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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
彼のいない日
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ごめん! 必ず助けるから!! 必ず!!


「あの目は……死食鬼グールと同じ!?」


風が止み舞い上がった菊恵さんの前髪は再び彼女の顔を覆った。 そして床に倒れた兵士に他の兵士の目が集まっている隙を突いて菊恵さんは右手に掴んでいる兵士の死体を木の棒のよう振り上げて近くにいた2人の兵士達に向かって振り下ろした。


「ぐはぁ!!」


「ボブぅ!」


菊恵さんの強力で死体をぶち当てられた2人の兵士の体が、斧で切られたように上半身が飛んで行き2人の死体がが壁にベチャリと当たってボトリと床へ落ちる。 死体の落ちた衝撃でその場に残っていた下半身はバタリと床へ倒れ真っ赤な血だまりを形成する。


「はぁぁぁ……」


深く白い息を吐き出した彼女は次の獲物を見るように前髪で覆った顔を残っている兵士達へ向ける。


「う、うわぁぁぁぁ!!」


「ば、化物だ!! 本物の化け物だぁぁ!!」


「殺される!! 殺される!!」


残りの兵士たちは彼女に殺される恐怖からライフルや拳銃を構え菊恵さんに乱射し始める。


「うわぁぁぁぁぁ」


恐怖の叫びと共に発射される弾丸は、兵士達と菊恵さんの距離が1メートルほどしかない為、弾丸は確実に彼女の体にめり込んでいった。


弾が当たるたびに彼女の体からは肉片が飛び血が噴出した。


「あー…」


「うっ。 す、須藤さんあれ……」


古都さんが彼女の方を見て何かに気づいたようで、口を手で押さえ驚愕の表情を浮かべて私に訓える。


「これは!?」


菊恵さんの傷ついている体を見ると、撃たれて抉れている箇所に次々に筋肉が盛り上がり血管を形成し、皮膚を作り出して元のきれいな白い素肌に再生している。


「彼女は人では……ないのか?」


私達が菊恵さんの身体能力に驚愕している私の頬を”チュン”と風切音が通り過ぎて私はハッと我に返る。


「古都さん伏せて!!」


「えぇ!?」


彼女に覆被さる様に強引に床に伏せさせた。


「ぷはぁ!! いきなりなんなんですか!?」


「跳弾だ!」


こんな狭い小屋で兵士達がライフルや小銃を乱射していれば当然と言えば当然だ。


こっちは菊恵さんと違って体に再生能力のない人間の古都さんと魔術を発動していない魔術師の私じゃ、ちょっと弾の当たり所が悪いだけで大けがしてしまう。 それどころか命すら危うい。


かと言って出口の方角には南雲中尉や兵士達が陣取っており、他に出口がないかと辺りをキョロキョロ見回していると再び風が吹き私のロングの黒髪を揺らす。


(さっきもそうだが、一体どこから?)


時間も夕暮れから夜に変わりつつあるため、電気の明かりのない薄暗い小屋の中を伏せたまま凝視すると一か所だけ外の夕明かりが漏れている所を見つけた。


(あそこは確か菊恵さんが立っていた場所の――)


彼女の立っていた後ろの木の壁が下の方が崩れていて、屈んで抜ければ人1人分は通り抜けられそうな穴が開いていた。


(さっきの崩れる音はこれだったのか。 けど今の状況には好都合だ)


「古都さん! あそこから早く外へ出るんだ。 今なら彼らの目は彼女に向いているうちに!」


「は、はい!」


私は古都さんに2メートルほど先に開いた木の壁の穴を指差してそこから脱出するように指示を出し、彼女もそれに了解し屈んで四つん這いに穴の方へ向かっていく。


幸いにも兵士達と菊恵さんは膠着しているようでお互いに睨み合ったまま動かない。


(頼むから今銃を撃たないでくれよ)


距離がそんなにないとはいえ、菊恵さんの背後の方にある穴は兵士の銃弾が飛んできたら避けようがない。


そうこうしている内に古都さんは穴に辿りそこから屈んで外へ脱出する。


(後は……)


私もこのまま脱出すればいいのだけれど、床に倒れたままの氷室博士をそのままにしておけない。


(まだ息があればいいけど)


気配を消して周りに悟られぬようにゆっくりと倒れている彼の元へ四つん這いになって抜き足差し足で近づいて行くことに成功し、博士の口の部分に耳を当てて生存しているか確認する。


(よかった。 まだ息がある)


博士は呼吸こそ小さいが、兵士に締め落とされて気絶しているだけのようだ。


今の私の状態では体重と力がない女の腕力で、男性一人を運ぶのは困難の為、魔術を使おうと自分の左ポケットに手を突っ込んで残りの栞を取り出す。 その際にピリッとした痛みが私の体を襲うがそんなこと構ってはいられない。


(後2枚か……)


栞の枚数は心もとないが、彼を運ぶだけなら怪我をしていない左腕に張り付けて引きずっていけばなんとか運べる。


(残る問題は魔術を使用した時だな)


私が危惧しているのは魔術を使用した時に発行する魔術光がネックだ。


魔術光は先に私が使用したサジタリウスイージスと同じように筋力増加の魔術を使う際にも魔術式が発行して魔術が作用する。


これは拳銃のマズル・フラッシュと同じで音はないもののこんな薄暗い小屋の中では眩い一瞬の光は間違いなく兵士たちの注意を引く。


そうなれば、私が不思議な力を使ったとして彼らが再び乱射を始めるかも知れない。


(タイミングを待つしかないか)


私が今の現状を見てそう判断した時に予期せぬことが起きた。


「う、うぅ……僕は……どうなって……」


(まずい!!)


そう気絶しているはずの氷室博士が目を覚ましたのだ。


彼は意識を戻したばかりのせいか、うつろな目で今自分が置かれている状況を確認しようと周りを見渡す。 そして彼の目が菊恵さんの姿をとらえた時、氷室博士は理解した。

 

「はっ! 菊恵!! まさか!!」


「は……か……せ……?」


「!?」


彼が彼女に向けて叫んだ声は、菊恵さんだけでなく小銃を構えて兵士達も届き、全員の視線が私達に注がれる。


(見つかった!? なら……)


兵士達が私達に攻撃すると推測した私はポケットに手を突っ込んで、何時でも防御できるように手で残り少ない魔術式が書かれた栞を掴む。


「くくく……はっはっはっはっー! 素晴らしい!! ここまでは!! 博士あなた天才だ!! はははっー!!」


瞬時の沈黙を切り裂いて、沈黙しこれまでの騒動を観ていた南雲中尉が笑い声を上げる。


狂気的に踊る様に歓喜した姿は、探索者として戦ってきたどの邪神や魔術師よりも私の瞳には悍ましい化物の姿を映しだした。


彼の姿に私は反撃することも忘れしまい、けたたましく笑う南雲中尉に視線が止まってしまい私の思考が硬直する。


その時、私のスカートの右ポケットがもぞもぞ何か動いている。


「?」


私が右ポケットの方に目をやると、氷室博士がポケットの中に何かを入れた。


「博士? 一体何を?」


「須藤さん。 もしもの時の為にこれは君が持っていてくれ。 そして僕や菊恵に何かあった時は一緒に入れておいた人物にそれを渡してくれ」


「だから博士! 私に何を――」


「いいから頼んだよ」


私と博士がそんな問答をしている時、菊恵さんの声が聞こえる。


「博士……よか……た……」


そう彼女の呟きが聞こえるとドシャと音を立てて菊恵さんは地面へ倒れ込んだ。


「菊恵さん!!」


私は倒れた彼女の方に顔向けて菊恵さんの身を心配して叫んだ時、先ほどまで笑っていた南雲中尉は高笑いを止めニヤリとした笑みをこちらに向ける。


「くっ!」


狂気の目をした笑みを浮かべてこちらに顔向けている南雲中尉を私は伏せている体勢から中腰に立ち直し、左手をポケットに突っこんだまま彼を睨み付ける。


笑みを浮かべたまま中尉はゆっくりと口を開く。


「はぁー。 いやいやなんと言うべきか。 博士。 貴方の研究は私の想像を遥かに超える結果を導き出しまたよ。 ですがこのままでは貴方は我々に協力的に研究を続けてくれないでしょう。 そこで――」


彼は指をパチンと鳴らすと入口の方から聞き覚えのある声が小屋の外から聞こえてきた。


「ちょっと!! 放してください!!」


「この声はまさか!?」


 私のやな予感は的中した。


 「きゃ! す、須藤さん!! 博士!! 菊恵さん!!」


 声の主は小屋から最初に脱出してもらったはずの古都さんが、兵士に手首を掴まれて捕まっている姿で小屋の中に入れられてきた。


 「古都さん!!」


 私が驚愕し声を上げると、中尉は自信満々な態度で口を開く。


 「くくく。 我々の兵力がこの小屋だけだと思ったのかい? 君は?」


 完全に私のミスだ。


 言い訳になってしまうが、気を失った博士、赤い目をした菊恵さんと兵士の戦闘に気を取られてしまって、戦闘においての基本である相手の戦力の分析を怠っていた。


 「さて」


 南雲中尉は軍服の腰に装着しているホルスターから拳銃を取り出して古都さんの左の蟀谷に突きつける。


 「ひぃ」


 古都さんは銃を突き付けられた恐怖から小さな悲鳴を上げ、目からは大粒の涙を流している。


 「そこの床に寝ている彼女は重火器が通用しないのは先ほどの戦闘で確認済みだ。 ならばこの新聞記者のお姉さんはどうですか?」


 「やめろ!! 中尉!! 貴様!!」


 古都さんは菊恵さんと違って普通の人間だ。 そんな彼女が拳銃を頭で打たれたら結果なんて最初から分かっている。


 彼女が危険に晒している彼に頭の奥から怒りが込み上げてきた私は中腰から立ち上がり、魔術を発動させようと構えようとする。


 「おっと」


 中尉が私の姿を見て驚いて声を上げたと同時に、周りの兵士達が構えてる私に小銃やライフルを構えて照準を合わせた。


 「どうです? 博士? 軍に戻って研究を続ける気になりましたか? さもなくば……」


 彼は古都さんの蟀谷に当てている銃の引き金を少しづつ引いてゆく。


 「っ!!」

 

 古都さんは恐怖から涙を流してる瞳を瞑り、小さくカタカタと震えている。


 「やめてくれ!! 分かった。 分かったから。 研究所へ戻るよ……」


 私の隣にいた氷室博士は観念したのか中尉に降伏を告げる。 その声は年老いた老人の様に弱弱しい。


 「はははっ。 では博士参りましょう」


 「けどその前に彼女は関係ない。 放してやってくれ」


 氷室博士は南雲中尉に古都さんの解放を悲願するが、その願いは彼の残忍な一言で打ち砕かれた。


 「何を仰っているんですか? この婦女は軍の機密を聞いてしまった罪人ですよ? それに腕の腕章を見る限りでは新聞マスコミのようですし、今見たことを世間に公表されることは閣下に汚物を食べされるのと同義、 その床に寝ている御嬢さんと須藤さんには軍にて偉大なる実験の糧となっていただきます」


 「馬鹿な!! それじゃ話が違うじゃないか!!」


 「誰も彼女達を開放するとは言ってはいませんよ? それに貴方はもうすでに決断している」


 「……くそっ!」


 奥歯を噛みしめ怒りを抑える博士の姿を見た私はもう迷わなかった。


 「南雲中尉ぃぃーーー!!」


 私が左のポケットから怒り任せで栞を取ろうとしたが、体を大きく動かしたせいで反対がの負傷している右肩に負担が掛かり、その痛みが私の体を鈍らせる。


 「くっ!」


 「動かないでもらうか? 君の使う力は厄介だ。 悪いが最初に拘束させてもらうよ」


 南雲中尉が視線で私を拘束するように兵士に指示を送ると、2人の兵士が私にじりじりと近づいてくる。


 (ここまでか……)


 私が諦めかけた時、震える声を振り絞って古都さんが叫ぶ。


 「に、逃げてください!! 須藤さん!! 今は逃げてください!!」


 兵士に捕まり蟀谷に銃を突き付けられ恐怖が体を支配しているはずなのに彼女はそれを跳ね除けた。


 「私達は大丈夫です!! ですから……ですから……」


 震える彼女は背一杯の笑顔作ってこう言った。


 「ですから……後で必ず助けに来てください……」


 古都さんの笑顔は魔術を見てもなを友人と私に言ってくれた時と同じものだった。

 

 「古都さん……」


 彼女の意思を無駄にできない。


 古都さんの叫び声に私に近づいていた兵士達はお互い彼女の方へ視線が向いていた。 その隙を突いて私は周りを見渡して何かないかと探すと菊恵さんが暴れている時に落とした栞が目に入った。


 「ごめん! 必ず助けるから!! 必ず!!」


 私は左ポケット手を出すと指を”パチン”鳴らす。 すると床に落ちていた栞は魔術式を発行させて光の杭へ変幻し天井へと放たれた矢のごとく飛んでいく。


 そして天井を貫き瓦礫となった屋根や木材が床へと落下する。


 「うわ!!」


 「ぐぼぉ!」


 落ちてきた木材などに私に近づいてきた兵士二人は下敷きになり、落下の衝撃で床の土や埃が空中へ舞い上がって彼らの視覚を奪う。


 「追え!! 逃がすな!!」


 私を捕獲するように怒号で命令する南雲中尉の声が響く。


 「古都さん……」


 私は唇を噛みしめ、古都さんが脱出した木の壁の穴から外へと脱出した。


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