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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
秘密のある村
27/80

これ……俺が……作った……のか?

  

 三森さんと別れてどのくらい経っただろうか……。

 俺は、彼女の言われた通りに真っ暗な林道にライトを照らし目的地である、吊り橋へと向かって歩いてる。

 正直な所、歩いていると言ってはいるが、足の方はすでにパンパンに腫れて腿の辺りが痛いが、それを無理矢理に動かしているの現状だ。

 

 「はぁはぁ……はぁはぁ………ん?」


 そんな時、俺の鼻先に一滴の水がピチャリと当たる。


 「雨……か……」


 ポチポチと降り始めた雨だったが、いきなり、バケツをひっくり返したようなどしゃ降りのゲリラ豪雨に変わってしまった。


 


 最悪だ。



 

 疲労困憊の上に雨で体を冷やされたら体力を奪われる一方だ。

 

 「急がないと……」


 止まることのない豪雨の中、目的の橋で痛む足に無理をさせて、早歩きで向かう。


 それから15分ほど歩いただろうか、どこからか、雨の音に紛れて、水の流れる音が途切れ途切れだけど聞こえる。

 

 空が陰り、真っ暗な林道を雨の中歩いていくと、目の前に、両サイドを1mくらいの杭で打ち込み、それを縄で縛って木の橋げたで作られている吊り橋にたどり着いた。

 

 


 「ここが、三森さんの言っていた吊り橋か」


 向こう岸まではおおよそ50mほどで吊り橋の幅は人が一人やっと通れる幅だ、左右には手すりにボロボロのロープが掛かっているくらいで、踏み外したら高さ5メートルくらいの川へ真っ逆さまだ。

 

 川の方へライトを向けると、雨の影響か、激流が右から左へと流れている。

 

 落ちたらまず命はない。

 

 この橋を渡ってしまえば国道まではあと少し、後は、道伝いに夜刀浦に向かって歩き、始発の電車に乗って俺のいる町まで帰るだけ……。


 俺は、ここまで来て、後ろ髪をひかれる思いが頭をよぎる。

 

 このまま、俺だけ帰ってしまっていいのだろうか?


 藤波や大学生の伊藤さんと武藤さんを置き去りにして……。


 三森さんも、心配しないでと言っていたけど、あの村人や怪物の数は一人でどうにかなるようなものではない。


 かといって、今の俺に何ができる?


 ガーディアンもなく、魔術もまったく使えない俺は、彼女の役に立ったり、大学生や藤波を助けることができるのか?


 ただ、ゲームに出てくるモブキャラのように、ただただ、敵に圧倒され殺されるのが落ちではないのか?


 「…………」


 次第に雨脚が強くなる中、吊り橋の前で俺は動けなくなる。

 

 吊り橋への第一歩が出せない。


 「くそ!! けど、俺は!!!」


 俺が、頭の中の迷いを振りほどき、吊り橋へ一歩踏み出そうとした時だ。


 雨のせいで抜かるんでいた泥に足を取られ、視界が上下逆転する。


 派手に後ろからすっころんだが、幸いにもやわらかくなった泥のおかげで叩きつけられることはなかったが、それでも首への衝撃が俺を襲う。


 「いててて…………」


 なんだこれは、罰なのか。


 みんなを見捨てて、俺だけ助かろうとする愚かな自分への神様の罰なのだろうか?


 体を起こし、自分の姿を確認する。


 雨も止み、雲の隙間から月明かりが、今の己の姿を映し出す。


 泥だらけで汚くなった自分の姿を見ると情けなくて涙が出てくる。


 「くそ!!!!」


 拳を振り上げ、苛立ちから地面にそれを振り下ろす。


 「くそ! くそ!! くそ!!! くそ!!!!」


 何度も何度も情けない自分に腹が立ち地面に拳を振り下ろす。


 「俺だって、魔術が使えれば!!」


 「ガーディアンがあれば!!」


 自分が、この地球、いや、この宇宙でちっぽけで、弱いただの青年ということ思い知らされる。


 「…………くそ………」


 完全に自棄になっている。


 自分でもそれは分かっている。


 けど、今の現状を変えられない。


 そんな現実が俺に突きつけられる。


 なら、今の選択肢は一つだ。


 俺は、ふらりと立ち上がり、三森さんの言うとおり、吊り橋へ足を運ぶ。


 その時、後ろからピチャリと水たまりが跳ねる音が聞こえる。

 

 音に気づき、振り向くと、そこには、あの怪物。


 魚の顔した怪物がそこに立っていた。


 「あ……」


 口には鋭い牙、鰭のついた両手には尖った爪が生えている。


 「ここまで来て……」


 そう、俺が呟いた瞬間、怪物は俺に向かって弧を描くように飛びかかってくる。


 「くっ!」

 

 俺は、体を転がし避けたが、怪物が吊り橋を背にする形になってしまった。


 「どうする……」


 怪物は、もう一度、飛び掛かろうとしているのか、体を屈めこちらの様子を威嚇しつつ伺っている。


 脱出経路は、あの吊り橋だけだ。


 そんな時、一つの考えが頭を過る。


 逃げる。


 逃げちまえよ、それで逃げられれば儲け物だ。


 もう一人の俺が頭の中にささやきかけるようにその言葉が響く。


 俺は、少しずつ相手に対峙しながら後ろへと後ずさる…………が。


 「いや……もう逃げるのは……」


 それは、今までのうっ憤だったのだろうか?


 こら切れない感情を俺は爆発させて、怪物に向かって叫ぶ。


 「俺はもう逃げない!!!」


 気が付けば、右手に拳を握り、怪物に向かって突進している自分がいた。





 「うわあああぁぁぁぁぁ――!!」


 傍から見れば馬鹿だと言われる方も知られない。


 勝ち目もない相手に向かっていくのは愚者のすることだ。


 けど、俺はそう罵られても構わない気持ちだ。


 このまま、逃げ帰り、ここで起きたことを胸の奥にしまいこんで、生きていくよりも、魚面の怪物と戦うことを俺は選んだ。


 まぁ、先輩が見たら”また、未熟な君が無茶をして”と笑われてしまうかもしれない。


 けど、それでも、俺は……、俺は!!


 「このぉぉぉぉ!!!」


 力いっぱい振りかぶって怪物の鳩尾あたりを思いっきりぶん殴る。


 ドンと鈍い音ともに自分の右手に強烈な痛みが走る。


 「ぐぁぁぁっ!!」


 手を見ると、まるでカッター刃のような怪物の細く鋭い鱗がいくつも指や甲に突き刺さりそこから真っ赤な鮮血が流れる。


 当の怪物は、蚊にでも刺されたような感じだ。


 こんなの相手に、三森さんは素手で拳や蹴りを繰り出していたのか。


 そう思うと、彼女の格闘技の練度どれほど高いかが分かる。


 「くそ!! このっ!!」


 負傷した右手の代わりに、今度は左手を振りかぶる。


 左手を振り下ろそうとする瞬間、顔面の右側から鈍い衝撃を感じる。


 「っ!」


 目の前にいる怪物が右から左へスライドする景色が見え、錐揉みするように1mほど飛び、地面に叩きつけられる。


 最初は何が起こったか理解することができなかった。


 頭に受けた衝撃のせいだろう、目に映る世界がグラングランに揺れ、ところどころかすんで見える。


 「がぁ……くぅ……」


 幸い、怪物は正面にいるようだが、体がまるで言うことを聞かない。


 霞が取れ、視覚の揺れが収まった時、自分がどんなことをされたのかが理解できた。


 怪物の棍棒のような腕で、そうまるで、ハエでも叩き落とすごとしに叩かれたのだ。


 止めを刺さんとばかりにこちらに一歩一歩近づいてくる怪物。


 俺と言えば、右手はボロボロ、体もまだ受けた衝撃のダメージが抜けず動けない。

 

 (ここまでか……)


 その時、上着の右ポケットから何かが落ちる。


 目をやると、それはいつもアークライトで、魔術練習ように使っていたカード。


 (左手は何とか動くな……)


  ゆっくりと、カードを拾い上げ俯いてそれを見る。


 (結局、一度も魔術を使えず仕舞いだったな……くそ……)


 悔しさからか、無意識に傷ついた右手で、雨で柔らかくなった泥を掴む。


 (武器さえ……銃さえあれば……こんな奴なんか!!)


 足音が止み、顔を上げると、すぐ目の前に怪物が立っている。


 そして、太い右腕が大きく振り上げられる。


 (こんなところで死にたくない!! こんな……こんなところで!!)


 瞬間、突如、右手がカメラのフラッシュのように一瞬光ったと、同時にいつも使い慣れている感触が、自らの右手にあった。


 (え……)


 右手には、守護者ガーディアンではないが、それはまさに泥でできたリボルバーだった。


 「っ!!!」


 俺は、怪物に向かって、引き金を引いた。


 一発の乾いた音が周辺に響き渡る。


 「ぐぁ!」


 銃を手にした右手は、射撃の反動に耐えられず、鱗の刺さった指から血が噴き出ている。


 怪物の方に目を見ると、胸にボーリング玉サイズの穴が開いている。


 魚面は今起きたことが理解できていないのか、その場に呆然と立ち尽くしていたが、自分に起きた出来事を理解すると一歩また一歩と、後ろへ下がっていく。


 吊り橋のところまで下がると、ボロボロになっていたロープに寄りかかるが、ロープは怪物の重さに耐えきれず、ブチリと切れてしまった。


 それが原因だったのか、吊り橋は、魚面の怪物とともに、激流の中へ消えてってしまった。


 「はぁぁ……」


 危険を回避できて気が抜けてしまったためか、怪物に向けて構え続けていた右手を力なく地面に落とす。


 「この銃は一体……」


 銃を見ると、鉄で出来ているような感じではないし、かといってプラスチックでもない。


 銃口マズルから引きトリガー銃把グリップに至るまで、すべてが砂のように茶色のカラーリング。


 「これ……俺が……作った……のか?」


 分からなかった、どうして、こんなことができたのか。


 困惑する俺を余所に、拳銃リボルバーは役目を終えたのか、サラサラと粉末状に溶けてしまい、ただの砂になってしまった。


 「……移動しないと」


 現在、唯一の脱出ルートであった、吊り橋が落ちてしまった、今、ここにとどまっているのは危険と本能的に感じ、移動しようと体を動かす。


 怪物から受けたダメージが少し抜けてきたおかげか、ボロボロだけど、何とか立てる後は……。


 「戻るしか……ないのか……」


 月明かりに照らされ、周りを見渡すが、来た道以外に道という道がない。


 俺は、傷む体を引きづり、小屋のあった場所まで移動し始めた。

 





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