表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
彼のいない日
47/80

はぁ……やれやれだ

「古都さん……遅いな……」


 彼女を送り届けた写真館前で私は過ぎ去る車や人を見ながら時間を潰していた。


 「ふぅ……っといってもこれは彼女仕事だから私が邪魔をするわけにもいかないしな」


 前の景色に飽きてきた立っているのも面倒になってきたので座って周りを見渡す。


 「ほんと、西金と違って人が多いな」


 私のいる西金市は人口自体は1万人程度は住んではいるが、大体の住民が都内まで出勤しているため、朝のラッシュや夕方でないと人の移動はほとんどない。


 この帝都の様に昼近くで多くの人間やトラック、車が往来するのは私にとっては衝撃的なことだ。


 「……はぁ……ただな」


 ただ道は大通りと違って整備しているわけでなく、土がむき出しの道路をトラックが通るたびに土煙が舞う。


 それが私には息苦しくてならない。


 「おや? 女給さん今日は誰か待ち合わせかね?」


 「え?」


 突然に声を掛けられてその方を向くといつの間に私の隣にいたのか、昨日ゴミ捨て場と喫茶店で会った老紳士がそこに立っていた。


 私は喫茶店でのお礼をまだ言っていなかったのを思い出した。


 「この間の喫茶店ではありがとう助かりました」


 「な~に命を救ってくれたくれたからね。 その位はどうということはないよ」


 お礼を言う私に老紳士はニコニコとした顔でそう答える。


 「ところで、女給さん?」


 「すまないが、その女給っていうのはやめてもらえないか? 私には”須藤 恵美”という名前がちゃんとあるんだ」


 「それは申し訳なかったね。 須藤さん、あなたはこの都市を見てどう思った?」


 「この都市を?」


 老紳士を方から前の道や周りを見渡して私は答えた。


 「私はここに来たばかりだけどいいんじゃないか。 人も多いし商店なども数多くある。 私が住んでいたところよりかは活気があると思うけど?」


 私の答えに老紳士はニコニコしながら続けて質問する。


 「ならあれはどうかな?」

 

 彼が質問し指差した先には河川敷で出会った様なボロボロの服を来て、何日お風呂に入っていないのだろう、髪には白いフケが湧き、手足や顔の肌からは垢が溜まっている。


 不潔なイメージを持たせる下は5歳くらいから上は10歳くらいの5.6人の子供の集団がゴミ漁りをしているのを彼は差した。


 「あれは……ストリートチルドレンというやつか?」


 「ふぉふぉ。 その通り彼らは先の戦争で親や兄弟を亡くし、親せきからも見放された子供たちだよ。 須藤さん。 あなたはこの都市が活気があると言ったね?」


 「……ああ」


 彼は少し悲しそうな目で語り始める。


 「確かに今の帝都は大陸戦争で勝利を収めて中間層以上の者は昔以上に裕福な暮らしをすることができるようになった。 もちろんそれ以上の富豪も益々力と富を得ることができた……が、それはここに住んでいる者達の約50%に過ぎない。 それ以外の者達はああやって身を寄せ合って貧困に喘ぎながら暮らしている」


 「それなら何か仕事を探せばいいじゃないか?」


 「あなたの言うとおり。 仕事を探せばいい簡易的な答えはそうだが、帝都に人が集まり過ぎた。」


 「集まり過ぎた? 人が都市に集まるのはいいことではないのか?」


 私の質問に彼は首を横に振った。


 「いいやそうではない。 戦争の前は国民は戦いに勝利すれば自分たちの生活が良くなると政治家たちに言われ皆それを信じた。 結果的に我が国は戦勝国となり戦後需要によって中心都市であるこの帝都には仕事が山ほどあった。 各地方の仕事がない若者たちが我先にとこの帝都にやってきた……が、人が集まり過ぎて需要と供給が逆転してしまったのだよ」


 「それなら、彼らは自分の地元へ帰ればいいじゃないか? 簡単なことだ」


 「常識的に考えればそれがいいのだろうけど、彼らのほとんどは帝都での稼ぎを当てにしていた者が多く、仕事から溢れれば自分たちの地元へ帰ることもできないし、ある者は帝都までの運賃を両親が死に物狂いで稼いでくれた為、親思いから帰るに帰れない」


 彼の仕事という単語に周りを見渡して、道を警邏している兵士を指差した。


 「それなら兵隊になると手段はどうだ? この国には軍隊があるのだろうなら年齢制限がなければそこに入ればいいじゃないか?」


 「確かに軍属へ下れば給料と雨風凌げる宿舎が手に入るだろう、しかし帝都軍の規律や訓練は熾烈を極める為に、ついて行けない若者は脱落して貧困へと落ちる。 それに軍が採用するのは主に男子であり、女子は余程博識か良い所の出ない限りは軍属に成ることはできないよ」


 彼の女子の言葉に私は一つの疑問が浮かんだ。


 「なら私が今待っている待ち人は、新聞記者だが彼女は軍直下の広報だと説明していた。 あなたの言うことが本当ならば彼女は博識か良い所のお嬢様ということになるな」


 「ふぉふぉ。 良い知り合いをお持ちのようなだ」


 私の隣で笑う老紳士だったが、正直彼の今までの話の回答が見えてこない。


 「つまり、あなたは一体何を言いたいのか分からないのだけれど? まさかこの話を聞いて私が感銘を受けて人々を救って見せろと仰るのか?」


 「いやいや。 世間に不幸が浸透しているし人々がそれを感じている時は誰でも英雄を求めると言う単なる老人の戯言だよ。 御嬢さん」


 彼との話をしている時、店の扉が開く。


 「お待たせしました!! ……ってお知り合いですか?」


 店の中から出てきた古都さんは私の隣にいる老紳士に気づいて私に問いかける。


 「ええっと、ちょっとね」


 「ふぉふぉ。 どうやらお連れさんが来たようだね。 老人のつまらん話に付き合ってくれてありがとう。 須藤さん、それにそこの御嬢さん私はこれで――」


 彼は私と古都さんに帽子を取って会釈をすると往来する人ごみの中へ消えて行った。


 「何の話をしてたんですか?」


 私と老紳士の話に興味を持ったのか古都さんが私に近づいて耳打ちをするように話しかける。


 「ただの世間話だよ。 それよりもフィルムの方は何とかなりそう?」


 古都さんは私の質問にニッコリと笑って答える。


 「はい! バッチリです! 明日の昼には出来上がるそうなので、助かりましたよ須藤さん!」

 

 「そうか。 なら私も自分の特技を披露して間に合わせた甲斐があったというものだ」


 「ところで須藤さんの使ったあれって一体どういった仕組みですか?」


 興味津々な目で私が彼女をここまで運んできた方法について質問してくる古都さんだった。


 「海外で身に着けた嗜みだよ」


 「嗜み……ですか……」


 まさか魔術と答えても彼女が理解してくれるかどうかが、私は自信が持てなかったし魔術を彼女に聞かせて理解してもらうつもり毛頭なかった。


 「そんなことより古都さん」


 「はい?」


 私はメイド服の左ポケットから昨日南雲中尉から貰った名刺を彼女に見せる。


 「実はここに行きたいのだけれど何処だか分かるかい?」


 「えっと……これって陸軍士官の名刺じゃないですか!! 一体どこでこれを!?」


 まるで玩具を見つけた子供の様に目を輝かせる。


 「いやちょっとあってね。 この人と約束があるんだ」


 「約束があるって……軍士官の名刺って誰でも貰えるわけじゃないないのですよ!!」


 「そうなのか? 私はまだ帝都の地理は把握していないし案内してくれると助かるんだが――」


 この言葉に古都さんが腕を組んで何やら考え事をしていたが、何か企んでるような笑顔で私に話しかけた。


 「これは何か事件の匂いがしますね。 その約束私も同席してもよいですか?」


 「え……いや、私はただあなたに案内してほしいだけで……」


 只でさえ、死食鬼グールが絡んでいるのに、これ以上誰かを巻き込むわけにはいかないし、南雲中尉が何を考えて私を意図が分からない。

 

 「そ・れ・に軍は今起きている事件の詳しい内容が知りえるかもしれないですし!!」


 「けど、古都さんの新聞社は軍の広報だろう? それならいろいろとわかるんじゃないか?」


 彼女は大きく首を振る。


 「いいえ!! 全部軍が私たちに公表しているわけじゃありませんから!! それに――」


 「それに?」


 彼女は小さく呟く。


 「それにうまくいけばあの人が認めて貰えるかも……」


 「あの人?」


 古都さんの呟いた”あの人”という単語が聞こえたのでそれを聞くが、彼女は誤魔化すように慌てふためく。


 「いえいえいえいえ!! なんでもないです!! それじゃあ行きましょう!!」

 

 「あっちょっと!! まだ私は――」


 私の回答を聞かず強引に、古都さんは手をグイッと引いて帝都防衛基地戸やらへの方向へと歩き出す。


 「はぁ……やれやれだ」


 私は軽くため息を吐きながらも引っ張られるままに彼女について行った。







 写真館から少し行ったところでレトロなボンネットバスに乗り込んで停留所をいくつか過ぎた時だった。


 周りの景色が下町から都市へと変化していき、人や車の数がドッと増える。


 「すごいな……」


 「ここ帝都には5万の人が暮らしてますからね。 人も車も地方と比べると段違いですよ」


 嬉しそうに帝都の説明をする彼女に私は写真館前での老紳士の話を思い出した。


 「そういえば古都さんって新聞社に入れるほどだから優秀なんだろう?」

 

 「いえ、私は確かに大学には行きましたけど、就職活動があんまりうまくいかなかったんですよ。 それに社に入れたのは大学の先輩が先にそこで働いていたのと、たまたま運が良かっただけにすぎません」


 先ほどと違って悲しそうな表情を浮かべる古都さんだったが、バスガールのアナウンスが車内に流れる。


 「次は帝都防衛基地前~防衛基地前~下車される方は――」

 「おっと次ですね」


 話を遮るように古都さんは下車するのをバスガイドに手を挙げて合図する。


 バスは煉瓦と鉄格子で作られている壁の前の停留所に止まった。


 古都さんは自分と私の分の運賃をバスガイドに渡して私たちはバスを降りた。


 「正面はあっちですよ」


 彼女は入口の方面を指差して私を案内する。


 「ずいぶん詳しいな。 ここには来たことがあるのか?」


 「ええ、仕事何回か。 ただあの時は社の先輩と一緒でしたから社外の人と来るのは初めてですよ」


 「そうなのか」


 少し進むと仰々しい鋼鉄で出来た縦横10メートル扉と、それを囲うように煉瓦造りの正面入り口が見えてくる。


 入口には詰所が二つ設置されていて、詰所に2人、門の前に2人、合計4人の小銃で武装した門番が外敵を近づかせまいとそこを守っている。


 私は門の前にいる兵士に名刺を見せると、彼は私の姿を不審な顔でじろじろ見ていたが、詰所にいるの兵士に合図を送り、鋼鉄の扉が重々しく開いて彼女と共に敷地内へと1人の兵士が案内する。


 敷地内へ入ると、高射砲や野砲が設置され、訓練の一環なのか若い兵士たちが列をなしてランニングをしている。


 「こちらです」


 私たちが案内されたのは煉瓦の壁に、瓦の屋根で作られた軍の施設というよりもどこかの大学のような印象を受ける建物だ。


 その建物に中に入ると、外と違ってコンクリートの白い壁に緑色をしたゴムの床、壁と同じくコンクリートで作られた質素な階段があった。

 私たちは入口の脇にある待合所に案内された。


 「こちらでお待ちください。 今係りの者が参りますので、自分はこれで」


案内してくれた兵士は私たちピシッと敬礼をすると元の持ち場へと帰って行き、残された私達はこの部屋にある長い木製のベンチへと腰を下ろした。


 「一体あなたは何者なんですか!! こんなところ記者の私だって一人では入れませんよ!!」

 

 古都さんは私の今の状況に興奮さめ止まない様子で鼻息を荒くしているが、私だって何でこんなことになっているかなんて私自身が知りたいんだ。

 

 「さぁ、なんだろうね」


 「もう!! 須藤さんは意地悪です!!」


 私のしれっとした返事に彼女は頬を膨らませて怒っていたが、その時待合所に2人の兵士が入ってきた。


 その2人も私の姿を見てギョッとした顔したがすぐに真顔なる。


 「お待たせしました。 南雲中尉がお会いになります。 こちらです」


 「ええ」


 「いよいよですね!!」


 私と古都さんは案内する兵士の後をついて行こうとするが、同時に入ってきたもう一人の兵士が彼女の前に立ちはだかる。


 「申し訳ありませんが、中尉がお会いになるのはそちらの髪の長いご婦人のみです。 お連れ様はここでお待ちください」


 「そ、そんな~」


 まさかの展開にとても残念そうな表情を浮かべる古都さんを私は元気づけるように声をかけた。


 「すまない古都さん。 ここで待っててくれ。 多分すぐに終わるとは思うから」


 「うう~~仕方ないですね……」


 さすがに死体発見の現場でキビキビと動いていた彼女もこの陸防基地ではそんな無茶はできないのか借りてきた猫の様に大人しくベンチへを座った。 

 

 「それじゃ古都さん行ってくるよ」


 「はい。 いってらっしゃいです」


 古都さんに一時の別れを告げて私は兵士の後について行き待合所を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ