それじゃ帰るとするか、望月君
リビングから奥の部屋に入ると、そこは、どうやら女性の私室のようだ。
右に、押入れと鏡台にテレビ、中央には小さいテーブル、左にシングルベットと引き出しが3段のほどのタンスが配置されており、タンスの上には伏せられては居るが写真立てと思われる物と花瓶が飾られている。
「ふむ……ここかな…」
俺が部屋の様子を観察していると、先輩は何かに気づいたのか、押入れに一直線に向かった。
先輩が押入れを開けると、さらに何か納得したようだった。
「やはりか……」
「何を見つけたんです?」
俺も先輩の近くに移動し、押入れの中のものに、唖然となる。
中には、中央に魔方陣が書いてあり、その上に1枚の紙が置いてある、左右には蝋燭が立ててあり、火をつけた形跡があった。
「まるで、祭壇みたいですね……」
「祭壇か……これは、そんな神聖なものではないよ、それに……」
「それに?」
「これは、すでに、使用されてたものだ」
先輩は、魔方陣の上に置いてあった、紙を手に取った、表は真っ白で、何も書かれておらず、裏側にひっくり返す。
どうやら、これは写真で、1人の人物が写っていた。
俺もその写真を横から覗き見る。
「あ! こいつ!」
「ん? 望月君、この人物に心当たりが?」
心当たりもあるも何も、金髪に髭、ピアス、見間違うことはない、ゲームセンターで俺に絡んできた男がそこに写っていた。
「ええ、あの女生にさらわれる前に、ゲームセンターでこの男に絡まれたんです」
「そうだったのか」
「けど、なぜ、男の写真がここにあるんですか?」
「ふむ……」
先輩は、手を顎にあて、少し考え事をしていた。
俺は、先輩が考えている間に、タンスの伏せられている写真立てを手に取る。
写真立ての中の写真には、幸せそうに、写っている、茶髪の男と、さっきの女性の姿があった。
「どうやら、恋人同士だったみたいですね」
見つけた写真立てを、彼女に差し出す。
「そうか」
先輩は、ポツリと呟き、写真立てを調べ始めた。写真立ての裏蓋を外すと、写真のほかに1枚の折りたたまれたメモ帳が出てくる。
「何か、書いてありますか?」
彼女は、メモ帳を広げ、朗読し始める
「ええっと、『龍二なんで…なんで…なんで…あんな女に、私はあなたを、あんなに、あんなに、あんなに、あんなに、愛していたのに…
今までの、あなたと過ごした時間はなんだったの……、あれは、うそだったの?うそだったの?なら、あんたなんか、呪われてしまえばいい
毎晩、毎晩、地獄のような悪夢を見続けて、死ねばいい、呪われろ、呪われろ、呪われろ』」
「………」
俺が見つけたメモ帳には、あの男に対する恨みの言葉が綴られていた。
「怖いものだな……」
先輩は、また、ポツリと呟き、写真立ての裏蓋をメモ帳とともに元に戻す。
「須藤先輩、それで、”依頼”のは見つかったんですか?」
「いや、まだだ」
一体、先輩は何を探しているんだろか?そんな疑問を感じながら写真立てを元あった場所へ戻そうとするが、
手を滑らせて床に落としてまう。
「あ…」
「望月君、大丈夫かね」
「はい」
床から写真立てを拾おうとする、タンス隙間に何かが落ちているのに気づき、写真立てを戻し、それを拾い上げた。
また、折りたたまれた紙だったが、先ほどのメモ帳とは違いかなり、古びた感じだ。
「ふう、どうやら、ここにはなかったかが、望月君を救えた事でよしとするか」
「おかげで助かりましたけど、どうしてここが?」
「ああ、先ほども言ったけど、とある依頼で、あるものを探していたんだ 今日は、西金市の駅周辺を捜索していたら、
偶然、女性に抱えられて、連れられている、望月君を見つけて、後を追いかけてきたんだ」
「なぜ、その時、助けようとしなかったんですか?」
「ふふふ、君はどうやってここまで来たか、覚えているかな?」
当然ながら、俺はあの時、首を絞められ意識を失っていたので、覚えているわけがない。
「いいえ」
「彼女はね、屋根伝いに、飛びながら移動していたんだ、君を片手で抱えながらね、そこで変に迎撃すると地面に落ちてしまう危険があったから、そこで、彼女の住まいまで様子を見ることにしたんだよ」
「そうだったんですか 遅れましたけど、助けていただいてありがとうございます。須藤先輩」
「ふふふ、君はいつでも遅いな」
たしかに、名前を名乗った時もそうだったが、今回もお礼を言うのが遅くなってしまった
そんな、俺の姿を、先輩は部室に居たように、笑っていた。
「じゃあ、とりあえずここを出ようか」
「そうですね」
俺と先輩と、この狂気だからの部屋から出るため、玄関へ向かう。
玄関口から部屋の中をみると、一体ここで、何人の人間が殺され、あの女性に食われてしまったのだろう……という考えが頭を過ぎるが、とにかく、今は自分が生きてこの部屋を出れたこと感謝するべきだろう、須藤先輩がいなければ、おそらく俺も、女性の言うとおり”糧”になっていたのだから。
外に出ると、月の明かりに照らされた田畑が広がっている。後ろを振り向き、今まで居たところを確認すると、2階建ての古びたアパートで
横を見ると扉が3つ見える、俺たちが居たのは1階だったようだ。
「ん~~~~、それじゃ帰るとするか、望月君」
グーッと背伸びをした先輩は、アパートから道路に向かって歩き始める。
その時、俺は、手に持っていた、先ほど見つけた古びた折りたたまれた紙のことを思い出す。
「あ! 先輩、言い忘れてましたけど!! こんなものを見つけたんです!」
少し、距離が離れてしまった先輩に俺は大声で叫ぶ、声に気づき先輩が返事をする。
「望月君! 一体何を見つけたんだい?」
古びた紙を先輩に見せる。
「そういえば、何が書いてあるんだろう」
内容が気になり、紙を広げる。
「まさか……、望月君!! それを読んでは!!」
先輩は何かに気づいて大声を上げたが、声が聞こえたときには俺は、紙を広げ終えてしまった。
紙の内容を見ると、文字の羅列だった、ただ、言語は日本語でも、英語でもなかった、1文字目に目を見た瞬間、突然、頭の中に、見たことのない言語や映像が、頭の中に流れ込む。
膨大な情報が駆け巡ったが、処理しきれなくなり、俺の脳はシャットダウンする。
「あ…れ…」
霞んでいく視界に、こちらに向かって走ってくる先輩が見えたが、俺の意識は、暗い闇へと落ちていく。
意識が途切れる前、最後に先輩の声が響いた。
「望月君!!!!」