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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
彼のいない日
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……あんたの顔……どこかで……


 部隊長を藤堂さんに担いでもらい、私と朝倉教授、執事さんは1階の騒動が起こる前に居た応接室に移動した。


 そして彼をある仕掛けを施した椅子に座らせ、藤堂さんと執事さんに縄で椅子に固定する。


「しかし……須藤さんよぉ?」


 隊長を椅子に縛りながら藤堂さんが訝しげな表情を浮かべて私に問いかけた。


「本当にこいつが、古都や他の連中の居場所を知っているのかぁ?」


「その点に関しては大丈夫だろう。 玄関で教授に令状を突きつけた時に南雲中尉の名前を言っているからね。 彼の直属の部下で間違いないと思うよ」


「う~ん、どうもなぁ」


「まぁ任せておいてくれ」


藤堂さんは私の答えに納得はしていないようで、首を傾げながら作業を続ける。


「これで良し、これだけ縛ればどんなに動こうが外れることはねぇだろう」


部隊長は椅子の足から背もたれの天辺まで、まるでギャグ漫画のキャラクターみたいにグルグルと厳重に固定された。


「縛り付けたのはいいが、こいつからどうやって聞き出すんだ? まさか自白剤のような魔術でも使えるてぇのか?」


「確かにそう言った魔術はあるが、私が使えるのはあくまで戦闘用だけだ。 そういった物は苦手でね」


「なら軍人のように暴力で聞き出すのかね?」


「いいえ教授、私はそう言った暴力は嫌いだし、第一手が痛くなるのはもっといやですよ」


「……うぅ。 ここは……」


 彼らと問答している内にどうやら部隊長が目を覚ましたようで、気が付くなりいきなり怒号で吠え始めた。


「き、貴様ぁ!! そこに居たかぁ!! ここまでの屈辱を受けて黙ってられるか!! 動くな!! 今、叩き斬ってやる!!」


 隊長が威勢よく私を真っ二つに斬る宣言をするが、彼が腰につけていた銃や刀はもちろんこちらで没収してあるし、何より身動きが取れないことにようやく気が付いたようで、さらにものすごい剣幕で叫んだ。


「う、動けん!! くそぉ!! この!! 貴様らぁ!! 帝国軍人に対してこのような仕打ちをして、ただで済むと思っているのかぁ!! 貴様ら全員を斬首してやる!!」


ガタガタと縛り付けた椅子ごと体を揺らしながら、虚勢を貼っている隊長の姿をもう少し眺めていたい気もしたが、こちらも人質が取られいる手前、時間がない。


「やれやれ。 五月蠅い犬だ」


私は教授の執事さんに隊長から没収した刀を持ってきてもらい、それを受け取り鞘からスッと抜刀してジロジロと刃の部分を凝視する。


「良く手入れされいるいい刀だ。 これなら”首”も一太刀で斬れそうだな」


「おい! ちょっと!」


私の行動を見ていた藤堂さんから肩を掴まれストップが入り、小声で私に耳打ちをする。


(目的は古都達の居場所を聞き出すことで、殺すことじゃないだろう?)


(もちろんそうだよ。 何を言っているんだ? 藤堂さん?)


(さっきからあんたの行動はとてもそんな感じに見えないんだよ! こいつを殺しちまったら肝心の情報源が――)


(ふふふ。 心配性だな藤堂さんは……)


(お、おい!)


 私は藤堂さんの制止を振り切り左手に抜刀した刀を持って、椅子に縛られている隊長の前に立つ。


「なんだぁ!! 貴様は私を斬るつもりか!!」


「もちろん貴方の返答しだいだよ。 私達はただ情報がほしいだけだ。 さぁ貴方の上司が捕まえた私の友人の居場所を教えてくれないか?」


「ハッ! そんなこと言える筈がなかろう!!」


ここで彼は”知らない”ではなく”言える筈がない”と答えた。


つまりは少なくとも古都さん達がどこかへ連れて行かれた場所は知っていると言うことだ。


「言える筈はないか……なら居場所は知っているってことだな」


 私は刀の柄を両手で握りゆっくりと振りかぶる。


 その際、傷ついている右肩がズキンと鈍い痛みが私の全身を走り抜ける。


「さて? 答えてもらうぞ。 古都さん達は何処にいる?」


「貴様らのような非国民に答える舌など持っておらん!! 斬るなら斬ってみろ!!」


「そうかい? ならそうさせてもらう!」


「お、おい!! 須藤!!」


 藤堂さんの声が後ろから聞こえ、私は思いっきり刀を振り下ろした。


”ビュっ”と風切音が鳴り、”ガキン”と金属音を鳴らして刃は、椅子に固定されている部隊長の右真横の床へ突き刺さる。


「ふん! やっぱり人は斬れんではないか!! この腰抜けが!!」


「……ほっ」


 私が本当に彼を斬るのではないかと心配していた藤堂さんは、床に突き刺さった刀を見て安心したのかホッとため息を出す。


「やっぱり、慣れないことをするものではないな。 ……よっと!」


 私は床から刀を引き抜くと、そのままポイッと床へと放り投げる。


「さぁ! 次はどうするんだ! 私の口は帝都一硬いぞ!! 貴様のような変てこな格好をしているアマなんぞに割れるものか!!」


「ふーん。 ”帝都一”口が堅いねぇ」


 私は部隊長を固定している椅子の正面から、ツカツカと履いている靴の音を大きく鳴らしながら彼の左脇に移動して、左手を部隊長の肩へ置いた。


「なるほど、さっき私が刀を振り下ろしたのに臆することがないとは、”本当に口は堅い”ようだね」


「ふん! 私は大陸で捕虜になったことはあったが、敵兵に一切口を割らずに脱出してきた経歴があるのだ! この程度の脅しで臆するものか!」


「そうか。 ……ならこれならどうだ?」


 私は彼の肩から手を放し、右手で指をパチンと鳴らす。


「!!??」


 その時、部隊長の体がビクンと大きく唸った。


「な、なんだ!? 今、尻に……」


「貴方のお尻に呪いを掛けさせて貰った。 私が指を鳴らすたびに君の体は下から上に向かってゆっくりと腐っていく。 もちろんこれは殺す為の”魔術”ではなく”呪い”だからね。 貴方の体は肉が腐り骨だけに成ろうとも脳は意識を保ち続ける」


「ふ、ふん! そんなブラフなど……」


私はパチンと今度は大きく指を鳴らすと、再び部隊長の体が大きくビクンと痙攣する。


「ぐぉ!! こ、今度は下半身が痺れて……」


「だから言ったろう? 呪いだって、さぁ古都さん達はどこ居るんだ?」


「こ、こんな小細工ごときで……」


「ふん。 なるほど」


 私は三度パチンと指を鳴らす。


「うぉ!! せ、背中が剣山に押しけられているような痛みが!! まさか、本当に私の体は……」


「ほらほら、君は口が堅いのが自慢だろう? この程度のことでは”口は割れない”よね」


 私は連続して指を奈鳴らし、その度に部隊長の体はビクンと大きく揺れたのち苦痛の表情を見せる。


「ほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらぁ」


「ぶぉう!! ごげせ!! ばぶる!! ぼべぇ!!」


「間違いネェ。 この女はどSだ。 おっかねぇ……」


 私の部隊長を拷問する姿を見て藤堂さんがそんなことを漏らしたのが、私の耳に入る。


そして何回か指を鳴らしている内に、部隊長の顔が苦痛の表情から、目は涙目になり、鼻水が滴り、口からはヨダレがボタボタと垂れ始める。


「わ、分かった! 分かったから!! これ以上は!!」


「ふふふ。 聞こえないな」


 許しを哀願する部隊長を無視して私は指を鳴らし続ける。 


 なぜだろう? こうしていると心から踊る様な快感が体を突き抜けていく。


 ここから戻ったら、望月君が魔術を失敗した時はこれでお仕置きするのも面白いかもしれないと妄想が浮かぶ。


「おい! 須藤!!」


「ほら、ほらほら、ほらほらほら!!」


「おいって!! これ以上やったらやっこさん死んじまうぞ!」


 私の後ろからグイッと左肩を須藤さんに引っ張られてハッと我に返った。


 「……あ」


 私が我に返った時、目の前の椅子に座っていたのは顔のありとあらゆる場所から涙や鼻水、よだれ、耳からもなんか緑色をした謎の液体が流れ出して気絶している哀れな部隊長の姿だった。


 「はぁ……やり過ぎだ……」


 「す、すまない。 つい面白くて……」


 「まったく、加減を考えろよぉ。 馬鹿野郎がぁ……」


 藤堂さんは気絶している部隊長の頬をパンパンと叩くと、彼は小さく”うぅ”と唸る。


 なんとか殺さずには済んだようだが、私にこんな体質があったとは……自重せねばならんな。


 そう言った反省をしている時に藤堂さんが話しかけてくる。


 「ところで須藤よ? こいつから聞き出すのに使ったのは本当に”呪い”なのか?」

 

 彼は私が使ったのは”魔術”ではなく”呪い”だと半信半疑のようだ。


 「いや、私が使ったのは魔術だよ。 簡単な仕掛けだよ。 底部に教授の使った魔術を私なりに威力を下げて魔術式を書き直したんだ。 背面にもサジタリウスの威力とサイズを針ぐらいまで下げた呪符を着けていただけだよ。 まぁこの手の陳腐な手が通用する相手で助かったよ。 フフフ」


 「はぁ~魔術ってのは便利なもんだな」


 「そうでもないよ。 使い方を誤ればどんな反作用リバウンドが襲ってくるかは分からないしね」


 そんなことをしている間に、どうやら部隊長が目を覚ましたようだ。


 「ハゥっ!!  こ、殺される!! 助けてくれぇぇぇ!!」


 先ほどとは打って変わり、目から大粒の涙と鼻水を垂らしながら藤堂さんに助けを懇願する姿はとてもじゃないが、威風堂々の帝国軍人の威厳などまったく無かった。


 「さ・て・と、答えてもらうか。 古都さん達は何処にいる?」


 「い、言う!! 言うから!! もう呪いはやめてくれ!!」


 「き、貴様らの仲間は……」


 「貴様ら?」


 私は部隊長の”貴様ら”という単語に、イラッと来たので指を鳴らす素振りを彼に見せると、部隊長は怯えた表情で言葉を言い直す。


 「い、いえ貴方様のお仲間は望月中尉の命で、今建造中の特殊揚陸艇に連行した!」


 「特殊揚陸艇? 君らは陸軍だろう? なぜ船を持つ必要があるんだ?」


 特殊揚陸艇という言葉に、今まで黙っていた朝倉教授が部隊長に問いかける。


 「く、詳しいことは御上のことで私には分からんが、海軍が新型空母を建造していること対するいつもの”あて付け”ぐらいにしか私には分からん! と、とにかく彼らはそこへ運んだ!」


 「それで? その特殊揚陸艇にはどのくらいの規模と人数がいるんだ?」


 「そ、それは軍事機密で……」


 口ごもった部隊長に、私はニッコリ笑って指を鳴らすポーズをする。


 その姿を見た彼はすぐに大声で答えた。


 「い、今は中尉の命令で作業員は追い払ってある! こ、この時間なら見張りの兵士が5,6人だけだ!!」


 「そうか。 船の場所と南雲中尉は?」


 「船と帝都湾内の第9造船所だ! 中尉は大本営に呼ばれて帝都陸軍基地に戻っているはずだから、造船所にはいないはずだ。 私が知っているのはこれだけだ!! 頼む助けてくれ!!」


 「分かったありがとう。 とりあえず聞けることは全部聞いたか。 藤堂さん彼を放してやってくれ」


 「あいよ」


 部隊長はホッとした表情を浮かべ、藤堂さんが縛っている彼の縄を外し始める。


 その時、部隊長は藤堂さんの顔をまじまじと見ると何か気づいたような顔を見せる。


 「……あんたの顔……どこかで……」


 「なんだ? 藤堂さんの知り合いか?」


 「いや……」


 「あ、あと古都さん達はちゃんと無事――」


 そう言いかけた時、突然、応接室のガラスを突き破って黒い何かが室内へと侵入し真直ぐに部隊長へ向かっていく。


 「うぉ!!」 

 

 「藤堂さん!」


 藤堂さんは侵入してきた何かに突き飛ばされ、応接室のドアに背中からぶつかり床へと落ちる。。


 私が侵入してきた者に目を向けると、室内は電灯で明るくなっているのに入ってきた物体は黒い霧状の物体で包まれていて全体を見ることが出来ないが、赤く鈍く光る眼だけはそいつの纏っている漆黒の奥からギラギラと光っている。


 「何だこいつ、黒い霧が姿を見えなくしている?」


 私はポケットに残っている栞を取り出して構えると、黒いソレは闇の中から手のようなものを取り出して部隊長の体を掴む。


 「ひ、ひぃぃぃ!! た、助けてくれー!!」


 部隊長の叫びも空しく、黒いソレは彼を縛った椅子と共に突き破った窓から外へと飛び出していった。


 「ま、待て!」


 私が割れた窓から外を見回すが、闇夜がそいつの姿を隠してしまって姿を見つけれることができなかった。


 そして静寂だけが屋敷と私達を包んでいった。

 


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