私の名前は『須藤恵美』だ
今回はRPGのお使いイベントだと思えばいいわけだし、イベント報酬は3年間ゲーム時間が取れることだな。
俺は4階の自分の教室から2階の渡り廊下に向かう階段を下りている最中そんなことを考えていた。
そういている内に、学生の教室のあるB棟から文化系の部室とか音楽室やらがあるA棟を繋ぐ渡り廊下にたどり着いた。
「さてと…………」
委員長から手渡された地図を見ると、写真部の部室はA棟2階の1番奥の部屋のようだ。
さっさと用事を済ませよう。
俺はさっさと渡り廊下を通り抜ける。
B棟の入り口から中を見ると、昼間だというのに廊下全体はかなり薄暗い様子だ。
「こんな昼間からお化けが出るとかないだろう」
なんてことをつぶやき写真部のある奥の部屋と進む。
「…………ここか」
上の部屋の名前を示す札を見ると、そこは化学準備室になっている。
どうやら化学準備室を写真部部室として借りているようだ。
「とりあえず、ノックしてみるか」
トントンとノック音がA棟の廊下に響き渡る。
「どうぞー空いてるよー!」
女生徒の声が化学準備室の中から聞こえてくる。
どうやら女部長とういうのは本当のようだ。
「失礼します」
そう返事をすると、俺はドアを開けて化学準備室いや写真部部室の中へと入っていった。
「おや?新入生かな?」
部屋の中に入ると、右側に戸棚とドア、左にはテレビと冷蔵庫、中央には大きな木のテーブルに椅子4つ、奥に写真の現像に使うのであろう蛇口と洗面台が付いている。
洗面台の横に小さなコーヒーメーカーが置いてありコボコボと音を立てていて、コーヒーの匂いが充満している
俺が部屋の中を見渡していると右側のドアが開かれる。
「ああ、すまないね、丁度現像をしていたところなんだ」
スラッとした黒の長髪に青いカチューシャをつけたスレンダーな女生徒が出てきた。
俺は彼女が胸につけている制服のリボンを確認する。
赤どうやら俺より1学年上の2年生だ。
ちなみにうちの学校は1年生の俺は緑、3年生は青と色分けされている。
男子生徒はネクタイ、女生徒はリボンの違いぐらいだろうか。
「それで?うちの部になんの御用かな?」
「はい、実はここに入部したくて……」
「入部? 幽霊部員希望者の間違いじゃなくてかい?」
どうやら、俺の考えはこの女部長に見透かされているらしい。
「正直に言うとそうです。 うちのクラス委員長に進められて」
「ふふふ。 うちの学校の規則のことだろう?」
「はい」
「それで? うちの部室まで入部届けを取りに来たと?」
「そうです」
「そうか、そうか」
彼女は部室の戸棚からコーヒーカップを取り出す。
「君も飲むかね?」
「いえ、すぐに帰りますので」
「そうか、入れたてなのだが」
少し残念そうな顔してコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぐ。
彼女の入れたコーヒーのニオイが部室に充満する。
コーヒーを入れた女部長は中央の椅子に移動し腰を下ろす。
「ん~、やはり、入れたてのコーヒーは、匂いがいいな」
早く入部届けを貰いさっさと帰りたいと考えている俺を他所に彼女はカップに入ったコーヒーの匂いを楽しんでいる
「あの!!入部届けを貰いたんですけど!!」
「ああ。それなら…………」
女部長はコーヒーを啜りながらテレビの方を指差す。
指し示した方へ行くとテレビの上にA4サイズくらいの箱が置かれている。
箱の蓋を開けてみるが中身は空だ。
「何も入ってませんよ」
箱の中を確認した俺は彼女に問いかける。
「ん~ということは今日の分は無くなってしまったな。君が来る少し前に誰かが入ってきたのは知っていたんだが、どうやらその人物が最後の1枚を持っていってしまったようだね」
「そんな……予備とはないんですか?」
「ないな。なんせ、いちいち戸棚から取り出すのが面倒なんでそんな箱の上に置いてあるのだから」
「ないのならどこに行けば貰えるんですか?」
「ん~……それなら生徒会室に行けばあるはずなんだが…………」
彼女は物凄く渋い表情を見せる。
「何かあるんですか?」
「正直。行くのがめんどくさい。そして、持ってくるのがだるい」
「…………」
その後、何とかしてこの女部長を生徒会室へ連れて行こうするが俺の説得をのらりくらりとした会話でかわされまったく動こうとしない。
このままでは埒があかないと感じた俺はここは諦めて生徒会室へ行こうと考えた。
「はぁ………ならここにいても仕方がないので俺は生徒会室へ行きます」
さっさと会話を切り上げ、部室を出ようとドアの方へ向かう。
「あ、ちょっと待ちたまえ」
そんな時、女部長から声を掛けられ立ち止まる。
「なんです?もう入部届けを取ってきてくださいとは言いませんよ」
「いや…………恐らくだが生徒会室には誰もいないと思うよ」
「え?」
「まだ時間的には生徒会議をしているんじゃないかな」
そういえば、教室で委員長がそんなことを言っていたことを思い出した
「はぁ……どうすればいいんですか!?」
目標を達成できずイラつきのフラストレーションが最高峰となった俺は声を張り上げるが
「やれやれ。短気なのはいけないな」
そんなことを他所に、涼しい顔して彼女はコーヒーを啜る
「はぁ…………」
そんなことを言われ半ば諦めのため息を俺は吐く。
「ふふふ……」
「なんか、楽しそうですね………」
「いやいや、すまない。なら日を改めて月曜日にまた来てもらえるかな」
「………やっぱり今じゃダメなんですね」
「ふふふ、さっきも言ったが、今は生徒会議中で生徒会室は開いていないからね」
「できればもっと早く言って欲しかったですよ」
「ふふふ。スマン」
そうして彼女はコーヒーメーカーからまたコーヒーを注ぐ。
「分かりましたでは月曜日に出直しますよ」
俺は再びドアの方を向いてドアノブに手をかける。
「ああ、そういえば」
「まだ何かあるんですか?」
「名前を聞いていなかった」
確かに俺もこの部屋に入ったときにこちらも名前を相手に名乗っていない。
「1年1組の『望月秀一』です」
「私の名前は『須藤恵美』だ。学年は----」
「2年生でしょ。リボンを見れば分かりますよ。それじゃ」
「ああ、そうだな。また月曜日に………」
そして俺は部室を後にする。
週明け・・・・
月曜日。
この日がやってくるとブルーな気持ちになるのは、おそらくブラック的な会社で働いているサラリーマンだけではないはずだ。
学生である自分も月曜日がやってくることにモチベーションがガクッと下がる。
その理由はいうまでもない。
現在進行形でプレイしているRPGのレベル上げという大仕事が学業という学生の仕事によって阻害されているからだ。
学生は学業が本文なのは世間一般のことだし俺がおかしなことを言っているのはあるのだけれど。
俺はさっさと学校への身支度を済ませ、朝食の準備がしてあるリビングへ向かう。
「おはようっていっても誰もいないか」
そう、いつも朝食は1人だ。
両親は共働き。
親父は年中出張だしお袋は今日も朝早くからパートに出かけている。
けれど、朝食の準備はしていてもらえるからその点はありがたい。
テーブルの上に用意してあるトーストと目玉焼きを食べながらリビングに置いてあるテレビをリモコンで点ける。
『本日の天気は全国的に晴れ、関東地方の――――』
テレビをつけると、いつものお天気お姉さんが今日の天気予報を伝えている。
何気なしに朝食のトーストを齧りながらテレビを見ていると。
『次のニュースです。昨日の朝、T県西金市のアパートで女性が死亡されているのが発見されました』
「西金市って学校のある町じゃないか」
『なお、女性は首を絞められ、腹部を鋭利な刃物で裂かれており…………』
「うわ~怖いね~」
そして、ふとリビングある時計を見ると、そろそろ食器を片付けて家を出ないと登校時間に間に合わないことに気づいた。
「さてと」
リモコンで見ていたテレビを消し食器を片付けて玄関へ向かう。
「今日こそは入部届けをあの女部長から貰ってこないと」
そう呟き俺は学校へ出かけた。