武藤さんの叫び声がこの旧日本軍の防空壕に木霊する
「うあああああぁぁぁぁぁ!!!」
そいつの姿を見るなり恐怖で大声で叫び、部屋の隅っこまで素っ飛んで移動する。
パニックっていたせいか、壁をよじ登っては落ち、よじ登っては落ちじたばたあがいている姿は、我ながら滑稽な姿だ。
深き者ども(ディープワンス)は、俺のその情けない行動を見ても、くゆっくりとこちらへ近づく。
「来るな!! やめろ!! こっち来るな!!!」
俺は、顔を背け、最後の抵抗とばかりに手を左右にブンブン振り回す。
「おい。 童子、そんなに、怖がらんでも取って食ったりはせんぞ」
部屋に現れた深き者ども(ディープワンス)は、壁を背に座り込んでいる俺に視線を合わせるように腰を下ろす。
「へ? しゃ、喋った!?」
今まで、出会ってきた深き者ども(ディープワンス)は、獣のような咆哮は上げても、人語をしゃべることはなかった。
突然の相手の行動に、俺はキョトンとした表情で、深き者ども(ディープワンス)を向きなおす。
「やれやれ、最近の若いのは根性がないの~」
深きものども(ディープワンス)はどっこらせっという感じで部屋にある摩周さんの座っていた椅子に座る。
まじまじと、椅子に座っている深きものども(ディープワンス)をみると、顔や背びれなどを見る限り俺が今まで出会ってきた奴らと同じだが、
彼らと違うところは、顎には長く白いひげが生え、人語をしゃべり、藍色の着物を着ている。
「あ……あ……」
「そんなところに座り込んどらんで、寝床に戻ったらどうじゃ?」
「あ……はい……」
彼に促され俺は、奇妙な気持ちになりながらも自分の寝ていたベットへ戻り深きものども(ディープワンス)の方を向く。
「すまんが、一服したいんじゃがいいかの?」
彼は、着物の懐から、煙管と巾着を取り出し、ヒレのある手で器用にも煙管に巾着から葉っぱを取り出して詰め、マッチで火を点け、一服している。
その姿は、俺から見ると、まるで奇妙というか変なというか、そんな雰囲気が部屋を支配してるのが、鈍感な俺のでもわかる。
一服している深きものども(ディープワンス)を観察していると、彼から不意に話しかけられる。
「さてと、まぁなんじゃ。 突然じゃが、お主、魔術師じゃろ?」
「え!? いや、俺は――」
「えーえー隠さんでも、お主から魔術の匂いがプンプンするわ。」
深きものども(ディープワンス)は煙管をテーブルの端で叩き、灰を床に落としす。
そのカン!っという高い音は、油断していた俺の体が反応し、ビックっと大きく動かす。
「っといってな。 別にワシはお主と対峙するつもりはないんじゃがの」
「はぁ………」
なんだろう、さっきの摩周さんといい、この深きものども(ディープワンス)といい、まるで雰囲気について行けない。
「ところで、お主の目的は何じゃ? ダゴン信教か? それともわしらの殲滅が目的か?」
「あの~~、さっきから話が見えないのですけど、俺はただの旅行者で、っていうか、ただのお使いでここまで来ただけで、ダゴン信教とか殲滅とかは関係ないんですよ!!」
「ん~~? じゃあ、なんでお主は魔術師をやっておるんじゃ?」
「別に好きでやっているわけじゃないし、てか、魔術が使えたのはさっきのが初めてで――」
「じゃあ何か? お主ははぐれ魔術師ということか?」
「い、一様、それなりに組織には属してますけど………まだ見習いですが」
何を俺はこいつにべらべらしゃべっているのだろうと気にはなったが、相手が普通の人間ではない分、この手の話をできたことで少し気持ちがすっとした気がした。
「ふむ………そうか……」
深きものどもの(ディープワンス)は再び煙管に葉っぱを詰めて火をつけると、ジッとこちらを凝視している。
(うう……気まずい……)
どのくらい時間が経っただろうか?
おそらく現実では10分くらいだろうが、俺にはそれが6時間以上に感じる。
再び煙管に残った灰を床に捨てると、彼は突如立ち上がりこちらへぐいっと5cm位まで顔近づける。
「お主に頼みがある」
「えっと、えっと、なんでしょうか?」
「奴らを止めてはもらえんだろうか?」
深きものども(ディープワンス)は深々とこちらに頭を下げる。
奴ら。
おそらくだが、ダゴンを復活させようとしている連中のことだろうか?
「いやいやいやいやいやいやいや無理です!! 今の俺はただの人間で、魔術だってマグレかなんかで使えただけですし!! それに、あなたは誰なんです!?」
「わしか? わしは――」
深きものども(ディープワンス)が喋りかけた時、タイミングが悪いというか、いいと言えばいいのか、部屋のドアが勢いよく開けられる。
「ごめ~~~ん、望月君~~~!! お水貰うのは出来たんだけど、道に迷っちゃ……って………」
俺のために武藤さんが水を取って戻ってきたのだけど、彼女からすれば、魚顔の怪物が、今まさに俺に襲い掛からんとする光景が広がっているに違いない。
俺はすかさず声を武藤さんにかける。
「む、武藤さん。 この人は……」
「きゃぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
武藤さんの叫び声がこの旧日本軍の防空壕に木霊する。




