ただ一言だけしゃべったそうだ、”ダゴン”と…
部屋を出たときに、俺は304号室で寝ている藤波のことを思い出した。
「あ、すみません、ちょっと友達も呼んでくるので先に行っててもらえますか?」
「分かりました~」
「では、私たちは先に行ってわね」
「早く来ないと全部食べちゃうかもよ」
3人は食堂へと向かっていき、俺もリタの部屋の扉の前に着く。
「さて……藤波ー!! 夕飯の準備が出来たって!!」
扉をノックをし声を掛けるが返事が無い。
「ん~やっぱり寝ちゃってるのかな?」
部屋に入るときにもう寝るとは行っていたけど、そんなに空腹を感じないほど歩き回って疲れてるのか?
「あんまり、呼びかけて起こすのもなんだし、俺も食堂へ行くか」
藤波を起こすのを諦めた俺は、3階から1階のロビーへと向かい、奥にある食堂へと向かう。
食堂に着くと、すでに料理がテーブルの上に並んでて、先に行った三森さん、伊藤さん、武藤さん達は、俺を待っていたのか、律儀にも待っていてくれた。
それを見た俺は、イソイソとテーブルに着く。
「友達は起きたの?」
「いえ、すっかり熟睡してるみたいで、声を掛けても出ませんでした、すみません、俺達が来るのを待っていてもらって」
「いやいや、気にしないで」
「みんなで食べた方がおいしいしからね~」
「そうだよ、んじゃ1人足らないけど食べようよ」
全員で頂きますの号令をし、夕食を食べ始める。
俺にとっては、昼間も食べそびれてしまったので今日は久方の食事だ。
メニューは、白米に味噌汁、から揚げに焼き魚だ。
食事をしながら、俺はみんなと他愛の無い話をしながら食事をしていると、三森さんが俺に話しかける。
「そういえば、望月君、君はどうしてここに着たの? 見た感じ観光って感じないけど?」
「俺は、ここにはお使いというか、知り合いに届け物を頼まれて」
まぁ、頼まれて言うよりもどちらかといえば、責任を取らされてというのか?
いや、原因的には先輩が作っているので、責任を押し付けられたというのが正しいかもしれない。
「届け物?」
「ええ、ここのオーナーの摩周さんに中身は分かりませんが、このくらいの大きさの風呂敷に包まれた奴でしたね」
俺は三森さんに、手で持ってきた荷物の大きさをジェスチャーするが、そんなことよりも俺はやはりさっきの話が気になっていた。
「三森さん さっきの話なんですけど、やっぱり気になるんですよ、あの時に陰巣枡は無かったって言ってましたよね、あれって一体、どういったことなんですか?」
俺の質問に、武藤さんと伊藤さんも気になっていたのか、俺の後に続いた。
「そうですよ~教授~」
「部屋に戻るよりも今ここで話してくださいよ」
三森さんは、味噌汁を啜ると、少しトーンを下げて話始める。
「あのノートに描かれた日付は20年前だったね、その頃、ここは、日巣枡村と言う名前だったのよ、当時のうちの大学教授が、その日巣枡村で見妙な皮膚病が蔓延しているという情報を聞いてね、ここへ調査にきたんだ」
「奇妙な皮膚病ですか?」
「そう、何でも、肌は鱗のようにガサガサになり、髪の毛などの体毛が抜け落ちてしまうという奇病だったという話だったみたいだよ、話を聞いた教授も、当初は魚鱗癬ではないかと思っていたらしいんだよ、そこで教授、助手、当時の研究生3人の5人のチームを結成して、調査期間は1週間ほどの日程を組んで、この日巣枡村へやってきたんだ 村に到着をした5人は、肌が魚のような鱗状になってしまっているもの、顔の皮膚が引きつりまるで魚眼のようになっているもの、数は少ないがまるで映画から飛び出してきたような魚人のような姿になってしまった村人を見て驚愕したと、武藤さんが持ってきたノートとは別に教授の日記に書かれていたよ」
その話を聞き、俺は昼間に道を尋ねた村人を思い出す。
たしか、その人も話で聞いたような症状をしていた。
「チームは、何人かの村人に原因究明のために協力を申し出たんだが、誰の協力を得られなかったらしい、あのノートに書かれたスケッチは、当時の症状が進んでしまった村人を教授の助手が描いたものらしいわ」
「他に日誌があったんですか~それも持って来ればよかった~」
「ちょっと、沙希!! あんた何言ってるよ!! ノートだけじゃなくそんなものまで持ち出したのがバレたら、私たち大学に居られなくなるよ!!」
「え~だって~」
大学から無断でノートを持ち出した武藤さんが今度はその日記まで持ってこうとしたという発言に、伊藤さんが彼女を叱り付けている、俺がそこの光景を呆然と見ていると、三森さんが軽く咳払いをし、2人を黙らせる。
「まぁ、その件は大学に帰ってからゆっくりと聞かせてもらうわね」
「うう~」
「ハァ……最悪……」
三森さんはニヤニヤしながら2人に話し、この後、彼女らには何かしらのペナルティーでもあるのだろう2人ともショボくれるが、伊藤さんと武藤さんには悪いが、俺はご愁傷様としか思い浮かぶ言葉がなかった。
三森さんは続きをさっきの話の続きを語り始める。
「えっとね、さっきの話の続きだけど、村人の協力を得られなかった調査チームは、日巣枡村の生活や風習などを調べ始めるだけど、調査をしていて3日目の夜に、教授が居なくなってしまった、残った助手たちは辺りを捜索したけどどこにも見つからなかった、そこで4日目の朝、村人に教授をみたものが居ないか尋ねたらしいんだけど、誰も知らない、見てないと答えみたい、そして
5日目に1人、6日目にまた1人と居なくなってしまった」
俺はこの話にちょっとした疑問が浮かび上がった。
「ならなんで、教授が居なくなったときに、警察とかに連絡しなかったんです? 幾ら20年前とはいえ、誰も携帯電話を持っていないって事は無いでしょう?」
「それなんだけど、当時、まぁ今もそうだけど、ここには携帯の電波塔が立っていないんだ」
「え! そうなんですか!」
「そうだよ~」
「私たちの電話も全然ダメ」
どうやらその情報を知らなかったのは俺だけようだ。
「けど、固定電話ならどの家にもあるはずですよね?」
「それもなんだけど、助手たちが電話を借りようにもどこの家も中から出てこなかったり、家に入れるのを拒んだらしい、そこで、残った助手の1人が、5日目の朝にバスに乗って夜刀浦市に向かったが、その助手は戻ってこなかった、予定日になっても調査チームが戻ってこないことを心配した大学側が警察に連絡をすると、最後に残った研究生も、夜刀浦市を徘徊しているのが見つかったんだ、髪の毛は真っ白に変色し、目はうつろでまるで魂でも抜かれたような姿でね、その時持っていたのが、さっきのノートと日誌を持ってね、保護された研究生に教授や助手、他の研究生がどこに言ったのかを聞いても、ガタガタ震えながら、ただ一言だけしゃべったそうだ、”ダゴン”と……」
ダゴンその言葉には、俺も聞き覚えがある、そうバスを降りたときに一緒に乗っていた老人が呟いていたのを思い出す。
三森さんは話を続けた。
「数日後、保護されて見舞いに研究生が入院している病院に同じ研究生仲間が見舞いに言ったそうだけど、病室に研究生の姿は無く、びっしょりに濡れたベットがそこにはあったいう 調査チームの最後の1人まで消えてしまった そして、時間が過ぎ、事件は時効を迎え、村で何があったのか、調査チームはどこへ消えてしまったのか、真相は分からず仕舞いよ」
「なんか、怖いですね」
「私、ホラーとか苦手なんです~」
「わ、私も……」
話だけ聞けば、まるで何処かの本やネットの掲示板とかで書かれていそうな怪談のような話だったが、トイレでの出来事を思い出すと、とてもそんなものじゃないように俺は思える。
「ふふ、ちょっと恐かったかな? ちょっと長く話しすぎたかな」
三森さんが食堂についている壁掛け時計を見ると、時間は夜の9時を回ったところだった。
「それじゃ~そろそろ部屋に戻りましょう~」
「そうだね」
俺たちは食べた食器を返却棚に置き、おのおの自室へと戻っていった。
深夜、部屋に戻り布団に入った俺は床に就いたが、突然、部屋の入り口の方からドアをノックする音が聞こえる。
「誰だろう……こんな時間に……」
携帯で時間を確認すると、深夜0時を回ったところだった。
少し面倒には感じたが、寝ぼけた目を擦りながら俺は、部屋のドアの方へと向かう。
「はい~今、開けますよ~」
俺が、ドアに向かう途中もずっと誰かが扉を叩き続けている。
「一体だ誰だよ……」
まさか、早く寝た藤波がトイレに行くのが怖いから付いて来てくれなどとそんなかわいいハプニングでもあるのかと、思いつつ鍵を解き、扉を開けた。
「はい、どなた……」
ドアと開けた先には、トレイで見た、魚の顔をした怪物がそこには立っていた。
「っ!!」
俺は慌てて扉を閉めて、鍵を掛けるて扉にもたれ掛る。
「や、やっぱり見間違えじゃなかったんだ!!」
そう思った次の瞬間。
「キャァァァァ――!!」
隣の306号室から伊藤さんのものだと思われる叫び声がする。
「くっ!!」
俺は急いで持ってきたワンショルダーのリュックから、銃のカードを取り出すが、本来の形に再構築しない。
「え!! ちょ、なんで!!」
手に持ったカードをよく見ると、それはいつも俺が魔術の訓練のときに使っているカード、間抜けな話、持ってくるカードを間違えてしまった。
その間にもドアを叩く音がドンドン大きくなる、まるでもうノックではなく、扉を殴っているような音に変わっている。
「どうする……どうする……」
いつもなら、愛銃があるが、今手元にあるのは、なんの役に立たない魔術式が書かれた訓練用のカードのみ、俺が打開策を模索していると、扉の方からミシミシという音が聞こえ始める、ドアが破られるのも時間の問題だ。
「くそ!! どうする!! どうする!!」




