イメージするんだ。 6角形じゃない。 イメージするのは……
「まったく変な因縁だ!! 昨日いい、今日といいなんでこうも面倒に巻き込まれるんだ。 私は!!」
どうも今目の前にいるこの2人の軍服を見ていると、基地で会った南雲中尉が連想されてイライラが募っていく。
「うるせぇ!! それはこっちのセリフだ!! てめぇの話を基地の連中に話したらそんなのいるわけないと俺達はホラ吹き呼ばわりよぉ!!」
「そうだ!! そうだ!! どうしてくれるんだ!!」
先ほどの攻撃から立ち直り威勢よく刀を構える無精ひげの兵士と、その後ろで私の盾が自分の撃った銃弾が防がれたことで弱気になってそいつの後ろで隠れて虚勢を張っているやせ形の兵士がいる。
「そんなこと私が知ったことか!! 第一あの時は銃をぶっ放した君らが悪い!」
「…………」
「あわわわ」
どうやら私の言葉が無精ひげの兵士を余計刺激したらしく、彼は顔は沸騰するヤカンの様に真っ赤になって体が小刻みに怒りに震えいてる。
相方のやせ形の方はそんな兵士を見てマズイと感じているのか腰が引けている。
「い・わ・せ・て・おけば!!」
「ッ!」
無精ひげの兵士は再び刀を振り上げてこちらに突進してくる。
「まったく学習しない奴だ」
「ほざけー!!」
私は自分の両太ももに栞を1枚づつ張り付けて指をパチンと鳴らす。
すると栞は魔術式を発光させて太ももに吸い込まれるように消えていく。
「でぁぁぁぁああ!?」
勢いよく振り下ろされた刀を強化した両足で紙一重に避ける。
”ビュ!”と言う風切音が私の横を抜け、刀は”ガッ!”と先端が地面に刺さる。
「だから君たちでは無駄だと――」
「ぬらぁぁぁ!!」
無精ひげの兵士は刀の柄を返して逆刃にしそのまま斜め上に私の胴体目掛けて切り上げる。
「おッ」
だが不意を突いた攻撃も私は瞬時に屈んで凶刃を避ける。
その際に私の髪の先端が何本か彼の攻撃で切られてしまった。
「なんだ? 今度は兵士じゃなくて散髪屋でも始めるのか? けど君の腕じゃ坊主くらいしかできないと思うけどね」
「ぐぅぬぅるるぁぁぁ!!」
切られた髪の先端を指で撫でながら細かく彼を挑発する。
「がああああ!!」
「おっと!」
怒りで完全に我を忘れている為に兵士はむちゃくちゃに刀を振るって私に攻撃をしてくるが、斬られるのは路地にあるゴミ箱や木箱などで魔術によって強化された俊敏な動きにすべてが空を切った。
「ふふふ、どうした? こんな太刀筋では私に一太刀入れるのは無理だぞ? それに息も切れてきているね」
「はぁはぁはぁはぁはぁ。 だまれぇぇぇ!!」
私は両手で手を叩きながら彼を挑発して攻撃をさせ続けた。
無精ひげの男は真っ赤になった顔からは滝の様に汗が流れだし、息も切れ切れになっていく。
自分のスタミナを考えずに全力で刀を振り回していれば誰でも消耗し疲れてくる。
「えい! この! うらぁ!!」
「よっと!! そろそろいいか」
私の後ろにある物があることを確認すると、兵士は刀を横を一線に振った。
「今だ!」
私はそれをジャンプして彼の頭上を通り越して無精ひげの兵士から2メートル後ろに着地して回避し、刀は”カっ!”と高い音を鳴らして刃が止まる。
「ちょこまか、ちょこまか、ちょこまかと!! ネズミか!! 貴様は!!」
そのままの体制で首だけ振り向いて私に向かって怒号を叫ぶ無精ひげの兵士を私は腰に手を当ててニヤニヤしながらさらに挑発を続ける。
「ネズミ? だから私は猫耳メイドだと言っているだろう? まぁ不細工ゴリラの単細胞じゃそれも理解できないか」
「てんめぇ!!」
兵士は三度私に切りかかろうとこちらを向いたまま刀の柄に両手で力を込める。
「!!??」
しかし、刀は何者かが押さえつけているようにビクともしない。
「ふふふ。 やっと気が付いたかい」
彼が私の方か刀の方に目をやると、木製の電信柱に自分の軍刀がしっかりと食い込んでいる。
「くそ!! この!! ぬ、抜けない!!」
かなり勢いよく切り込んだせいで刃は太さ30センチはある電信柱の半分くらいまで食い込んで若干傾斜がついてしまった。
その為、食い込んだ刀は重力で刃を切り口の上と下から押し付けるように働いて完全に固定してしまったのだ。
「無駄だよ。 そこまで食い込んだら業者でも呼ばない限りは取れやしないよ。 それにあんまり無理に動かすと――」
「んだとこらぁ!!」
彼がこちらを振り向いて私にそう叫んだ瞬間、”パキン”と高い金属音が鳴る。
「うげぇ!!」
無理矢理に刀を抜こうと上下左右に力を入れていた無精ひげの兵士はそのまま後ろへ倒れ込んだ。
「だから言わんこっちゃない」
「いててて。 あぁ!!」
彼の両手に握られてるのは最初の立派な軍刀ではなく、鍔から10センチほど残してそこから先は無くなった鈍になってしまった。
電子柱には残りの分がきれいに食い込んだままになっている。
「やれやれ、そうやって強引に抜こうとしたから金属疲労を起こして折れてしまったんだ。 それに――」
私はゆっくりと自分の愛刀が無残な姿になってしまって呆然としている無精ひげの兵士に近づいてこう言った。
「こんな狭い所で刀を振り回すなんてバカのすることだよ」
「あ……あ……」
「って聞こえていないか」
刀が折れてしまったのが余程ショックだったのか私の話を彼は聞いている様子はない上に戦意も喪失しているようだ。
私もあんなに動き回らなくても光の盾を使えばその場から動かずに彼の体力を削ることはできたが、盾を発動させるには栞を1枚消費するため、栞の残りが少ない現状では持続性の長い強化魔術を使った方が節約になると思ったからだ。
結果は案の定だったけどね。
「さてと、さっきの女性は――」
私は彼女がぺたりと座っているであろう、電信柱のところ見ると女性の姿がなかった。
「う、動くなぁ!!」
「あ…ー」
声のする方を見ると白いワンピースを着た女性の首に腕を回して盾にし彼女のこめかみに銃を突き付けているやせ形の兵士が立っていた。
「しまった!」
私はなんてドジなんだ。
相手は2人いたのだ、1人に夢中になって相手をしていて旗色が悪くなって来ればもう1人がそこにいた女性を人質にすることぐらい簡単に予想がついた。
「この!! とことん俺達を馬鹿にしやがって!!」
女性を人質にしている兵士の顔は焦りに満ちていて、突きつけている拳銃もガタガタと震えている。
「落ち着け! こんなことしても状況は変わらないぞ!」
「う、うるさい!!」
(チィ! 動けないな)
栞から光の杭を錬成して彼の持っている銃を弾ければいいのだけれど、彼が指に掛けているトリガーがいつ何かの拍子に引かれて、放たれた凶弾が彼女の頭を撃ち抜いてもおかしくない状況だ。
私が指を鳴らそうものなら彼は何のためらい無く引き金を引きそうだ。
「こ、ここまでコケにされて、き、基地に戻ったら俺達は変てこな女にやられた奴って言われて晒し者だ!!」
「だからって人質を取ることはないだろ! 彼女は確かに君たちにぶつかったかも知れないがただの一般人だ!」
「そうさ!! 一般人に手を掛けた挙句にこの様だ。 だから――」
やせ形の兵士は何を思い立ったのか拳銃を地面に放り捨てる。
”カシャン”と金属音が路地中に響き渡り私は不意に地面に落ちた拳銃に一瞬だけ意識を向けて視線がそちらを見てしまった。
そして再び兵士と女性の方に目をやると彼は何処から取り出したのか右手には手榴弾が握られている。
「もう基地には戻れないんだよ!」
「ま――」
私が声を上げる間もなく痩せ型の兵士は女性の首に腕を回したまま左手で手榴弾のピンを抜いた。
「ははっ」
「あ……ー」
「馬鹿が!!」
私の視界にゆっくりと彼の右手から放された手榴弾が地面に落下していく。
「この狭い路地なら逃げても破片で死ぬぞ!! 死ね!! みんな死ね!! あはははは」
先ほどの怯えた表情と違い、狂喜に満ちた顔で声高々に笑う兵士。
女性は何かが横から落ちていると感じたのかゆっくりと落ちていく手榴弾を見るように前髪で隠れている顔を動かしている。
(こんなところで爆発したら私達だけじゃ済まない!)
そう、今いる狭い路地で爆発させれば破片はここに居る者だけではなくここからあまり距離のない大通りを往来する人たちにも襲い掛かり巻き添えになってしまう。
「須藤さん!!」
古都さんの声が後ろの大通りの方から聞こえ私は振り返った。
そこには息を切らして路地裏の入口から心配そうにこちらを見ている彼女の姿があった。
(このままじゃ古都さんまで!)
「くっ!」
すでに私に状況は打破するには一つしかなかった。
(手榴弾ならすぐに爆発はしないはずだ!)
私は瞬時に両ポケットから3枚づつ栞を両手で取り出し地面に落下し続けている手榴弾に目掛けて投げる。
(イメージするんだ。 6角形じゃない。 イメージするのは……)
投げられた6枚の栞は手榴弾の方向へ真直ぐに飛んでいく。
「守れ! 私の盾よ!!」
瞬間、栞達は魔術式を発行せて4角形の形をした盾に錬成され、手榴弾を包むようにお互いが重なる。
そして閃光が走り”ボム”という爆発音が辺りに響き渡った。
・
・
・
・
・
「は、ははは、はは」
狂喜に満ちていた痩せ形の兵士はまるで気が抜けたようにその場にへたり込む。
閃光が収まって視界が晴れた先には4角形に包まれた透明の光の箱とバラバラになった手榴弾の破片が透けている中身が見える。
「はぁ~どうやら間に合ったみたい」
安堵のため息が漏れる中、後ろから古都さんが駆け足で私に駆け寄ってくる。
「須藤さん……今の…は」
以前の強化魔術と違い、完全にこの世とは思えいものを見た彼女の表情は驚愕に満ちていた。
それもそうだろう、目の前には自分の見たことないし、それもここ居る全員を爆発から守ったのだ。
ただの人間である彼女に理解できるわけがない。
「古都さん。 私は……」
ここでは私は覚悟を決めていた。
「私は魔術師だよ」
真っ直ぐに私を見つめている古都さんにそう告白した。
「……魔術師」
彼女は今見たものと私が魔術師であることにショックを受けているようでその場で固まっている。
「……別に私のことが怖いなら怖いで構わないよ。 こういったことは私自身慣れているから」
そう魔術を見られて人間でない様にみられるのは私は慣れている。
いや慣れてしまった。
あの日から。
「あー……」
「あ、忘れていた」
痩せ形の兵士に人質に取られていた女性は自分の周りで何が起こっていたのか理解している様子は無く。
相変わらず”あー…”っと繰り返し呟くだけだ。
「そう言えば古都さん警察は連れてきてくれたのかい?」
「……」
私の質問に古都さんは聞こえていないのか反応がない。
それも仕方がない。
あんな人知超えてるものを見せれてしまっては思考が停止しない人間の方が少ない。
「はぁ、やれやれ」
私は彼女に近づいてさらに大きな声で叫ぶ。
「古都さん!!」
さすがに路地に響くくらい大きな声を彼女の顔の近くで発したおかげで、ビクンと大きく肩を上げて古都さんは気が付く。
「い、いえ、近くには警官が居なくてそれで、私、私」
「そうか。 ありがとう」
編集部に居た時と違ってハッキリした口調ではなくタドタドしい彼女の言葉に、私は少なからずちょっとしたショックを受けた。
ああ、この人も。
事実の究明に燃えていた記者である彼女でも、やはり中身はそこ辺にいる人間と変わらないという失望が私の心で芽生えた。
とりあえず、この女性を何とかしなければ、ここに居ればまた何か厄介なトラブルに巻き込まれかねない。
私が頭の中でそんなことを考えていると路地の奥から走る音と子供の声が聞こえる。
「菊恵ねぇちゃーん!」
パタパタと奥から駆け寄ってきたのは、昨日、河川敷で古都さんのカメラを盗んだ男の子だった。




