ここまでの出来事が頭の中でグルグル回っていく
「摩周さんの息子さん!?」
俺は彼の先ほどの言葉に驚愕する。
なぜなら、今現在、この陰巣枡村で起きている抗争は、実の親子同士が争っているということになる。
「一体、どうしてこんなことになってしまったんですか?」
この問いかけに、摩周さんは只々首を横に振るだけだった。
「わかりません。 息子は、村にいることを嫌がり、東京の大学へ行っていたのですが、突如、学校を辞め、村へ戻ってきました」
「息子さんから、大学を辞めた理由は聞いたのですか?」
「いいえ、息子は、この陰巣枡でやることができた。 そう言っていましたが、まさか、それがダゴン様の復活だったとは思いもよりませんでした」
話をするたびに摩周さんの表情が暗くなっていくのが分かる。
落ち込んでいく摩周さんを気遣ってか武藤さんが彼に話しかける。
「だ、大丈夫ですよ~~。 きっと、摩周さんが息子さんを説得すれば、こんなことやめてくれますよ~~。 そうすれば、香苗ちゃんも返してくれるし、その深き者ども(ディープワンス)の人たちも海に帰ってくれますって~~」
おそらく、彼女は彼女なりに気を使ってのことだろう。
本心では友人の伊藤さんが心配で仕方ないはずだ。
「いえいえ、すみません。 君たちのような若い人たちに気を遣わせてしまって……」
「そ、そんなことないですよ~~」
彼女の言葉に勇気づけられたのか、摩周さんの表情が少し戻る。
「とにかく、ここに居れば安全です。 もし奴らが襲ってきてもこの強固な岩盤と入口には鋼鉄製の扉がありますから、望月くんは今はゆっくり体を休めてください」
「はい、ありがとうございます」
俺は、摩周さんに軽く会釈をすると、それを見た彼は部屋から出るためドアへ向かう。
その時、俺はあることを思い出し彼を呼び止める。
「あ、摩周さん! 一つだけ聞きたいことがあるんですけど?」
「はい、どうしました?」
俺の疑問に思っていることそれは。
「たしか、魚人達と戦っている時に、刀を持った剣士がいたの見たのですけど」
「ああ、あの方なら今、防空壕の外で見張りをしていますよ」
「そうですか。 なら、なんであの人は村人と一緒に戦っているんですか? 摩周さんが用心棒として雇ったとか?」
「いいえ、魚人たちが村を襲ってきた時に、あの方は我々を助けてくれたのです」
魔剣士が、村人を助けた?
なら、なんで、俺と先輩の時にこちらに仕掛けてきたんだ?
さまざまな憶測が頭を駆け巡る。
「まぁ、無口な方ですが、相手側に炎使いがいる上、今の我々は普通の人間と変わりないですから、戦力としてはものすごく助かっていますよ」
「そう……ですか……」
「あの方とお知り合いですか?」
摩周さんの質問に、正直に、アイツは前に俺と先輩を襲ってきた奴なんです!っと答えてしまおうかと思ったが、これで、魔剣士が抜けてしまえば、伊藤さんの救出が難しくなる。
なら、こう答えておくべきだろう。
「いえ、ただ気になっただけです。 すみません、呼び止めてしまって」
「いえいえ、お気にならさず」
摩周さんはニコニコした笑顔で、俺と武藤さんを残して部屋を出て行った。
「ふぅ……」
「望月君、どう具合? 痛いところとかある~~?」
ベットで横になっている俺を気遣ってか、武藤さんが話しかけてくる。
「いえ、今のところは大丈夫です。 では、水を一杯もらえますか?」
ここに来るまでの間、何も飲まないで歩いたり、戦ったりしたせいだろう。
気が付けば喉がカラカラだ。
「お水ね~~~ ちょっと待っててね~~」
武藤さんはニコッと笑うと、水を貰いに部屋を後にする。
残された俺は、ベットの脇に畳まれて置かれている、魚人の攻撃でボロボロになってしまった自分のパーカーを手に取り、ポケットを弄る。
ポケットからは、いつも、魔術の訓練に使っている魔術式が書かれてるカードを取り出してみると、俺は驚いた。
鮮やかなスカイブルーの色をしたカードは、まるで、電気がショートでも起こしたように真ん中から焦げ付いて真っ黒になっている。
「あの時、銃を作れなかったのは、これが原因か……? じゃあ、なんで、今まで俺は魔術を使えなかったんだ?」
確かに、魚人に襲われた時、右手には拳銃が握られていて、その威力は、愛銃をはるかに凌ぐ威力を持っていた。
それで、カードがダメになってしまったとは言え、今までどんなにやっても魔術が使えなかった理由にはならない。
後、漁港で死んでいた魚人も不可解だ。
これは、まだ俺の推測にすぎないが、あの焼け焦げている魚人は、魔剣士と戦っていた赤いローブの奴がやったんじゃないのだろうか?
しかし、これには疑問が残る。
今、アイツは、魚人たちと一緒に、村人と戦っている。
なら、なんで、一緒に戦っている仲間であるはずの魚人が、あんなところで、しかも、隠されるように死んでいたのか?
魔剣士に関してもそうだ。
あいつは、俺と先輩を襲ってきた、つまりは敵のはずなのになんで、村人と一緒に戦っているんだ?
ここまでの出来事が頭の中でグルグル回っていく。
「あああああ!!! だめだ!!」
結局のところ、答えが全然でてこない。
「……………」
「…………………………武藤さん………遅いな………」
その時、ドアを誰かがノックする。
「あ、戻ってきた。 はーい」
返事をすると、ゆっくりと部屋の扉が開けられる。
「武藤さん、遅かったですね。 どっか道にでも―――――」
ドアから入ってきた人物に俺は言葉を失ってしまった。
「あ……ああ………」
ドアから入ってきたのは、俺達を追いかけまわし、伊藤さんを誘拐し、俺の体をズタボロにした。
あの魚顔の怪物、深き者ども(ディープワンス)が俺の部屋に入ってきたんだ。




