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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
秘密のある村
36/80

ようこそ!! 神の社へ!!



 「神殺し?」


 摩周さんは頷く。


 「そうです」


 流し目で村長の方を見ると腕を組み目をつむって何やら考え事をしているようだ。

 

 「我々としても、苦渋の決断なのですよ」


 「苦渋の決断?」


 先ほどまで黙っていた村長が口を開く。


 「ダゴン様を殺す。すなわち我々の唯一信仰している神がいなくなるということじゃよ」


 「つまりは信仰する神様が居なくなってダゴン教団が無くなるってことですか?」


 「その通りじゃ。 この村の人々は災いを周辺の村々に撒き散らした過去があるとは言え、ダゴン様への信仰心があってこそ、今のような生活が成りっているのじゃ。 それが無くなるということは、村人の心の支えであったものがなくなってしまう……」


 村長は、煙管に火をつけて一服している。


 魔剣士は相変わらず俯いて黙ったままだ。


 「摩周。 すまんが後を頼む」


 一服を終えて村長が摩周さんにそういうと部屋を出てってしまった。


 「わかりました。 村長」


 村長が背を向けて部屋を出ていく時だ。


 なぜだが、寂しさや悲しさそんな感情が彼の背中から感じることができた。


 確かに信仰しているダゴン様を殺すことになってしまったが、彼がそこまで感じるものはなんだ?

 

 俺にそんな疑問が頭を過る。


 村長が部屋を出ていくのを見送った摩周さんが小さくため息をつく。


 「村長は一体どうしたんですか?」


 「え? ああ、実はダゴン様は村長にとっては父のような存在なのです」


 「父? お父さんってことですか?」


 「はい」


 摩周さんは少し難しそうな顔したのちゆっくりと話し始めた。


 「私達の先祖、つまりは村長の同族は”大いなるダゴン”と”母なるヒュドラ”から生まれたと言われています」


 「”母なるヒュドラ”?」


 「ええ、村長の母親にあたる人らしいのですが、詳しいことは村長を含め誰もわかりません」


 「わからない?」


 俺は首を傾げた。


 摩周さんにとっては何世代も前の話だから分からないことは当然だ。


 しかし、村長はどうしてだろうか?

 

 自分の母親が分からないことがあるのだろうか?


 「おっと、話が脱線してしまいましたね」


 「ええ、すみません」


 「では、ダゴン様の討伐の方法ですが、この竜玉をダゴン様が封印されている封印石にはめ込んでいただくだけです」


 「え? それだけですか!?」


 てっきり、SFやファンタジーにありそうな大がかりな魔術を使ったりして封印するものだと思っていたが、ただ填め込むだけだったとはあまりにも拍子抜けだ。


 「そうです……が、そううまくいくでしょうか……、向こうには大群の祖先たちと私の息子”友彦”がいます」



 「…………」


 俺はさっきの拍子抜けた言葉を飲み込んだ。


 冷静に考えてみれば向こうには昼間見た深きものども(ディープワンス)と、どこでそんな力を身に付けたのか、祖先の力を有する友彦さんがいる。


 「このことは村人は誰一人手を上げないでしょう。 なんせ自分の信仰している神を殺すことになるのですから、だからこそ、お二人にお願いしたいのです」


 おまけにこちらの戦力は俺と魔剣士の2人きりときたもんだ。

 

 その時、俺は友彦さんが言っていたことを思い出した。


 「そう言えば、友彦さんが言っていたもう一つの方法って言うのは一体?」


 摩周さんは気まずそうな表情で答える。


 「友彦の言っていたもう一つの方法は、人間の生血を封印石に与えることです」


 「……ということは最初に2人を攫ったのは――」


 摩周さんは大きく頷く。


 「お察しの通りです。 彼らにとって彼女らは”保険”でした。 ダゴン信教が手に入らなくても”最悪、ダゴン様の復活”はできます」


 「聞く分だと何か短所がありそうですね」


 「はい、ダゴン信教を用いた儀式にて復活したダゴン様は復活者の願いを聞き入れ、その者の願う通りになると言われていますが、それ以外の方法で復活させた場合、すべてを破壊し蹂躙し灰塵となると言われています。 20年前の復活の際は彼らはその方法を使いました」


 「じゃあ、あのノートに書かれていた人たちは……」


 「全員は救えませんでした。 生き残った1人も陰巣枡インスマスを脱出させることには成功したのですが、復活間際のダゴン様の陰を見てしまったらしく、精神的にかなり不安定な状態でした」


 摩周さんの言うことが本当なら、三森さんが俺達に話していたことは全員死んでしまっていることになる。


 「それに当時の強引な封印によってダゴン様の力がバイオリズムの様に強くなったり弱くなったりしています。 友彦が指定した時間が最もダゴン様の力が強くなる時なのでしょう」


 「…………」


 やれやれ、ダゴン信教を持っていけば友彦さんたちはダゴン様を復活させて日本に宣戦布告をする。

  逆に持っていかなければ、武藤さんと伊藤さんは生贄にされて復活したダゴン様は見境なく破壊しつく。


 どっちにしろ、俺達がどうにかしないことには日本は終わる。


 「お願いです!! どうか!! どうか友彦達を!! ダゴン様を!!!」


 摩周さんはテーブルに頭をこすり付ける。


 まるで依頼というよりも懇願だ。


 俺の答えは決まっている。


 「摩周さん。 俺はダゴン様を殺したり、友彦さんを止めることについては自信なんてない。 けれど、これはゲームと同じでやってみないと分からないし、プレイしないとエンディングは見れない」



 突然、さっきまで黙っていた魔剣士が椅子から立ち上がってテーブルの上に置いてあった”竜玉”を取ってドアの前まで行く。


 そして、深々と被っているフードのせいで表情は見えないが、チラッとこちらを見る。


 つまりは、行くから早く来いってことなんだろう。


 「だから……行きます。 ダゴン様を殺しに、友彦さんたちを止めに!」


 「…………ありがとう」


 俺達は摩周さんからダゴン様の眠っている封印石のある”やしろ”の場所を聞くと防空壕を後にする。



 

 





 防空壕から出て少し進むと目の前に陰巣枡インスマス村が見えてくる。


 「こんなところにいたんだな……」


 俺達がいた防空壕は村と漁港の丁度中間辺りだ。


 俺がしみじみと自分のいた場所を確認していると、魔剣士はお構いなしにツカツカと先に歩いて行く。


 「無愛想な奴だな」


 これなら、まだからかってくる須藤先輩や蹴っ飛ばされるが藤波の方がまだましだ。


 「藤波……」


 民宿を出てからここまで、彼女だけ姿を見ていない。


 「無事ならいいんだけど……」


 わがままで、自分勝手で暴力的な彼女だけど居なくなったら居なくなったでやっぱり心配だ。


 友彦さんは”彼女達”と言っていた。


 藤波も彼らに捕まっているということなのか? 


 それとも…………。


 そんな考えをしていると、”ドン”と立ち止まった魔剣士にぶつかる。


 「おっと……ごめん」


 謝るが魔剣士は微動だにせず、真直ぐに一点を見ている。


 「まさか、ここが”やしろ”の入口だったなんてな」


 それは、俺の当初の目的地であり、最初の始発点。


 摩周さんが経営する”民宿 南風荘”だ。


 「俺達は敵陣のど真ん中で寝ていたんだな」


 今考えると何とも”間抜けな”話だ。


 「まだ夜の8時か。 約束の時間までまだ時間があるな」


 携帯で時間を確認する。



 「何か作戦でも練るか魔剣士?」


 俺の問いかけに魔剣士は答えない。


 ただ、真直ぐにこれから向かうところを見ているだけだった。


 「っま! 作戦練ってもしょうがないか……なら!!」


 俺はパーカーのポケットから村長に預けられた拳銃を取り出しスライドを動かし弾を確認する。


 魔剣士は木札を出し、純白の刀を復元させる。


 「じゃあ、正面突破といきますか!!」


 俺と魔剣士は民宿へ向かって走りだす。




 民宿の入口の門が見えてきた。


 なんというか、お約束というか2体の深きものども(ディープワンス)が門付近をうろついている。


 こちらにはまだ気づいていない様子だ。


 俺は走るの辞め、2体のうちの1体に拳銃の狙いを定める。


 「相手は人間じゃないんだ…………」


 銃のフロントサイトとリアサイトを水平に合わせ、愛銃ガーディアンと同じように引き金を引く。


 ”パン”という高い発砲音が成り、狙った深きものども(ディープワンス)の肩に命中する。


 音とダメージで2体はこちらに気づき大声で雄叫びを上げる。


 その瞬間、距離を詰めた魔剣士が、もう1体の深きものども(ディープワンス)に一太刀を浴びせる。


 刀を受けた怪物はきれいに縦に裂けて2体となって倒れた。


 残りの深きものども(ディープワンス)が魔剣士に襲い掛かろうとする。


 すかさず俺はもう1体に向けて発砲する。


 ”パン パン パン”と高い音が俺の拳銃から発せられる。


 俺の放った弾丸は相手の胸、足に当たる。


 足に弾丸を受けたせいか深きものども(ディープワンス)はガクッと体勢を崩し、膝立ちの状態になった。


 膝立ち状態で呆然としている怪物の首を魔剣士は横一線に跳ねる。


 首は宙を舞い、残された体からは血が噴水の様に噴き出ている。


 そして、ドサッと怪物だった物は後ろに倒れて動かなくなった。


 俺は急いで門まで行くと待っていた魔剣士と共に正面玄関から中へ入る。



 民宿の中に入ると、何体かの深きものども(ディープワンス)が入口から入ってきた俺達を一点に見ると一斉に咆哮し襲い掛かる。


 ある者は魔剣士によって切り捨てられ、ある者は俺の銃で倒れる。


 アークライトでの訓練が功をそうしているのだろうか、それとも銃の反動が小さい為だろうか?


 俺は戸惑うことなく深きものども(ディープワンス)に弾丸を浴びせ倒していく。


 魔剣士も次々と怪物を切り伏せたり、氷柱で串刺しにしたりと、前へ前へと進んでいく。


 遂に俺達は”やしろ”の入口にたどり着く。


 そこは三森さんと初めて会った場所。


 民宿 南風荘が誇る自慢の露天風呂だ。


 露天風呂はまだ湯が入っているためか濃い霧のような湯気が浴場全体を包んでいる。


 俺は摩周さんに教えてもらった通りに浴槽の湯を抜く。


 ゴボゴボという音を出しながら見る見るうちに浴槽の水位が下がっていき、やがて空になった。


 濃い霧のような湯気が消え去り浴槽の底が見えてくる。


 魔剣士は浴槽の中に入り、中心に設置されている大きな岩の手を探り始める。


 探っていくと、ある場所で岩の表面が凹みカチッと言う機械音が鳴る。


 そして、ゴゴゴッという轟音を立てて中心の岩がスライドしそこから地下への階段が現れる。


 俺も浴槽に降りて魔剣士と共に階段を凝視した。


 階段からはかなり濃い潮の香りと肌寒い風が俺達に向かって吹いてくる。


 「まるで、地獄への入口だな……」


 昔、両親に連れられて東京の美術館に連れてかれたことがある。


 そこには”地獄の門”と題された高さ5メートルほどのさまざまな彫刻の掘られた門が展示されていた。


 幼かった俺は親父から地獄の門の説明を受けて怖くて泣きだしてしまった。


 そりゃそうさ。 なんたって地獄の門だ。


 子供からすればそこはあの世の入口で、門を通れば鬼や亡者や閻魔が居て俺に罰を与えるんじゃないかと考えてしまっていた。


 ただ、今は子供の想像とは違う。


 これから向かう先には鬼も亡者も閻魔もいない。


 助けたい人と止めなければいけない人、そして、倒さなければならない神がいるんだ。


 俺は大きく深呼吸をすると魔剣士に話しかける。


 「魔剣士。 覚悟はいいか?」


 魔剣士………。


 一度は先輩や俺に襲い掛かってきた相手だけど、ここまで俺に対して何もしかけてくる様子は全くなかった。


 完全にこいつを信用したわけではないが、俺だけの力だけではダゴン様を倒すことはできない。


 奇妙な共闘になっているが今はこいつを信用せざる負えない。


 おそらく、向こうも同じことを考えているのだろうか?


 魔剣士は俺の問いかけに一瞬の間を置きゆっくりと階段を下りはじめ、俺もそれに続く。


 ダゴン様を殺しに。



 階段は明かりが無く、俺は民宿から持ってきた懐中電灯で下を照らしながらゆっくりと階段を魔剣士と共に下りていく。


 「何も見えないな」


 ライトをずらして階段の先を照らすが何も見える気配はない。


 「一体どのくらいあるんだ?」


 階段には俺の持っている懐中電灯の光と二人の足音が木霊するだけだった。


 どのくらい階段を下りただろうか。


 時間にしては10分、もしくは15分くらいだろうけど、俺にはそれが1時間以上階段を下りている様に感じる。

 





 「……………」







 「………………………」









 「………………………………ん?」


 


 やっと床らしきものが俺のライトに照らし出される。


 「やっとか……」


 魔剣士は相変わらず黙って階段を下り俺も続く。


 階段を下りきるとそこは何やら広い場所のようで懐中電灯の光さえ真黒な闇に飲まれてしまって全体を見ることができない。



 「ここが”やしろ”なのか?」


 俺が周りに光を当てて散策していると、突然、火が次々と灯される。


 「な、なんだ!?」


 俺は銃を構えて辺りを警戒する。



 「魔剣士!?」


 魔剣士の方を見ると、こいつは1つの場所を見ていた。


 火が灯ったおかげで全体が明るくなり、魔剣士が見ているものに俺も視線を合わせる。


 視線10メートルの先には、写真であった鳥居と神社。


 神社の前に友彦さんと狐面の赤いローブの格闘家グラップラー、そして2体の深きものども(ディープワンス)がそこに立っていた。


 「奇襲な上に正面からやってくるとは恐れ入る」


 友彦さんの言葉に持っていた銃のグリップを強く握る。


 「まぁ、ここに来たということはもちろん”ダゴン信教”は持ってきてもらえたということですね」


 「ああ!! 持ってきたさ!!」


 友彦さんの問いかけに強気で答える俺だったが、彼は俺の姿をみて何やら落胆にしているように感じた。


 「まさか……父さんではなく、君のような子供を向かわせるとは……仮にも村の代表を務めていながらなんという腑抜け具合だ……」


 どうやら彼からすればダゴン信教を持ってくるは俺ではなく自分の父親である摩周さんだと思っていたらしかった。


 「そ、そんなことよりも、武藤さんと伊藤さんはどこだ!!」


 「ふふ、そんなに慌てなくても彼女たちは無事ですよ」


 友彦さんが指をパチンと鳴らすと神社の扉が開かれる。


 神社の中には拘束されている大学生2人組の様子が見える。


 「も、望月君!!」


 「望月く~~ん!!」


 俺の姿に気づいて声を上げる2人の後ろには大きさが約3メートルほどある荒縄を巻かれて祭られている岩がそこにはあった。


 「あれが………”封印石”………」


 俺が呟くと友彦さんが大声で叫ぶ。


 「ようこそ!! 神の社へ!!」



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