかもしれないけれど。俺にとっては致命的だ。だって俺、男だもん。
「ではこれで」
「ありがとうございます。また利用させてもらいます」
「いつでもお待ちしています」
報酬を受け取りトラックに乗りこみ、村の人々に手を振り終わると俺は街に向かった。
俺は街に着くと行きつけの酒場に向かった。
「いらっしゃい。てっ、あんたか」
「お邪魔するよ」
マスターはまたかというような眼をして、周りの者は私が入ってくると会話を止めて「おい、あれって」
「あれが噂の・・・?」というような会話をしている。てか、もう少し小さくできないのか声を。まる聞こえだぞ。
「一年経つと噂も広がるだろうよ。それに美人さんと来た」
居心地悪そうにしている俺を察したのかマスターが「気にするな」と声をかけてくる。この手の事はよくあった。むしろ転生直後と俺が仕事を初めたときにはこれとは比べものにならないほどに大騒ぎされたものだ。
「よしてくれ。あまり好きじゃない」
「まったくいい加減その言葉使いも直したらどうだ?美人が台無しだぞ」
「余計なお世話だ」
軽口を叩きながら、適当な酒を頼む。マスターは用意が良かったのか、すぐに出してくれた。周囲の視線に耐えながら酒をちびちび飲んでいるとマスターが話かけてきた。
「お前さんよ。最近、巷で広がっている噂知っているか?」
声のトーンはさっきとは違い、落ちていた。俺も声を小さくする。噂は皆が口にしないが薄々感じ始めているものだった。
「ああ、知っているよ。最近、隣の国の帝国とこの国仲が悪いだって。さっきもワイバーンが飛びたってたよ」
「何でもそろそろ戦争が起きそうらしい。俺は早いとこ店を畳んで違うところで店を開きたいと思っているんだがあんたはどうする?」
「うーん。もう少しだけ様子を見る事にするよ。まぁ、いざとなったら逃げるけどね」
「はは、そりゃうらやましい。あんだけデカイ船を持っていたら帝国兵も驚いて逃げるだろうさ」
マスターが笑うので俺も吊られて笑ってしまう。そして笑いが収まってくると酒代をテーブルに載せて店を出た。俺はどうしようか迷っていた。もちろん、さっきのマスターの話だ。
「これからどうするか。「くにさき」は動かせるけど。あれだけデカイといざってときに逃げられないし」
これは転生してから気づいたところだが俺は一人で「くにさき」を動かすことができる。これを知った時はビビった。なんかどっかで見たことがある能力だと同時に思った。
「う~ん。どうしようか」
俺としての最大の不安は「くにさき」の武装を使わなければならないといけないという点だった。確かに20mm機関砲を搭載したCIWSなら簡単にワイバーンを撃ち落とすことが出来るだろう。だが俺が恐れているのはそこではない。望まれない戦闘で人が死ぬという点が気にいらないのだ。
「どうしようかな~~本当に~~」
ぶつぶつと同じとしゃべりながら考えているから横から来る人影に気づかなかった。人影の方も気付いていなかったみたいで案の定、ぶつかってしまった。
「うわぁ!」
「きゃ!」
どちらも悲鳴を上げて倒れた。俺は尻餅をついて転がった。恥ずかしい。だがすぐに体を起こしてもう一つの人物に声をかけた。
「大丈夫ですか!?」
人影は子供?しかも女?すると少女もハッとしながら立ち上がると俺の方に向かって
「すいません。急いでいたもので!」
「いや、こちらこそ悪い。道の真ん中で止まっていたから」
両方謝ると少女は周りを見ている。どこか焦っている感じだ。
「本当は何か謝礼の品を差し上げたい所なのですがあいにく手持ちは少なく・・・」
「いいって、代わりに俺から粗末なものだけど」
報酬の一部である銅貨20枚を差し出した。それに慌てたのか少女が凄まじい速度で首を振る。
「そんな!いただけません!」
「いいんだって、じゃあね」
「あっ、待って!」
俺は少女の手に無理やり銅貨を握らせるとまた少女に何か言われる前に退散した。
「不思議な人・・・・」
少女は手に持っている銅貨の感触を感じながら、渡してくれた女性に感謝して再び、走った。追ってから逃げる為に。
大型トラックを格納庫に入れて俺は再び、「くにさき」の甲板でCIWSの点検を行っていた。いざという時に使えなかったらどうしようかと思っていたが点検してみるとどうやら来たときと同じ状態を保っていた。潮風の影響もない。車両も全車点検してみたが大丈夫だ。
全ての点検を終えて休憩しているとあることに気がついた。町がやけに騒がしいのだ。そんな時だ。下から大声が聞こえてきた。
「お嬢ちゃん!東の空を見てみろ!やばいぞ」
おじさんが叫んでいた。東の空を見てみると何かの黒点が見えていた。俺は嫌な予感がして双眼鏡を見た。
おじさんは「早く逃げろ!」といい走って街の方に行く。俺は認めることが出来なかった。まさかこんなにも早いとは。
「帝国軍の竜だ・・・」
この王国の空に決していないはずの黒色の竜が双眼鏡越しからこちらをじっと睨んでいた。
投稿に時間がかかるかもしれませんがそれでもいい方は気長に待ってください。