大丈夫また会えるから
魔術…………。
そんなもの、俺だってこの2.3ヶ月前までゲームや小説の中の物だと思っていた。
けど、今は、先輩達や、襲ってきた異形の者たちを見てる。
なら、必然と答えは決まっている。
「ええ、信じてます」
「あら意外ね、この手の話は大体が、ゲームやアニメ、小説の読みすぎた奴の戯言と言われるのだけれど、てっきり、君もその手の一人かと思っていたわ」
たしかに、普通の日常生活を送っているただの学生なら、馬鹿な話だと思われるだろうけど、残念ならが、ここ最近の摩訶不思議な事件なおかげで、そういうものがあるというのを認識せざる負えないのが、
今の俺の現状だ。
「俺の周りにも”それ”を使う人がいるので……」
「へ~、まだ、使える人が日本にも居たんだね……。 なら、話をしても大丈夫そうね」
彼女は、一呼吸おいてゆっくりと語り始める。
「今から10年ほど前に高校生時代にあることで、民族学や魔術に興味を持った私は、研究の盛んな米国のある大学に留学をしたの、その時、民俗学の権威の”ウィリアム・スコット”教授という方と出会ったんだ。私は教授の授業を聞き感銘を受け、すぐに彼の元で教えを受けていたんだ。 私が、向こうの大学を卒業すると同時に、助教授としてウィリアム教授の下で働き始めたんだ。 あの頃は、さまざまな文化や宗教を研究したり、格闘技を習ったり、楽しかったな……」
この話を三森さんは、とても懐かく、そして楽しそうに話をしていたが、次の言葉で彼女の表情が一変した。
「そんな、ある時に、風土病の調査をするのに、マサチューセッツ州のある漁村に行った時、顔が魚やカエルのような顔の男達にであったんだ 彼らはとても閉鎖的で非協力的だったが、私たちは何とかコミュニケーションを取ろうと努めたんだ。けど……」
彼女の表情が一気に暗くなる。
「一緒に来ていたメンバーの一人に教授の娘さんがいたんだけど、突然、行方が分からなくなったんだ」
「え……この話って……」
「そう、民宿で話をした時の内容と一緒よ」
「警察を呼びに行った助手も、他のメンバーも1人、また1人と姿を消していって、最後には私と教授しか残っていなかったわ 自身の身の危険を感じた私と教授は、深夜に港町を出ることにしたの そこに行くのは車で来たのだけれど、それは警察を呼びに行った助手が使ってしまっていて、真っ暗な田舎道を徒歩で電車のある町まで行くことになったんだけれど、道の途中、私たちが乗ってきた車が放置されているのを見つけたのよ、そこで、手分けして助手を探すことにしたの、私が車を、教授が周囲を探すことにしたの、もちろん、車の中やトランクなどを調べたけど、助手の痕跡は見つからなかった その時、教授が自分の娘さんを見つけたと私を呼びに来たの、教授と一緒に娘さんの元へ行ったけど、ブツブツ何かを呟くだけで、まるで、廃人の様だった、その後、娘さんは入院、教授は、何かに取りつかれた様に研究室に閉じこもってしまったわ」
三森さんの話を聞いていると、数十年前にここで起きた事件と類似してるというよりも、まるでその再現だ。
「それから3ヶ月ほどたって、教授の研究室に、娘さんが入院している病院から連絡があって、彼女が、赤ん坊を身ごもっていることが分かったの、そのことを教授に伝えようしたのだけれど、彼は研究室から出てくることはなかった、出産時期になって、引きこもってる教授の代わりに、私が出産に立ち会ったのだけれど、彼女から出てきた赤ん坊は全身が鱗で覆われ、生まれたばかりだというのに目は大きく見開いていた、私はとてもその赤ん坊を見ていられなかったよ、分娩室から出るとき娘さんは言ったんだ、”あなたもダゴン様のご加護がありますように”と……」
「赤ん坊は残念なことに、生まれつき何かの病気を持っていたのか、出産後、すぐに亡くなった、それが原因なのか娘さんも、その後を追うように、ドアにシーツを括り付けて、首を吊って自殺してしまった 彼女の葬儀にも、教授が顔を出すことはなかった、そして、教授の娘さんんの葬儀から2年後の秋頃、研究室から、今度は教授が姿を消した 彼の残されたメモから、日本に出国したのが分かって後を追って日本の大学に入ったの」
一通り話を終えると、彼女は話しつかれたのか、大きくため息をついた。
「けれど、今のところ、手掛かりと言えば、教授がここ、”陰巣枡”に来ていたということぐらい、彼の手掛かりを探そうと、民宿はあそこ一軒だけだから事務所を探してみたけど、何も見つからなかった」
「もしかして……」
俺は、自分のポケットに突っ込んでた、写真を彼女に手渡す。
「これをどこで?」
「三森さんが机の上に置いてあった本の背表紙の間から出てきました、たぶんですけど、その写真に写っているのがウィリアム教授ですか?」
彼女は、写真をライトで照らして確認した、そして、涙んだ。
「……見つけた……やはり…やっぱり教授はここにいたんだ……」
俺は、渡せてよかったと心の中で感じた、ウィリアム教授が三森さんにとってどんなに大切な人か、彼女の表情や態度で見て取れる、三森さんんが写真の裏を見たとき表情が変わる。
「この日付、私たちが調査に行く6年前の……だから、教授はここに……」
「ところで、不躾な質問なんですけど、三森さんが、高校時代に魔術に興味があったことって」
「それは――」
三森さんは言いかけた途端、表情が鋭くなり、小屋の扉の方角を威嚇するように睨み付ける。
「どうし――」
「シッ! 静かに!」
彼女は俺を黙らせ、そっと、扉を少し開け外の様子を伺う。
「まずいな……」
「何があったんですか?」
俺も屈んでドアの隙間を覗く、暗闇の林道の向こうから幾つものライトの光が見える。
「ここにいたのでは、見つかってしまうのは時間の問題ね……」
彼女は小屋の中をライトで照らしていると、何か思いついたのか、トタンの壁をはがし始め人が一人通れるくらいのスペースを作った。
「望月君」
俺は彼女に呼ばれ、三森さんの元へ行く。
「いい、よく聞いて、このまま道なりに進むと、川がある、そこに木と縄でできた吊り橋が掛かっているの、その橋を渡って、林道を抜ければすぐに国道に出るからそうした――」
「一体何を言っているんです、三森さんあなたはどうするんですか?」
彼女は、俺の肩を掴み真剣な眼差しで俺の顔を見てこう言った。
「私が、囮になって奴らを引き付けるから、君はその間にここから逃げて」
「けれど、あの人数ですよ、逃げ切れないですよ!」
俺が、再びドアの隙間から外を覗くとライトの大群はもう目と鼻の先まで来ている。
心配する俺を尻目に彼女は笑顔でこう答えた。
「大丈夫、私、これでも教授にいろいろ鍛えてもらっているから心配しないで」
俺を気遣ってことだろうけど、いくら彼女が強くても先輩のように魔術が使えるわけではない上に多勢に無勢だ。
「ですが……」
「ルートは今言ったところよ。 君ならやり遂げられるよ。 ここまで
ちゃんと来れたじゃない」
彼女は、微笑みながら俺の頭を撫でる。
「……大丈夫また会えるから……」
「あ……三も―――」
三森さんはそう言い残すと目にも留まらぬ速さで、先ほど作った隙間から外へと飛出し、奴らを誘導するためか大声を上げているのが聞こえる。
俺は彼女を引き止めることも出来ずにただその光景をドアの隙間から見るしか出来なかった。
「おーーい!!! こっちだ!!!!」
その声に釣られるようにライト群が一斉に方向を変え移動していった。
三森さんの声も暗闇の奥へとライトの光ととも消えていった。
「三森さん……」
一人になってしまった俺は、彼女の言うとおりに小屋を出て吊り橋のあるという方向へ歩き始めた。