わかりました。 その依頼お受けします
耳を劈くような武藤さんの高い悲鳴が防空壕内に響き渡る。
「む、武藤さん落ち着いて!!」
俺は、武藤さんに落ち着くように促すが、彼女の次の一言に固まる。
「望月君!! ダメだよ!! その年で”壁ドン”なんて!!! し、しかも、魚人さんとなんて………なんて、アブノーマルなのーーー!!!」
「え……………」
「なんじゃ? ”壁ドン”とは?」
次の瞬間、”ああ、この人もか………”と思うのだった。
なんで、俺の周りにこういった謎の感性の人間ばかり集まってくるんだ?
さっきから、キャーキャー言っている武藤さんをしり目に、ウォホンっと大きな咳払いを深きものども(ディープワンス)がする。
彼女もそれに気づいたのか静かになった。
「あ……ごめんなさい。 つい、舞い上がっちゃって~~」
武藤さんが俺達に謝罪をすると、深きものども(ディープワンス)は、俺の寝ているベットから離れて椅子に腰かけ、再び煙管を吸い始めた。
「後、ごめんね~~遅くなっちゃって~~」
彼女は、水の入ったコップを差し出す。
「ありがとうございます」
俺はコップを受け取り一気に飲み干す。
「おいしい」
水はよく冷やされてる上に、味の方も僅かだが甘みを感じるまるでどこかの山の中にある川の天然水のようだ。
「よかった~~」
俺の姿を見た武藤さんはニコニコと嬉しそうな表情をしてこちらを見ている。
「すまんが、話の続きをしてもいいかの?」
「え、そうだったんですか~! ごめんなさい、私ったら~~~」
武藤さんはペコペコと深きものども(ディープワンス)に一生懸命頭を下げている。
この人物は一体何者なんだ?
見た感じだけど、武藤さんとも面識があるみたいだ。
それに、俺達を襲ってきた連中とは違って敵ではなさそうだけどな。
「いやいや、気にせんでくれ」
「じゃあ、お話の続きをどうぞ~~村長さん」
「え!!! 村長!!!」
武藤さんの”村長”という単語に俺は驚いた。
「うむ、わしがこの村”陰巣枡”の村長じゃよ。と言っても普段は、人前に姿を見せれぬから、摩周にその役を任しておるがの」
「そ、そうなんですか…………」
「そうなんだよ~~私も最初は驚いちゃったよ~~、けど変わってるよね~~」
「か、変わってる…………ですか?」
「うん!」
元気よく頷く武藤さんだが、普通の人が見たらおそらく先ほどの俺みたいに恐怖するかもしくは発狂してもおかしくないだろう。
武藤(この人)さんの精神は一体何できてるんだか。
こんなこと言っちゃなんだけど、魚の化け物が村長やってる村ってどうなんだよ。
RPGとかで、そんな設定を見たことはあるけれど実際見るとなんと言うか。
そんな考えをしり目に、楽しそうに会話する武藤さんと自称村長の深きものども(ディープワンス)はとてもシュールな絵図らだ。
「さっきの続きじゃが――」
「あ、もし大事な話なら私は外にでてましょうか~~?」
「いや、ここに居ても構わんし、それに御嬢さんにも話さなければならないことじゃしな」
気を使って部屋を出ようとしている武藤さんを引き止める。
「どうじゃ? わしの頼みを聞いてはくれぬか?」
深きものども(ディープワンス)のギョロっとした二つの丸い目が真直ぐ俺を見る。
俺は俯きその視線に耐えながら答えを考える。
今考えていることは4つ。
1つ、本当に俺で何とかなるのだろうか?
魔術だって本当にマグレで出たんだし、もう一度、魔術式を書いても発動する確率がものすごく低い。
2つ、伊藤さんが何処に囚われているかどうかだ。
これに関しては、俺のカンだけどこの人たちは調べがついている可能性が高いだろう。
村長が俺に依頼してくるところからそこら辺のことを踏んでいるに違いなだろう。
3つ、今の俺の体だ。
もし仮に、村長の提案を受け入れたとしても、腕は折れているし、足も所々痛みがあるし、胸のあたりなど本当は声を出すだけでものすごく痛い。
こんな状態で本当に彼の依頼を達成することができるのだろうか?
4つ、相手のことに関してだ。
俺は、相手のことを何も知らない。
深きものども(ディープワンス)については先ほどの摩周さんの説明で分かったが、あの炎を操る狐面の奴や面識のない摩周さんの息子”摩周 友彦”ことについては何も知らないし、相手の数や復活させようとしているダゴン様のことだって、何かしらの恐ろしい存在くらいの認識しかない。
なら、結論は決まっている。
「すみません、よく考えましたが、体もこんな状態だし――」
「なら、ちょっとまっとれ」
俺が答えを出そうとするのを遮って、村長は折れている腕や体に手を当て深く息を吸い何か意識を集中している。
すると、だんだん村長の手が当てられているところが暖かくなってゆく、そして痛みがスーッと引いていく感じがする。
「これで、多少は動けるじゃろ?」
俺が腕や足を動かすと、先ほどの怪我が嘘のように治っている。
「あのこれって…………」
「すっごいでしょ~~~村長さん~~~!!」
俺が驚愕している脇から武藤さんが大声で話しかけてくる。
「私もね~~ここに来た時に手に怪我をしちゃったんだけど、村長さんのその力で直してもらったんだよ~~~」
隣でキャーキャー言っている武藤さんを無視し、俺は村長に率直に質問する。
「あの、これ魔術ですよね?」
椅子で、煙管を吹かす村長は、ニヤッとした表情でこう答えた。
「ああ、そうじゃよ」
「あなたはどうして魔術が使えるんですか?」
村長は、少し笑うと俺の質問に答える。
「別に、魔術はお主、人間だけが使えるわけではない、我々だって習得すれば使えるのじゃよ」
「…………」
村長の答えには少し納得できないところはあるが、俺が思っていた問題の1つが解決されたことには変わりはない。
「じゃあ、武器はあるんですか?」
「それなら―――」
村長は懐から布に包まれてる何かを取り出し俺に手渡した。
受け取ったものは、ズシリとかなり重量がある。
布を取ってみると、それは1丁の古い銃だ。
形を見る限りだとスライドや、愛銃の様にリボルバーの特徴であるレンコン型のシリンダーないことを見ると、オートマチック型の拳銃みたいだ。
「それにしても変な形の銃ですね」
銃の知識はFPSなどで少し知っているが、受け取った銃は俺が見てきた銃とはまるで違う。
スライド部分はフレームが覆っているし、撃鉄は見えないし、なんといっても銃の左側には何か突起のような部分が見える。
ただ握った感触は、日本人の手に合わせてあるのかやたらしっくりくる。
「九四式拳銃じゃよ。 ここに隠されていたのを終戦のドサクサにチョロっとな」
「じゃあ、これ本物なんですか!?」
日本に居て本物の拳銃を触れるのは、警察か自衛隊もしくはヤクザなどの闇の世界にいる連中だけだろう。
「まぁ、お主がこれをこの村の外に持っていかなければ大丈夫じゃよ。かかかっ!!」
「…………」
「すごいね~これ~~」
武藤さんは物珍しそうに、俺が受け取った拳銃をまじまじと見ている。
これってあからさまに銃刀法違反じゃないだろうか。
「後、弾はこれだけじゃ」
村長は、装填されたこの銃のマガジンを5つほど取り出し俺の脇に置いた。
「これでも、何か問題があるかの?」
「……………………」
今のところ4つあった問題のうち2つ解決されてしまい、俺は呆れた表情でこう言った。
「わかりました。 その依頼お受けします」
「かかかっ!! 若いのはこうでなくてはな!!」
村長は俺が依頼を承諾したことに機嫌がよくなったのか、大きな声で笑っている。
「何だかよくわからないけどよかったね~~~」
武藤さんも一緒になって笑っているが、おそらくこの人は本当によくわかっていないんだと思う。
「さて、主らの友達がつかまっているところなのじゃが――」
村長が話し始めようという時だ。
勢いよく部屋のドアが開かれ、血相の変えた村人が入ってきた。
「村長大変です!!!」
「なんじゃ!!騒々しい!!」
余程慌ててきたのだろう、村人は肩で息をしながら村長に事の次第を伝える。
「敵襲です!!」
「なんじゃと!! 数は!!」
「数は…………」
村人は唾を飲み込んで答えた。
「数は………1人です!!」