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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
彼のいない日
49/80

先輩が帰ってきたんですか!!!

「あ! お帰りなさい。 どうでし――」


 待合室で私の帰りを待っていた古都さんが私の顔を見て言葉を詰まらせた。


 「ただいま。 古都さん」


 彼女は心配そうに私に恐る恐る話しかける。


 「あの大丈夫でした? ずいぶん機嫌が悪そうに見えますけど……」


 先ほどの部屋の問答で頭に血が上ったままの私は人から見ると酷い表情をしているらしく、それを古都さんが感じ取ったようだ。


 「なぁに、ただの世間話さ」


 「ただの……世間話……ですか……?」


 とてもじゃないが、魔術が使える私に協力しろと言われたことは彼女には伏せておいた。

 

 古都さんに話すことでもないし、それに一宿一飯の恩のある彼女を巻き込みたくはなかった。


 「ずいぶん待たせてしまったみたいだね。 ここからさっさと出よう」


 私は古都さんにそういうとツカツカと出口の方へ歩き出す。


 「あ! ま、待ってください!!」


 その後ろを古都さんは慌ててベンチから席を立ち私と同じく出口へと向かう。


 ・


 ・


 ・


 ・



 基地の外へ出ると、”ゴゴゴッ”とうるさい金属音を鳴らしながら正面の鉄製の扉が閉められ、そこを警備する兵士たちは再び周辺を警戒し始める。


 「さて、これからどうしたものか……」


 つい南雲中尉のやり方が気に食わなくて協力を断ってしまったが、外に出たことにより冷静になった私はこの時代からどうやって帰ればいいのか答えが出ていないことを思い出す。


 「あの~須藤さん?」


 私が顎に手を当てて考えていると、古都さんが下から見上げるように私の顔を覗き込んだ。


 「ん? なんだい? 古都さん?」


 「もし宜しければいいんですけど、私の勤めている社の方に来ませんか?」


 「帝都新聞社に?」


 私はそこで考えた。


 この時代について何もというぐらいに私は理解していないし、それにこれからどうするかの目的もない。


 それなら彼女の勤めている新聞社に行けばこの時代についても調べることが容易いだろうしそれに――。


 「古都さんのところはオカルト関係の記事も取り扱っているか?」


 彼女は少し不思議そうな表情を浮かべたがすぐに答えてくれた。


 「いえ、うちはそう言ったサブカル物は有りませんが、先輩の人脈でそっち関係に詳しい人を紹介してくるとは思いますが?」


 それに、私が所持している”銀の鍵”の使用方法についても何か分かるかもしれない。


 だったら彼女について行くのが道理というモノだろう。


 「わかった。 じゃあ君の仕事先に案内してくれ」


 「もちろん! では、参りましょう!」


 古都さんは嬉しそうに返事をして私を引き連れてバス停の方へ向かって歩き出し、私はそれについて行く。


 バス停に向かう途中、何気なにし道沿いの基地の壁を見ると何メートルも所々の箇所に直径1cm程度の穴や、煉瓦が新しく組まれた跡があった。


 「あ、気が付きました?」


 古都さんが私が不思議そうにその跡を見ていたのに気が付いて声をかけた。


 「これ、4年前に起きたクーデターの後なんですよ」

 

 「クーデター?」


 彼女は頷くとバス停までの道の暇つぶしに私に事件の内容を教えてくれた。


 「確か私が大学に入った最初の年に軍内部の総統派の一部が決起してこの帝都防衛基地や国会、後あそこに見える総統府に襲撃を仕掛けたたんです。 ほらあそこに見えるのが総統府ですよ」


 彼女指差した方向に目をやると、少し距離があるが周りを水の堀に囲まれ建物は植えられている木が高いため、瓦の屋根が少し見えるぐらいだ。


 「あの時に大学に向かっていた私は何台もの軍のトラックが総統府に向かって走っていったの覚えています。 その日、大学が理由もなく休学になりました。 何が起こっているのか気になった私はそのまま総統府に行くと、総統府の入口で軍人同士がお互いに銃を構えて睨み合っていました。 事件を知ったのはそれからだいぶ経ってからです」


 「でも待ってくれ。 クーデターを起こしたのは総統派なのだろう? 彼らはその総統を守るのが勤めなはずだ。 なぜ主に噛みつく真似をしたんだ?」


 話の途中で丁度バス停に着いてしまい、古都さんが自分のポケットから懐中時計を見て時間を確認し、バス停に貼られている時刻表を見た。


 「あれ? ちょっとタイミングが悪かったみたいですね。 次のバスまでまだ時間がありますから、時間つぶしに話しますね ヨイショ」


 彼女は懐中時計をポケットに入れるとバス停の脇にあるベンチに腰を下ろし先ほどの続きを話し始める。


 「須藤さん、あの時私のカメラを盗んだ男の子を覚えていますか?」


 「ああ、あのボロボロの着物をきた少年のことだろう? それがどうかしたのか?」


 「私達の国は国家の中心に総統閣下が象徴と存在し国政は政治家たちが国の運営を行っています。 ですが、今もそうですがこの国はまだ不景気という闇から抜け出すことができないままです。 ですけど、あの時は今よりも貧困が深刻で貧困街スラム帝都の至る所にありました。 丁度時期を返し、とある軍大将が政治的判断も総統が指導者として行うべきだと、当時の総統派の下士官達に解いたのが切っ掛けでした。帝都の様子を目の当たりにして下士官たちがその説に影響を受けて、貧困が蔓延しているのは政治が腐敗しているモノと考え、今こそ国政から政治家を排除し大東亜共和国の指導者として立ってもらおうと行動に移したんですよ」


 「しかし、政治に腐敗は付き物だろう? 例え新しい指導者を立てたところで果物の様に時間が経てばだんだんと腐っていく、それは今も昔も変わらない」


 私の言葉に彼女は少しニコリと笑う表所を見せてベンチから真直ぐに総統府の方向を見ていた。


 「確かにそれはそうなのですけどね。 ただ彼らのほとんどは貧しい地方の出の人たちばかりだったみたいで、やっぱり世の中を何とかしたいって気持ちが強かったんじゃないかなと思います」


 「すまない、私が変なことを言ってから話が逸れてしまったね」


 「いえいえ、それで下士官たちは自分たちより下の兵士達には訓練と称して部隊を集め一斉に急襲しました。 実際に基地や官邸などの制圧にはそんなに時間が掛からなかったそうです。 何人もの大臣が彼らの手で殺されました。 ただ総統府は占拠はされましたが、総統には事前に情報が漏れていたみたいで襲撃される直前に逃げ出せたみたいです。

彼らは説得すべき総統がおらずかなり焦ったみたいです」


 古都さんは再びポケットから懐中時計を取り出して時間を見て、まだ時間があるのだろう時計をポケットに仕舞う。


 「占拠されて2日目に総統は対立関係にある全体主義を掲げる統制派に保護され、彼らの目標外だった帝国ホテルにて対策会議が行われたそうです。 陸海空の将軍に近衛軍の大将や幕僚などの面々が集まり彼らの対応を検討しました。 その時彼らに教えを解いた将校も呼ばれて、ある軍参謀から馬鹿呼ばわりされたみたいです。 おっと話がまた逸れてしまいましたね。 教えを解いた責任からその将校は下士官達に再三投稿するよう呼びかけました無視され着きれる様子は有りませんでした。 すでにこの時点で彼らは革命軍では無く、統制派の大将が”賊軍は排除すべし”の提案を示し賊軍として鎮圧することになりました。そして3日目の朝でしたか、軍上層部は占拠している総統派の鎮圧に乗り出しました。 近隣住民は避難勧告が出されました。 私も学友達と非難しましたけど、避難先で総統が鎮圧勧告の放送していました。 そこからは結構あっ気ないもので、訓練と教えられた兵たちは午後には自分の原隊に戻り、下士官達も一部の自決者を覗いては夕方には逮捕されました。 これで事件は終焉迎えたと思ったのですが、裁判に掛けられた下士官達は真面な答弁もないままほぼ全員処刑されました」


 「話を聞く分だと軍にとっては最大の汚点だから率いた下士官を処刑して示しにしたのか」


 「そうです。 その為、現内閣の統制派が主権を握り今の政治が出来上がりました」


 「結局は彼らは世の中を変えようとして行動したのに、総統派と統制派利権争いの道具にされたわけか。 悲しいものだ」


 私が軽くため息をつくと、道の向こうからオレンジ色をしたバスが向かってくるのが見える。


 「バスが来たみたいですね」


 古都さんはベンチから立ち上がりお尻に付いた砂をパンパンとはたくと私の方を向く。


 「先ほどの話なのですけど、あまり人前で話さないでください。 まだこの事件の遺恨が帝都に残ってて軍関係の人間が聞いたら何されるかわかりませんし私はあなたを信頼してこの話をしましたから――」


 彼女の真剣な眼差しで私の目を見ながら警告する。


 「わかった」


 私は古都さんから感じる気迫と真剣な表情に平和な時代に住んでいる私には理解できないところがあるのだと思い了解し頷いた。


 そしてバスが到着し、バスガールが扉を開ける。


 「お2人ですか? このバスは右回り帝都駅行きです」


 「はい大丈夫です。乗ります」


 私達はバスに乗り込んで古都さんの勤め先である新聞社へと向かった。



 ・


 ・


 ・


 ・



 バスに乗り帝防基地の正面を通り過ぎて殺風景だった景色が再び人の往来する都市の様相を示す。


 「次で下りますよ」

 

 停留所をいくつか過ぎて古都さんがバスガールに手を挙げ下車のアピールをする。

 

 すると窓から5,6階建てのビルの前の停留所にバスが停車した。


 「帝都新聞社前~帝都新聞社前~」


 バスガールが停留所名をアナウンスすると古都さんは2人分の運賃を払い私達はバスを降りた。


 コンクリート製のビルの前にはきれいな植木にガラス張りのスイングのドアが設置されていて都会的なイメージを持たせる建物だ。


 「こっちです」


 古都さんはドアを開けて私をビル内へと案内する。


 「いらっしゃいま――」


 中に入り受付嬢が私達を見て挨拶をしようとするが、私の姿を見てギョッとした顔する。


 いい加減この反応にも私も慣れてきたのか気にすることなく彼女の後について行き奥の階段へと向かう。


 階段を上っている途中、不図した疑問を彼女に投げかけてみた。


 「そう言えば古都さん失礼でなければいいのだけれど、あなたはこんな立派なところに勤めてるのに何であんなアパートに住んでいるんだ?」


 この質問に古都さんは振り向いて恥ずかしそうに鼻を掻きながら答える。


 「あはは、えっとですね。 なんというか、あのアパートって私が学生時代がら住んでいるところなんです。今の職場からそんなに距離もないので気が付いたらズルズルと……」


 「引っ越すタイミングを逃した……と?」


 彼女は少し涙目になりながら階段の踊り場から私を見下ろす。


 「だって、まさか新聞社がこんなに忙しいと思いませんでしたから、うら若き乙女が自分の時間を割いてまで仕事に打ち込んでいる自分の姿を想像して仕事をしないとやってられないですよ!!」


 「あ~、そしてそのうち婚期も逃す」


 「須藤さんそれは言わないでくださいよ!!! 」


 彼女が大声を上げると上の階から男性の怒鳴り声が響き渡る。


 『うるさいぞ!!』


 「いけない、編集長だ! 急がないと!」


 声の主は彼女の上司らしく足早に階段を上ってい行くが、上りきる直前で古都さんの足が止まり私の方を振り返る。


 「なら須藤さんはどうなんですか?」


 「どうなんですかって?」


 彼女の不意の質問に意味を見いだせなかった私は首を傾げる。


 「仕事ですよ仕事。 あなただってメイドの仕事をしているんですよね?」


 ああ、そう言えば今はそういう設定だったと今更ながら思い出す。


 「いや、私は別にのびのびやっているさ」


 私の答えに彼女は珍しそうな表情をする。


 「ふ~んそうですか」


 そう答えると古都さんは階段を上りきってすぐ横の扉の前に立った。


 扉には帝都新聞記者部と黒文字で書かれている。


 どうやらここが古都さんの仕事場のようだ。


 「ただ今戻りました!」


 彼女がガチャリとドアノブを捻り中へと入っていき私も後に続く。


 部屋の中に入ると10人ほどの記者たちが鳴りやまない電話応対や、簡易的な応接室での取材、記事の作成などで忙しく仕事をする彼らの熱気に包まれていた。


 この騒乱の部屋の一番奥に鎮座している角刈りのゴツゴツしたエラ出た目つきの鋭い顔つき、皺くちゃになった黄ばんだYシャツに緩々に閉めている黒いネクタイの男がそこにいた。


 古都さんは急いで彼の元に足を運んだ。

 

 「ずいぶん遅かったな」


 「申し訳ありません編集長遅くなりました!」


 「ちゃんと現場は抑えてきただろうな?」


 「はい! フィルムはもう現像に回しているので明日朝には上がります」


 「おう、そうか」


 ぶっきら棒に返事をした彼は返す目でギロリと私の方を見る。


 「ところで古都よ? このねーちゃんは一体なんだ? 女給か?」


 「いえ彼女は……」


 彼は睨み付けるように私を見る態度に古都さんは言葉を詰まらせる。


 「実は私は今朝の事件の人物に覚えがあってね。 そこで知り合いだった彼女にそのことを話そうとここに来たんだ」


 「あぁ?」


 私の言った一言に助け舟と感じたのだろう。 急にデスクの上に体と顔を編集長にグイッと近づける。


 「そ、そうです!! ですからこれから彼女の話を取ろうと思って連れてきたのです!!!」


 「そ、そうか」


 さすがに顔面間近の気迫あふれる古都さんの言葉に強面の編集長も体が引けている。


 「だが今は別の取材で応接室を使っている。 もう少しで開くはずだ。 それまでどこかで待ってもらえ」


 「分かりました!!」


 古都さんはくるっと編集長に背を向けて立ち去ろうとする彼女を何かを思い出したかのように彼は呼び止めた。


 「あ、古都」


 「はい?」


 「アイツが出張から戻ってきてるぞぉ」


 ”アイツ”私には誰の事だかさっぱりわからなかったが、このキーワードに古都さんのテンションが一気に上がる。


 「先輩が帰ってきたんですか!!!」


 「ああ、確か今は給湯室で仮眠取ってるよ」


 それを聞いて古都さんは飛び出すように部屋を出ていく。


 「あ、ちょっと古都さん!?」


 私も置いて行かれないよう彼女の後に続いた。


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