1. 1回目の人生
よろしくおねがいします(*^^*ゞ
思えばそれは偶然ではなかったのかもしれない。
戦争はもはや終局を迎えたと頭ではだれもがわかっていた。 が、最後の足掻きに身を投げろと。 そんな国の決定は、招集され、その任を命じられた時にはすでに半ば命を捨てていた俺たち戦闘機のパイロットにとってはどのように思えたのか? むしろこの生き地獄が続くより幾分まし、そう言って本物の地獄へ自ら赴いて行ったやつらは少なくなかった。 国が負ければ男は殺され女は凌辱される。 鬼畜米英の教育は日本という国に根強いものであり、ならば遅かれ早かれ死ぬのだろうと、ならば生き恥をさらすなと、自決を覚悟に一矢報いるのだと。 昨日まで同室で語らっていた仲間が日ごとに突撃を命じられては夜にいない。 そんな日々が続き、そして今日、俺含め数人が基地の上官に招集された。
「おめでとう。 君たちをこの度の特攻隊に任ずる」
なにがおめでとうなものなのか、しかしこの場に呼ばれた者はそう提言する常識が欠如している者ばかりだった。お国のために散華できる、そう思ってでもいるのか嬉々とした表情を浮かべている者すらいる。
―――狂っている、のだろう。
傍目から見れば俺を含めてそんな連中しかここにいない。しかし俺は胸の内でこう思う。
(もういいさ、死んでやるよ)
もともと俺には帰りを待つ家族なんてものもない、一族じゃ弾かれものだ。
出来のいい兄に期待してたんだろうがあいつもこの間南の方で死んだんだとよ。
・・・まぁ、いいや。これから俺も死ぬんだ、関係ないか。
そこには不思議な諦めがあるだけだった。
それから招集された部屋を出、いつも通りの一日を過ごした。・・・あ、いや一つ違ったな夕食がいつもより豪華だった、あんなでかい肉を食べたのは初めてだったかもしれない。
翌日、目が覚めほんの少し呆けるがすんなりとそれを受け入れる。今日がその日だと。
今や俺だけとなったこの寮室も俺を最後に音を無くすのだろう。別に感慨もない、ただ頭にあるのはつかれたなと、それだけだ。
廊下でスレ違うやつらともこれが最後の挨拶だ、お互い敬礼で目を交わす。
「おめでとう」
「ああ、ありがとう」
基地を出て所定の場所に着く。すぐ側には滑走路があり、いつでも・・・・・ということだろう。
そして俺がどうやら最後の一人だったようで昨日顔を会わせた連中はもう揃っていた。
「的場ぁ!このハレの日に遅れるとは何事だっ!」
「はっ!申し訳ありません!準備に手間取っておりました」
「そうか、もういい列べ」
なんだあっさりとしてるな、もう少し絞られると思ったのに。
俺が列に加わるのを見ると上官は杯を全員に行き渡らせ手ずから酒を注いで行く。
(あぁ、酒なんて1年振りか)
その匂いだけで酔いそうだ。たしかロシアにそれはそれは強い酒があると聞いたことがあるがそれだろうか?
と、そこまで考えてかぶりを振る。もう気にしても栓無いことだ。一息で飲み下す。おぉ・・・・・。
(うまい)
が、もったいないことをした。これほどうまい酒をもう一杯とは言えないだろう。
まぁ、いいか。杯をコンクリートに投げ捨てる。早いやつは飲み干したと同じに己が戦闘機に乗り込み、飛び去った。遠くでは別のお偉いさんらしき人が敬礼をしている。見送っているのだろう。
そして次々と他のやつも乗り込んでは飛び去っていく。・・・次は俺だ。
乗り込んだこいつは俺の愛機・・・と、言っても機種なんかも忘れちまったけどな。
勢いよくエンジンをふかして短く鋪装された滑走路を滑る。敬礼をくれていたのはこの基地の長、中佐だったようだ。俺も敬礼を返して・・・・・・・・飛び立った。
軽い、そりゃそうだ。途中で逃げ帰れないように燃料は半分なのだから。
敵の艦を見つけたときにはもう燃料がギリギリだった。なんとか間に合うだろうというくらいのもの。
だというのに近づけば近づくほど強烈になっていく弾幕。
しかし当たらない、なぜだろう。別に当たりたいわけでもないが不自然だ。
あ、いやこういうことか?怖いものがなくなった人間ほど怖いものがない、と。
そんなことを考えているうちにも艦との距離は狭まる。直上まであと、100、60、30、―――
「ぐぅっ!」
ドガァッと、衝撃が伝わる。直前に見えたものと言えば横を掠めた機関銃の弾。
被弾したのだろう、恐らくまともに飛べていない。恐らく、と言うのはまた俺自身も頭を打ち付け、意識がはっきりしないから。脳震盪でも起こしたか、いや、どのみちこれで終わりだろう。
なら焦りたくない。
俺はゆっくりと、それこそ微睡むように目を閉じた。
***************
意識があった直前の記憶がある俺は釈然としない。どういうことだろうか―――
「生きて、いる?」
ここはどこだ?体を起こして辺りを見回してみれば俺はベッドに寝ていたということ、この部屋にはその他に1つのドアがあるだけだということがわかった。
いやそうじゃない、俺が知りたい『ここ』とはもっと根本的な・・・。
その時ドアが開いた
「ああそうだな、お前は生きている」
ッ!?
「おい動くな、生きているとはいえ重症なんだから」
走る全身への痛み、逃げなければと思う一方で酷く冷静に目の前を見据え始めた自分に気がついた。ここで俺が動いたところでなんになる?この痛みを伴い時間をかけて死ぬか、突如扉の向こうから現れたアメリカ人に殺されるかの違いではないか、と。
なら、足掻きたくもない。つかれた。
ベッドから転げ落ちた俺に近付いてくる名も知らぬアメリカ人。体は大きく目は青い、肌の色は・・・なるほど白人か。そのとおりだな。
「あんた、俺の死神かい?これから俺を殺すんだろう?」
「ふぅん?死神ねぇ」
俺の問いかけにつまらんといった風に答えたアメリカ人。まぁそりゃ興味もないか、これから殺すやつのことなんか。
「俺はあいつらほど悪いものじゃないと自負してるんだがな」
「そうかよ、ただ、どのみち俺には変わらねぇよ」
もういい疲れた。何度死を覚悟した身かわからない、いまさら足掻こうなんて思わない。ほら、そこの腰に下げてる拳銃一発で方がつくだろ。はやくしろ。
「まぁ聞けって」
「何を」
「どうせ死ぬならゆっくりしてってもいいんじゃないか?」
「うるせぇよ」
いまさらそんなものにすがるほど死んでいった仲間に非情じゃねぇんだ。この生き長らえてる1秒が恥だ。
「・・・ひどい国だな。人はここまで堕ちるのか」
「・・・・・」
言っていることはわかる、俺たちがどれだけが狂っているかなんて。ただもう止められない。数年とはいえ俺たちは人とは呼べない生き方をしてしまった。少なくとも俺は戻れない。戻ろうとも思わない。敵を殺すことだけを考えて生きるなんて獣以下だろう。だから―――
「もう、殺してくれ!」
「・・・・・」
「お前がここで俺を止めてくれよ!」
「・・・・・」
「そうだな、お前は死神じゃない。ここで俺を止めてくれる救いの神かもな、ははっ!」
もう自分が何いってんのかわかっていない。ただものを喚くそこらのガキと何ら変わらないだろう。が、それがいい加減怒りを買ったのだろう、目の前のアメリカ人は腰の拳銃に手をかけた。
「そうか、俺は救いの神か。嬉しいこといってくれるねぇ」
眉間に合わせられた銃口は何よりも深く、なるほどこれが地獄かと。
「おう、やってくれ」
「ああ、よい来世をな」
ありがとうございました!