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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
彼のいない日
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健闘をお祈りするよ。 可愛い女給の御嬢さん

「は、幅跳びだぁ?」


 私の質問の意味が理解できず、藤堂さんは不可解と驚愕の表情を浮かべている。


 「ふふふ、そうだよ。 ちなみに私の体力テストの成績では――」


 自分のこの間行われた体力測定テストの成績を発表しようとするが、それを遮るように彼は大声を上げた。


 「ふ、ふざけるな、須藤! さっき俺が説明したが、夜には橋桁が上げられているし、支柱を支える小島が幾つかあるが、それでも500メートル近い間隔で配置指されている。 陸地から陸軍港まで大体2Kmも離れているだぞ! 人間にそんな距離を飛べるはずがないだろう!」


 珍しくかなり興奮気味に私に藤堂さんは話しかけるが、彼は私がどういう存在か忘れているようだった。


 「ふふふ、そんなに大声を上げると、折角静かに帝都港に近づいたのに気付かれてしまうよ?」


 「……ちぃ!」


 舌打ちをして不貞腐れて近くにあった小石を蹴り上げる藤堂さんを私はニッコリとした表情で見ていた。


 「まぁ任せてくれよ」


 「……はぁ、もう好きにしろよ」


 ニコニコと彼を安心させるために言った一言だったが、どうやら逆効果だったらしく藤堂さんはため息を付いた後、投げやりな態度でその返答をした。


 「さてそれじゃあ、その工業港やらへと行こうか」


 カツカツとメイド服の革靴を音を鳴らしながら彼よりも先に進んでいくが、後ろから藤堂さんが来ている気配がないので振り返ると、彼は相当イライラが溜まっていたらしく、煙草を口に咥えて何かしら考え事をしているように地面に書いた地図を見ていた。


 「ふぅ、藤堂さんおいて行くよ」


 「ふん! 仕切るんじゃァねぇよ!」


 彼は加えていた煙草をペッと吐き捨てると、私を追うように足早に歩きだし、私も工業港へ向けて歩き出した。


 ・


 ・


 ・


 ・


 商港を抜けて工業港へ入ったが、深夜だったこともあり作業員や警備員の数が少なく、あっさりと陸軍港の入口である可動橋の手前までやって来た。


 私達は橋を警備する詰所の手前から10メートルくらいの場所に身を隠せそうな木箱を積載している所があったのでそこに身を潜めて橋の様子を伺う。


 「やっぱり橋桁が上げられちまってるな。 操作するにも操作室コントロールルームの場所が分からねぇんじゃどうしようねぇしな」

 

 「警備は2人か、手にはライフルに腰に拳銃が見えるな。 軍服を着ているしこの先が陸軍港なのは間違いないだろう……ん?」


 私が詰所の警備兵を見ると見覚えのある顔がそこを守っていた。


 その現実に私は呆れというか、何と言うか深いため息が漏れる。


 「ハァ……これもまた”神の神の思召す通りに”ってやつだろうか」


 「なんだぁ? あそこの連中に覚えがあるのか?」


 「ええ、うんざりするくらいだよ」


 これも何かの運命か、周りが暗くても詰所に灯っている電灯の明かりで、印象深いあの二人がそこにはいた。


 最初は喫茶店、二回目は路地裏で私に絡んできた無精ひげを生やした兵士と痩せ形の兵士が橋を警備している。


 正直な所、私はもう彼らに会いたくはなかったが、これから向かう先に2人が立ちふさがっているのだから仕方がないと言えば仕方がないのだ。


 しかし相手のことが分かっている為、私の考えた作戦よりも簡単に向こう側へ渡ることが出来そうだ。


 「藤堂さん、作戦変更だ。 ちょっと私が行って橋を下ろしてくるよ」


 「はぁ? お前は何近くの商店に買い物を行くようなことを言って――」


 「それじゃ、橋桁を下ろしたら合図するよ」


 「っておい!」


 私は闇夜の陰に隠れながら忍び足で橋の警備詰所に向かった。


 後ろで叫ぶ藤堂さんを無視しながら。


 程なく詰所の光で陰になっている壁までたどり着くことができた。


 身を隠すため屈んで周りを確認する。


 ふと上を見るとそこには小さな窓があり、そこから中の電灯の光が漏れている。


 「さて中の様子は……」


 私は静かにその窓から中を覗き見ると、2人の姿は無くどうやら外へ警備に行っているようだ。


 室内は木製の椅子と机、ライフルを置くための木製のラックに、入口のドア横の壁にはこの橋の地図といくつかの鍵がぶら下がっていた。


 (制御室コントロールルームの場所はあの地図を見れば分かりそうだな。 ただ、ここからだと少し距離がって見えないな)


 私の居る位置からでは、地図のサイズが小さいこともあり詳細な場所まで見ることができなかった。


 「仕方がない。中に入って確認を――」


 室内に入って地図を確認しようと体を起こそうとした時、詰所のドアが開かれた。


 (くっ!)


 私は急いで身を引込めて壁に張り付いて隠れる。


 「ったく! やってらんねぇーよ!!」


 「……仕方ないだろう」


 詰所の中から不機嫌そうに大声を上げる無精ひげの兵士の声とそれを鎮めるような口調のやせ形の兵士の声がした。


 「南雲中尉もさぁ、いくらなんでもこんな所に配置転換しなくてもいいじゃねぇーか! 周りが資材ばっかりでやんなってくるぜ!」


 「文句を言うなよ。 基地にしょっ引かれた俺達を南雲中尉が助けてくれなければ、今頃は牢にぶち込まれて明日の朝には銃殺されていたんだから」


 「だからってよー 俺は一旗揚げるって言って田舎から出て来たのにこんな所に居たら武勲の1つも立てられねぇよ!」


 「そこら辺の事情は俺だって同じだ。 今は命があっただけマシと考えるようにしてるんだから、あんまり変な気を起こさないでくれよ」


 「わ、わーってるよ!」


 彼らの話を聞くに、以前に老紳士が話をしてた地方出身の兵士達のようだ。

 

 しばらく2人の話に聞き耳を立てていたが、こちらとしても古都さん達が捕まっている手前、そんなに待つこともできない。


 「あ~あ、ここであのクソアマが出てきて、とっ捕まえれば警備兵じゃなくて原隊復帰できるんだがなー」


 「グダグダ行ってもしょうがないだろう。 今は警備が俺達の任務だろう?」


 「そうだな! クヨクヨしてもどうにもならねぇよな」


 「ふっ貴官のそう言った性格がうらやましいよ」


 「そうか?」

 

 「そうだよ」


 「「「ははははっ」」」


 2人の笑い声に女の声が混じったことに気が付いた2人は声のした小窓の方に急いで顔を向けると表情が固まった。


 「ふふふ。 どうやら苦労しているみたいだね」


 「なっなっなっ!!」

 

 「かっかっかっ!!」


 2人は声にならない声を出して、姿を見せた私に驚愕している。


 こんな広いて帝都でまさか3度も自分たちをこんな所へ送り込んだ張本人にであるとは思ってもいないだろう。



 「まぁ少し振りであの時の思い出話もしたいところだが、残念ながら私は時間がないので君達には悪いがここで大人しくしてもらうよ」


 私は窓越しからニコリと笑って魔術式の書いたメモをポケットから取り出し、指をパチンと鳴らした。






 少し時間が経ってから詰所のドアから外へ出た私は向こうの方で隠れている藤堂さんに手を振って合図を送る。


 それに気づいた彼は周りを警戒しながらこちらへと小走りで向かってきた。


 「おい大丈夫だったか?」


 その問いに私は自信満々に鼻を鳴らしながら答えた。


 「な~に余裕だったよ。 それに制御室の場所の書いてある地図とそこの鍵を手に入れたからね。 後は向こうで操作するだけだよ。 こっちだな」


 私が地図で制御室の場所を確認して、彼を案内するため数歩動いたところで後ろから”ギィ~”と音を鳴らして閉めたはずの詰所のドアが開く。


 「……ん? あ~あ」


 後ろから藤堂さんの呆れた声が聞こえる。


 まぁ彼の方を見ているわけではないが、たぶん開いた詰所のドアの中を見たのだろう。


 室内には人が1人通れるくらいの穴が開いた壁と、床に無数の箸サイズのサジタリウスで固定されて気を失っている可哀想な2人の兵士を見つけたことだろう。


 「ちょっとやり過ぎやしないか?」


 急いで私の後を追いかけて来た藤堂さんが呆れた声で私に話しかける。


 「そうかい? まぁ彼らとは何かと縁があってね。 この程度じゃなんともないさ」


 「そ、そうか……」


 彼の声から察するに私の行動で若干引いてしまった様な感じはするが、そんな会話をしている内に詰所のすぐ裏手にある制御室へと私達はたどり着いた。


 制御室は壁はコンクリート、屋根は鉄製の鉄板を張り付けた作りになっていて、入口には鉄製のドアに小さな小窓が付いてた。


 私が小窓から中を覗くとコンクリートの壁に設置された窓から入る外ライトの光が入り込んで若干中の様子が窺えた

 

 室内はやはりと言うか必然に制御盤や室内の電灯は電気が落とされている。


 ドアノブを回してみるが、やっぱり鍵が掛かっていた。 そこで先ほど詰所で手に入れた制御室と書かれた鍵を使い難なくドアを開くことができた。


 「さ・て・と、藤堂さんお願いがあるのだけれど、橋の制御盤の方をお願いできる?」


 「なんだ? ここまでうまく進めたからアンタが橋を下ろすと思っていたが、何かあるのか?」


 不思議そうな表情を浮かべながら彼はそんな質問をしてきたが、これに対する答えは単純にして明快である。


 「なんというか……魔術や怪物の戦闘とかは得意なのだけれど、こう言った機械類は苦手でね。 実は藤堂さんも機械音痴ということかい?」


 「いや、俺は昔にこの手の機械経験はあるから大丈夫だが、女給の格好をしているからてっきりそっちの方も大丈夫かと思っていたぞ」


 「何事も人は見た目では分からないってことだよ。 それに私は女給でないとこの時代の人達に何度言えばわかるんだ」


 「じゃあなんでそんな恰好をしているんだ? 趣味か?」


 そう言われてしまうと辛いのだけれど、最近になってこの格好がだいぶ板についてしまっているような気がしてならないが、本来は淳子姉じゅんこねぇのクラーケンのガラス細工を壊してしまった罰ゲームだし、メイド服を選択したのは私ではなく淳子姉じゅんこねぇなのだから、彼女の趣味であって断じて私の嗜好ではない。


 「ちょっとした罰だよ」


 「罰ねぇ。 あんたの時代はその恰好をするのは罰になるのか?」


 「人によっては罰だしそうでない場合もある。 私も何を言っているか分からないが……」


 「そんなもんかね。 じゃあちょっとやってくるよ」


 「ああ、お願いするよ」


 私は制御盤と書かれたタグが付いた小さな鍵を藤堂さんに手渡し、彼はそれを受け取ると制御室の鉄製のドアを開いて中に入っていた。


 「さ~って」


 外に一人残された私は軽く首を動かして関節を鳴らすと、すぐさま自分の後ろを振り向いた。


 「やっぱりあなたは何処でも現れるのですね?」


 私が振り向いた2,3メートル先には最初に出会った老紳士がいつもと変わらぬ笑顔でこちらに微笑んでいる。


 「いつから私があなたの後ろにいると思っていたのか?」


 紳士はゆっくりとした口調で私にそう問いかけた。


 「いいや、今回はオカルト的だが”カン”ってやつだよ。 それにあなたはこれから大事な場面やピンチの時には必ずと言うほど現れている。 私達はこれから古都さんを助け行くと言う場面なのだからもしかしたら……ってね」


 私がそう答えると彼は少し驚いた表情をしたが、すぐに直し”ふぉふぉ”と笑った。


 「ふぉふぉふぉ。 確かに私は君の重要な”場面”に必ず現れているね。 恐れ入ったよ御嬢さん」


 「それになのだけれど、あなたがここに現れたことによって、私があくまで推測していたことが確信に変わろうとしているのもあるよ」

 

 「ほぉ……」


 こう言った瞬間、老紳士の表情が口元は微笑んでいるが眼光が鋭くなったのを私は感じた。


 「それは……」


 私が言いかけた時、轟音と共にモーターの駆動する音が聞こえて、橋の方に顔を向けるとゆっくりと橋げたが降下していく。


 どうやら藤堂さんが制御盤の操作に成功したらしい。


 そして再び老紳士の方を向くとすでに彼の姿はそこには影も形もなかったが夜空の向こうから彼の声が木霊する。


 『ふぉふぉふぉ。 さぁ御嬢さん次で最終章だ。 橋を渡ればもうこちらに戻ることはできないだろう』


 「お気遣い痛み入るよ。 まぁ次にあなたが現れるタイミングも掴んでいるしね。 次はその時にでも話をしよう」


 『ふぉふぉふぉ。 その時を楽しみにしているよ。 それとこれは助言だ』


 「助言?」


 『君と一緒にいる男には注意した方がいい。 彼の行動は”シナリオ”に入っていない』


 「シナリオに入ってないだって? それはどういう……」


 『健闘をお祈りするよ。 可愛い女給の御嬢さん』


 そう言い残すと老紳士の声は立ち消えてしまった。


 藤堂さんの行動はシナリオに入っていない?


 これは一体どういうことなのか?


 「おーい、とりあえず何とか動かせたぜ」


 制御室のドアを開けて藤堂さんが姿を現したが、私が何か考えている素振りをしているのに気付いてすぐに声を掛けてくる。


 「なんかあったのか?」


 この質問を答えることに私は少し間を置いた。


 ここまでに至るすべてを彼には話していたが、老紳士が最後に言った言葉がどうにも頭に引っかかる。


 「いいやなんでもないよ」


 「……そうか」


 私がこう答えたとの同時に、五月蠅いモーター音は鳴りやみ”ズン”と小さな地響きを鳴らして橋げたが下りきって陸軍港への道が出来上がった。


 「んじゃ行くか」


 藤堂さんは一仕事終えたばかりにコート内ポケットから煙草とマッチを取り出して一服すると橋を渡るために歩き出した。


 「………」


 「おーい、どうしたー」


 その様子を見て少し考え事をして立ち止まっていた私を藤堂さんが大声で言葉を掛ける。


 「すまない。 すぐ行く」


 私はその声に反応して考えるのを止め、古都さん達が捕まっている陸軍港へ行くために降りた橋を渡り始めた。


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