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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
彼のいない日
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あの時の借りを返させてもらうぜ!!

彼が給湯室を出て行った後、私達は編集部の応接室が空いたのでそっちに移動し、形だけの古都さんの取材を受ける。


ただ壁を三枚立てただけの簡易的な作りなため、横を通り過ぎる記者たちは珍しいものを見るように私の姿を横目で流し見る。


いい加減この恥辱プレイも飽きてきたところだ。


私が彼らの視線にうんざりしていると、古都さんが気を使って話しかけてくる。


「あの~ごめんなさい須藤さん。 みんな失礼に見たりして……」


「いいんだ気にしないでくれ。 もうだいぶ慣れて来たよ」


彼女に言って出してくれたお茶を飲む。


「良ければお代わりを持ってきますよ?」


そう言えばだいぶお茶が冷めてしまっていた。


もうここで何時間くらいインタビューっぽいことをしていたのだろう。


 「それじゃお願いするよ。 あっ!」


 私の横に立っている彼女に湯呑を渡そうした時、手が滑り床へと冷めたお茶の入った湯呑が落下する。


 「やってしまったな」


 セラミックのガシャンという音が聞こえなかったから割れてはいないと思うが、中身に半分くらい入っているお茶は床にぶちまけてしまったかも知れないな。


 私がテーブルの下を見るために椅子から屈むと、テーブル下の床はお茶どころか湯呑すら見当たらない。


 「あれ? おかしいな?」


 「何しているです?」


 屈んでテーブルの下を見ている私を彼女は不思議そうな顔で話しかけた。


 「いや、今落とした湯呑を拾うと――」


 「何を言っているんですか? 湯呑ならテーブルの上にあるじゃないですか?」


 古都さんに言われ体勢を直してテーブルの上を見ると確かにそこには落としたはずの冷めたお茶の入った湯呑が私が座っている側に置いてあった。


 「おかしいな。 今確かに古都さんに渡そうとしたのだけれど」


 「何言っているんですか? 須藤さん私そんなことしていませんよ?」


 「えっ?」


 「お茶が冷めてしまいましたね。 今新しく入れなおしてきますよ」


 彼女はテーブルの上に置いてある自分の湯呑と私の湯呑を持って編集部を出ていく。


 「う~ん? 本ばかり読んでいるせいかな。 私もついに呆けが始まってしまったか? それとも――」


 腕を組んで普段の自分の生活に首を傾げていると、お茶を入れ替えてきた古都さんが応接室に戻ってくる。


 「大丈夫ですか? 須藤さん?」


 「ああ、大丈夫だよ。 心配してくれてありがとう」


 彼女が差し出したお茶を一啜りし、軽くため息を吐く。


 多分気のせいだ。


 そう自分に言い聞かせて彼女とのインタビューを続けた。


 時間が経ち編集部内にある時計の針が夕方5時を指した時、編集長のドスの効いた大声が響き渡った。


 「よぉーし、今日の業務はここまでだ! 夜勤の者は仮眠室へ行って仮眠を取れ! そうでないものは帰宅するように! 本日も軍部から夜間外出禁止令が出ている。 我が社から禁止令を破るような不届き者がでないように!! 後、赤痢の予防接種を受けていない者は――」


  編集長の号令が終わるとデスク居た記者たちは各々背伸びをしたり、鞄に書類や資料を仕舞ったりして帰り支度を始める。


 「今日の業務は終わりみたいですね」


 古都さんもテーブルの上に置いてあるメモとペンを自分のカバンにかたずける。


 「須藤さんは今夜はどうするんですか?」


 「どうするって?」


 「今夜の宿ですよ」


 この時代に私のような恰好なりの奴が止まれそうなホテルや旅館があるだろうか?


 それ以前にこの時代の貨幣を持たない私は実質無一文だ。


 「それならまたうちに泊まっててください」


 彼女の提案を私は断る理由はなかった。


 魔術が使えると言えこの帝都の外で野宿するのはどうにも耐えがたいものがある。


 「ありがとう。 お言葉に甘えることにするよ」


 「いえいえ。 私、一人暮らしですから逆に話し相手が出来てよかったですよ! では夕食の食材を買いに行きましょう!!」

 

 私の回答に上機嫌に答えてくれる古都さんはグイッと私の手を引いて編集部のドアへと向かっていく。

 

 (なんかこの所この人に振り回されてばかりだな)


 普段、写真部の部室で望月君に無理難題を押し付けてからかっている私だったが、この時代に来てからは古都さんに振り回されてばかりだ。


 「望月君の気持ちが少しわかったな……」


 「何か言いました?」


 応接室からドアへ向かう途中に小声でボソッとそんなことを呟いてしまった。


 「いや、なんでもない」


 早くいつもの自分で淹れたコーヒーを飲みながら小説を読む毎日に戻りたいと願いつつ、私と古都さんは帝都新聞社のビルを後にした。


 ビルを出ると外は夕暮れ時らしく真っ赤な光が町全体を包み、レトロな雰囲気と相まってどこか懐かしいような感じを私に与える。


 「今晩はどうしようなかな~」


 鼻歌を歌いながら今晩の献立を考えている古都さんを横目に私は鍵を渡した彼のことを考えていた。


 あの時は古都さんに促されて銀の鍵を渡してしまったが、ちゃんと何か情報を掴んでくれるのだろうか。


 それにたとえあの鍵についてわかったとしても、鍵自体を私が使いこなせるだろうか。


 うまく使うことができなければ、自分のいた時代どころか別の時間軸、もしくははるか遠くの別の宇宙へ飛ばされる可能性だってある。


 そう考えると自分がいかにまずい状況に置かれているかが再認識されてため息が出る。


 「はぁ……」


 「……藤堂先輩のことですか?」


 私のため息がすべてを物語ってしまったのだろう。それを察知してか古都さんがズバリな質問をしてきた。


 「まぁそんなとこかな」


 「だ、大丈夫ですよ!! 先輩は格好はズボラな乞食みたいですけど、あれはあれでうちの社では一番の敏腕記者ですし、自分がいた大学を主席卒業するほどの秀才の持ち主なんですよ!! 私みたいなバカとは違いますから安心してください!!」


 「そ、そうか……」


 「そうですよ!!」


 彼女の気迫押されて若干顔を引き攣らせながらそんな問答をしていると、”ドン”と誰かが私の背中にぶつかる。


 「おっと」


 少し前につんのめりそうになりながらも両足で踏ん張り転ぶのを回避する。


 振り向くと肩や前髪で顔全体を覆うくらいまで髪を伸ばし、白いワンピースを着た女性が私の後ろに立っている。


 「あ……あ……――」


 この女性は私に謝罪するわけでもなく、ただ”あー”っと繰り返し繰り返し呟くだけだった。


 「大丈夫ですか、須藤さん!」


 私を心配して古都さんが声を掛け、女性に食って掛かる。


 「ちょっとあなた!! 人にぶつかっといてごめんなさいの一言もないんですか!!」


 「……あー……あー……」


 彼女の声が聞こえているのか聞こえてないのか分からないが、女性はやはり同じ言葉を口にするだけだ。


 「いや私は大丈夫だよ。 古都さん」


 「ですけど――」


 「あー……」


 女性は私の横をゆっくりとした歩みで通り抜けていく。


 ふと足元を見ると彼女は靴を履いておらず、ペタペタと道路の土まみれになった素足で人の流れに逆らって歩いて行く。


 「まったく!! なんて非常識な人なんですかね!! こんなに怒ったのは久しぶりです!!」


 「……」


 私の隣で激怒している古都さんを放置して、ワンピースの彼女をしばらく見ていると今度は見覚えのある顔の人物に女性の肩が当たる。



 その相手は昨日喫茶店で騒動を起こした無精ひげを生やした軍人とその相方だ。


 「あいて!!」


 肩を当てたことに気づかないのか女性はフラフラとぶつけた男を放置してそのまま歩きだす。


 「おいゴルァ!! 待ちやがれ!! ねぇちゃんよ!!」


 案の定気の短い無精ひげの男は女性の肩を強引に掴んで動きを止めさせる。


 「人にぶつかっておいて謝りもしねぇとはどういう了見だぁ!? ゴルァ!!」


 「あー……」


 強引に女性を自分の方に向かせて謝罪を要求する無精ひげの兵士だったが、彼女は全く謝るそぶりを見せない。


 「このあま馬鹿にしやがって!!」


 「なんだ? 物狂いか、こいつ?」


 「あー……、あー……」


 彼らの問答を見ていてまたかという感じに私は頭を抱える。


 「アイツら……」


 「えっ? お知り合いですか?」


 「ちょっといろいろあってね」


 ここで喫茶店での騒動を説明してもよかったが、事態は待ってくれなかった。


 「舐めやがって!! ちょっと来い!!」


 「あー……」


 女性のワンピースの胸ぐらを掴んで大通りから店とビルトの隙間の路地へと女性を無理矢理引っ張っていく。


 「ちょっと、不味いですよ!! 帝国陸軍は荒くれ者の集まりです!! あの人このままじゃ大変なことに!!」


 「ええいッ!! やっぱりこうなるのか!! 古都さんは警察に連絡してくれ、私はアイツらを!!」


 「分かりました!!」


 古都さんは私と反対方向へ走り出すのを確認し、私も彼らが入っていた路地へ急いで向かった。


 路地に滑り込むように入ると、路地は幅約2メートルくらいで土の丸出しの道にゴミ箱や10メートル間隔で木製の電柱があり、手前から3本目の電柱の脇で無精ひげの兵士は女性の胸ぐらをつかんで壁に張り付けるように罵詈雑言を吐いている。


 「てめぇ!! さっきからあーあーしか言えねぇのかよ!! ああ!?」

 

 「あー…」


 「やめとけよ。 どうせ俺達の言ってることは分からないって」


 相方のやせ形の兵士の方は止めるような言動はするが、態度はニヤニヤとした表情を浮かべてこの状況を楽しんでいるように見える。


 「あー……」


 「ば、コケにしやがってこのっ!!」


 無精ひげの兵士は拳を振り上げて女性の顔面目掛けて振り下ろそうとしている。


 「ったく!! 待てっ!!」


 私が大声で叫ぶと、彼の放った拳は彼女の顔面スレスレで止まり、兵士二人は聞き覚えのある声にこちらに顔を向けた。


 「ああああ!! てめぇは昨日の茶店の女給!!!」


 「またおまえか!!」


 「それはこっちの台詞だ!! お前たちあの時だけじゃなくて、今度はか弱い女性に何をしているんだ!!」


 私の放った言葉にカチンと来たのか無精ひげの男が吠える。


 「るせぇ! この魔女め!! 今度こそ俺が成敗してやる!!」


 「あの時の借りを返させてもらうぜ!!」


 二人は無精ひげの兵士は腰につけている軍刀を、痩せている兵士は拳銃を抜きて私の方へ構える。


 「学習しない奴らだ」


 私も左手でポケットから4,5枚の栞を出して応戦体制を取って彼らを睨み付ける。


 「あー……」


 胸ぐらを掴まれていた女性も、兵士の手が離れたせいかそれともこの状況に驚いているのか、力なく電柱の脇にぺたりと腰を落としている。


 「今度は邪魔する上官はいねぇ!! 八つ裂きにしてやるぞ!! このクソ女給の魔女がぁぁ!!」


 またこの単語か、この時代の人間はこの姿で女給、女給というのが好きらしい。


 「だから私は女給ではないと言っているだろう!!」


 「ほざけぇぇぇ!!」


 無精ひげの男は刀を両手で持って振りかぶってこちらに突進してくる。

 

 「真っ二つに裂けろやぁぁぁ!!」

 

 「はぁ……」


 私が軽くため息をつき、彼が刀が私の頭上で振り下ろさる瞬間に手に持っている栞を1枚だけ右手で取りそれを前方に放る。


 瞬間、六角形をして私の自慢の光のイージスが発動して振り下ろされた刀を”キン”という高い金属を響かせて私を守った。


 「ふぅんぬぅうう!!」


 兵士は私のイージスの力に逆らって力任せに両手に力を入れるが、それも無駄な努力だ。


 「どわぁぁぁ!!」


 すぐに反発作用で刀ごと無精ひげの兵士を元の立っていた場所まで飛んでいく。


 まるで放り投げた紙屑の様に土の道に情けなく転がっていく兵士はそのまま電柱に体をぶつける。


 「ぶぇえ!!」


 「っ!! この!!」


 彼の姿を見たやせ形の兵士は持っている拳銃で私に標準を合わせて引き金を引く。


 「だから…」


 ”パン”と閃光と硝煙が上がる瞬間にさらに1枚栞を前方に放る。


 光の盾は”チュン”と音を立てて彼が撃った弾丸を弾き飛ばし、弾は私から斜め右上のビルのコンクリートの壁にめり込んだ。


 「くそ!!」


 盾の力で電柱まで飛ばされた無精ひげの兵士は、頭を軽く左右に振って立ち上がる。


 「だめだぁ!! やっぱり効かない!!」


 やせ形の兵士は喫茶店の時と同じく自分の拳銃が私に通用しないことを再認識して先ほどのニヤニヤした表情から、血の気が引いたように青白い顔になっている。


 「私は女給じゃない!! 私は!!」


 私は左手に持っている複数枚の栞からもう1枚を右手で抜き取り腕を伸ばして彼らにかざす。


 「私は可愛い可愛い猫耳メイドさんだ!!」


 「「………」」


 私の言葉を聞いて2人の兵士は呆気に取られて言葉を失っている。


 「はぁ……」


 自己嫌悪でため息が漏れてしまう。

 自分でも何でこんなことを言ってしまったのか分からないけど。


 「あー…、あー…」


 今はあの女性を助けなくては、こうしてこの兵士達との2回目の戦闘が始まった。


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