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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
彼のいない日
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菊恵! 私を食べろ!


「放せ!!」


私が栞を構えたのと同時くらいに、後方から”パン”と乾いた音が鳴り、私の顔の横を”ビュッ!”と風を切り何かが通り過ぎていく。


目の前にいる死食鬼グール兵の眉間に穴が開き、私の右足を掴んでいる手が緩む。


「今だ!」


私は強引に死食鬼グールの両手から右足を引き抜いて、氷室博士が開けているドアの中へと飛び込んだ。


「よ、よし!!」


博士は”ギギギッ”と鈍い金属音を鳴らして扉を閉めていく。


「はぁはぁはぁ……」


腰を下ろして息を切らしながら私の今居るところ確認するため周りを見渡す。


「はぁはぁはぁ……」


私の目に入ってきたのは、奥に四角い機械が通路を挟んで2基並列に並び、壁と言う壁に配管と配線にそれを制御する基盤の入った制御盤と小さな赤いハンドルなどがある。 


ここはどうやら最後尾の潜水艦の心臓部機関室のようだ。


最後に見えたのは床にぺたりと座り、同じく息を切らしながら硝煙が消えていない銃を左手で握った姿の古都さんだった。


どうやら南雲中尉が古都さんの手首ごと落とした拳銃を彼女が拾い、死食鬼グール兵に右足を掴まれた私を助けてくれたようだ。


「はぁはぁ……ありがとう…古都さん……助かったよ……」


「い…え…無事でよかった……です」


そして”ガチャン”と音が鳴り、博士がハンドルを締めてドアをロックした。


「所で銃の使い方なんてどこで?」


「…せ、先輩が……お前はあぶなかっしいからって……それで、私、護身用で……」


「そ…っか…」


「私、こんなの役に立たないなんて思ってましたけど……須藤さんを助けれてよか――」


彼女は言葉が途切れると同時に冷たく湿った潜水艦の鉄の床へバタンと倒れ、左手に握られたリボルバー型の拳銃は手を離れカラカラと音を立てて鉄の床を滑っていく。


「古都さん!」


私が慌てて彼女を抱き上げると、古都さんの顔色はさっきのよりも白くなり、呼吸もだんだん小さくなっていく。


「博士!」


「ああ! 分かってる!」


彼女を博士に託して古都さんを診てらうが、古都さんを診た彼は苦悶の表情が現れる。


「マズイな。 貧血を起こしている。 このままでは……」


「博士何とかならないのか!」


「無理だ…。 治療するにも道具が足らないし、それに……」


チラリと彼は菊恵さんの方へ視線を向けるのに私は気づいた。


「はぁ……はぁ……」


菊恵さんの方も貧困街スラムであった時とは違い、急激な回復をしているようには見ないどころか、どんどん衰弱していくように見えた。


重体の2人を抱えて、仮にもこの潜水艦を脱出出来たとして、そこから第九造船所、軍港、橋を越えて陸へつくことができるだろうか?


なら2人を置いて私と博士だけで脱出した方が生存率が上がるのではないか?


残酷な考えが私の頭を過らせる。


(違う!! そんなことを考えるな!!)


私は自分の頭をブンブン思いっきり振ってその考えを吹き飛ばし立ち上がって、床に転がった古都さんの銃を拾い上げた。


「お、おい何を考えているんだ!?」


博士がそんなことを言った気がするが、無視して銃のシリンダーラッチを引いて残りの弾数を確認する。


「弾は残り4発か。この銃自体は望月君が使っているガーディアンと同じぽいな」


「アンタ、銃なんか使えるか?」


「昔、ちょっと使っていたことがあったけど、今は魔術が使えるようになったからこう言った物に頼らなくなっただけだよ」


”カチャン”とトップストラップを締めて私は博士に答えた。


「けどそんな小火器で何とかなる状況ではないだろう!?」


「そうだよ? けどやるしかないだ。 やるしか……」


その時、ドアの方から”ドン! ドン!”と強くたたく音が複数聞こえてくる。


『諦めろ! 逃げ道はない! おい早くこじ開けろ!』


大きな声でドア1枚の向こうから南雲中尉の声が聞こえる。


「ああ……もうダメだ……」


博士はドンドンと艦内に響くドアを叩く音に萎縮してしまったのか。


頭を抱えてその場にへたり込んでしまう。


「博士! チィ!」


私は銃をドアへ向けて構える。


「こうなったら刺し違えても……」


私が南雲中尉達が叩くドアの方へ向かおうと一歩踏む出した時だ。


「!?」


何かが私の左足首を掴んだ。


自分の足首に視線を向けると、私の足を掴んだのは息を切らし、顔を真っ青にした古都さんだった。


「古都さん!?」


「だ…め…ですよ……そんな…ことは……」


途切れ途切れの言葉を言いながら古都さんは私に、いつもの笑顔でそう言った。


「けどこのままじゃみんなが!」


「ダメ…です…あなたは死んでは……いけません……」


「しかし!」


「あなたは……生きなければ……じゃないと私は……」


そう言い残して古都さんはガクリと床に打っ伏す。


「古都さん!? くそ! どうすればいいんだ!!」


状況を打開できないイライラから私は大声を上げる。


しかし非常にもこうしている間にも鉄製のドアだと言うのにミシミシと音を立てて、ドアと壁をつないでいる上下の蝶番がグラグラと外れ始めた。


『はははっ! 袋の鼠だな! さぞ恐怖に包まれているだろうな!!』


ドアの向こうから南雲中尉の容赦ない声がさらに私達の不安と焦りを募らせる。


「は……博士……」


菊恵さんの声が聞こえて彼女に方に顔を向けると、博士も先ほどまで床にへたり込んでいたが、すぐ菊恵さんの元へ行く。


「菊恵! どうしたんだ!?」


博士がそう菊恵さんに言うと、彼女はボソボソと何かつぶやいているようだが、ドアを叩く音に彼女の声は私には聞こえなかったが、菊恵さんの近くいる博士の雰囲気が何か変わったのに気付いた。


「そう……だな。 それしかないのか?」


博士が菊恵さんそう言うと彼女は笑顔で小さく頷く。


「須藤さん……」


彼は落ち着いた声で私に声を掛けた。


「もし、もしもここを抜けられたなら菊恵のことを頼みます」


博士のその言葉は何かを決意したように感じたが、彼が何を考えているのか私には分からなかった。


「ま、待ってくれ! 博士!? あなたは何を!?」


「菊恵は言ったんですよ。私達にできることをしようと、これで彼らは許してくれるだろうか…」


博士は私の言葉など耳に入っていないようで潜水艦の天井をスッと見上げ、自分の右肩を菊恵さんに突き出した。


「菊恵! 私を食べろ!」


彼の声と共に菊恵さんは博士の右肩に噛みつき、そのままガブガブと歯を立てて彼の肉体を食らっていく。


「そう…だ…菊恵……」


博士の右肩からは赤黒い血飛沫が勢いよく吹き出し、彼の着ている白いYシャツを赤く、赤く染めていく。


「菊恵さん!!」


私は思わず菊恵さんの肩を掴んで彼を捕食させるのをやめさせようしたが、その時に博士の体を食べている彼女の顔見た時、私は肩を掴んだ手を緩めてしまった。


博士を食べている彼女の瞳からは絶え間なく涙が頬を伝って流れ落ちている。


彼女の着ている白いワンピースを赤く染めながら。


「……菊恵を……止めないでやってくれ……」


「博士!」


ヒューヒューと口で息を絶え絶えにしながら博士は私にそう言った。


「僕…達に…できることは…これしかなかったんだ……。 こ…このままじゃ……あなたも……き、菊恵も……だから……僕には……ゴホォ!」


彼の口から大量の吐血が吐き出されて、ゲホゲホと咳き込む。


「ハァ……ハァ……ああ、村長……所長……」


突然、博士は周りを見渡して、小さく呟いた。


「主任……千倉…みんな……ごめん……」


博士が最後にそう残すと、彼の目から光が消えた。


「博士!! 氷室博士!!」


そう叫んだと同時に”バン”という音がドアの方から聞こえて、そちらに顔向ける。


ドアは死食鬼グール兵達の叩く力に負けて上の蝶番が外れている。


そしてそのドアと壁の隙間からは、複数の真っ赤な光を放つ目がこちらをジッと視線を送っている。


「ははは!! 年貢の納め時だな!!」


赤い目の軍団の奥から南雲中尉の声が、クリアーに響いてくる。


彼らの姿に私の背中にゾクッとしたものが走る。


「くっ! 諦めるか!!」


私はドアと壁の隙間に狙いを定め両手で拳銃の引き金を引く。


”パン、パン”と乾いた音が響くと同時に、銃の衝撃が私の負傷している右肩へと伝わって狙いをぶれさせる。


「くそ! このぉー!」


空しくも私が放った銃弾はドアや壁に当たって跳弾し、パイプや計器盤に当たり、銃創から湯気や電気のスパークが見える。


”パン! パン! カチカチ”


「チィ!」


最後の弾を撃ちつくし、弾の無くなった銃のハンマー音が空しく響く。


そしてヤケクソとばかりに持っていた銃を隙間向けて投げつけるが、空しくもドアの左側に当たり床へと落ちた。


「ははは! 怯えろ! 怖気付け! 恐怖を感じたまま私達の仲間となれ!!」


そして”バン! バタン!”と音を立ててドアと壁を繋いでいた蝶番は外れ、鉄製のハンドルの付いたドアは勢いよく床へと倒れた。


同時にぞろぞろと死食鬼グール兵が機関室へと入ってくる。


「終わりだな?」


死食鬼グール兵達を押しのけて、不敵な笑みを浮かべながら南雲中尉は私の顔見ながらそう言った。


「まだだよ!」


私は栞を南雲中尉に向けて構える。


「悪あがきを……」


彼は指をパチンと鳴らすと、中尉を守るように4体の死食鬼グール兵が彼の前に出る。


私の今持っている栞で、南雲中尉だけ攻撃したとしても、残りの死食鬼グール兵を倒し切ることができるか?


いざとなったらそこ等にあるパイプや鞄で殴りつけてやればいい。 そう考えていた。


「あはははっ!! お祈りは済ませたかい?」


南雲中尉の高笑いと共にジリジリと死食鬼グール達が私に近づいてくる。


その時、私の後ろから怒号にも似た叫びが響き渡る。


「うわあああああああぁぁぁぁ!!!」


私が振り向くよりも先に私の横を疾風のごとく擦り抜けて、近づいてきた死食鬼グールに殴り掛かった。


「ゴッ!」


死食鬼グール兵はそんな声を上げさせて、そいつの腹部に右拳を貫通させる。


「ゴッ……ア……」


「あああああああ!!!」


大きく叫びさらに左手を同じく腹部に突っ込んで死食鬼グールを左右に引き裂いた。


引き裂かれた死食鬼グールの体からは黒い腐敗臭のする血が噴水の様に吹き出し、ピクピクと少し痙攣したのち動かなくなった。


「き、菊恵さん!?」


私の前に現れたのは白いワンピースを赤く染めた菊枝さんだったが、後ろ姿しか見えないが、どうも様子がおかしい。


貧困街スラムでも菊恵さんは博士を守ろうとして、南雲中尉の部下達に対して大暴れをしたが、今回の彼女からは、私が現代で戦っている連中と同じものを感じる。


そう深く絶望し、黒く憎み、相手をズタズタにしてやろうと思うもの。


殺気だ。


今の彼女からは、ここに居る死食鬼グールや南雲中尉、そして現代で私が戦っている異形の者どもと同じどす黒い殺気が体中からにじみ出ている。


「菊恵…さん…?」


私に声を掛けられ彼女はゆっくりとこちらを向いた。


菊恵さんの顔は、口は犬の様に引き攣って犬歯が見え、眼光は鋭くなっている。


ボーっとしていた表情を浮かべていた彼女からは想像できない、まさに怒りの表情。 いや恨みに近いものがある。


そして菊恵さんの目は他の死食鬼グールと同じく、赤く、鈍く、鋭く、光っていた。


菊恵さんの顔を見た私は思わずゴクリと唾を飲んだ。


私の表情を見た彼女はすぐに前を向いて残った3体の死食鬼グール兵の一人の顔面目掛けて飛びつく。


「ああああぁぁ!!!」


その菊恵さんの動きは遥かに人間を超えていた。


もし私が魔術で肉体強化をしたとしても、彼女スピードに追い付けるかどうかは分からないほどだ。


菊恵さんは飛びついた右腕が死食鬼グール兵の首をもぎ取る。


死食鬼グール兵の捥がれた首からは再び血が噴水の様に噴出してその場にバタリと倒れた。


そしてそのままの勢いを殺さず、菊恵さんは次の死食鬼グール兵の右腕を掴みそのまま引き千切った。


「ガァ!?」


引地がれた勢いでヨロヨロと後ずさりする死食鬼グール兵に、菊恵さんが右手に持った死食鬼グールの右腕をスイングさせて死食鬼グール兵の顔面へと叩き込む。


”バン”と激しい衝突音と共に死食鬼グール兵の顔面と右腕の二の腕部分が吹き飛んだ。


 続いて残った右手部分を、最後の一体の死食鬼グール兵に投げつける。


「グガッ!」


 見事に右手を顔面にヒットさせられた死食鬼グール兵は大きくのけ反り、地面へと仰向けに倒れ、そこへ菊恵さんはマウントポジションを取る形で死食鬼グールの上に乗りかかる。


「あああああああああ!!!」


 彼女は大声を上げて両手で拳を作って振り上げ、振り上げられた拳を死食鬼グール兵の顔面に叩き込んだ。


 ”ドン”と音と、ビリビリと潜水艦の鉄製の床が震え、死食鬼グール兵の体が大きくビクンと動くのを最後に、頭部を潰された死食鬼グール兵はピクピクと痙攣するだけだった。


 「凄い……」


 魔術が使えないとはいえ、瞬く間に私の前に居た死食鬼グール兵を倒してしまった彼女に対してそんなことを漏らしてしまう。


 今度は菊恵さんはゆっくりと死食鬼グール兵の体から立ち上がり、キッと南雲中尉を睨み付ける。


 「ほぉ……」


 南雲中尉はそう呟き、少し驚いた表情を見せる。


 次の瞬間には、瞬間移動するような動きで彼の前に、腰を低く右手を硬く作った菊枝さんが居た。


 「うわぁぁぁ!!」


 そして彼女の右手が南雲中尉に向けて放たれた。



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