だめだ、考えがまとまらない
バスの出発時刻に間に合った俺だったが、停留所に到着すると、バスはすでに無く、どういうことなのかを聞くため停留所内にある事務所に入ると、そこには金髪碧眼の少女、藤波リタがいた。
「望月なんであんたここに居るねん!!」
「俺は――」
俺が藤波の質問に答えようとするが、彼女は何かを思い出したかのように俺を無視して、事務所内にいる中年男性の職員に食ってかかる。
「あ!! そんなとこは後や!! なぁ、おっちゃん、バスはもう出てしまったどうことやねん!!!」
藤波の室内に付けられているカウンターを乗り越える勢いで、職員を怒鳴りつけるが、彼はそれをまるで聞いてないような態度を示す。
「そんなこと言われてもね、出てしまったものは出てしまったんですから」
「だ・か・ら!! 時間にもなってないのにバスが発車するっておかしいやろ!!」
そんな藤波の怒りも職員には馬の念仏のようだ。
「んなとこいってもね、出ちゃったものは出ちゃったの、悪いけど今日はもう看板だから」
男性は、カウンターからこちらに出てきて俺たちを出口へと追いやる。
「あ!! ちょっとまだ話は終わっとらんで!!」
「え?? な!?」
俺と藤波は、職員に強引に外へと放り出された。
「わっと!!」
「ちょっと!!」
「次の発車は朝の8時だから」
それだけ言うと、事務所の扉は閉められる。
俺は、ただ流されるままになっていたが、藤波は職員のその態度が相当頭にきたのか、ドアをドンドン叩く。
「ちょっと!! うちらはお客やで!! お客に対してその態度はなんなん!!! ねぇ!! ちょっと!!!」
藤波の必死の講義も虚しく、事務所からは一切の返事はなかった。
「なんやねん!!! もうぉ!!」
ガツンとドアを藤波が八つ当たりにドアを蹴る、そうして気が済んだのか、それとも諦めたのか、呆然と見ていた俺に話しかけてくる。
「まったく災難や、これからどうするねん望月……ってなんでこんなところに望月が居るんや!!」
怒りが収まったのか、さっきの質問をもう一度繰り返してくる藤波に、俺はなんだか呆れた気持ちになる。
「はぁ……」
「なんやねん、そのため息」
さっきまで、年上の女の人と楽しい会話をしていたのに、今度は、いつも何かのトラブルに巻き込まれている金髪ロリがここにいるのだから、ため息ぐらい出る。
「藤波、とりあえず移動しないか? 一様俺に宛てがあるから」
「ふ~ん、そか、なら道中でどういうことか話を聞こか」
そして、停留所を出た俺は歩きながら、藤波にここに来た経緯を説明した。
「はぁー、それじゃそのアークライトちゅう所のお使いでここまで来たんやな?」
「まぁね、その人にもお世話になっているし」
俺の説明を手を組んで頭に当てて聞いていた藤波だったが、俺にも彼女に質問がある。
「それじゃ、藤波はどうしてこんなところにいるんだ?」
「うちか? うちは適当な日帰り旅行や」
藤波の話だと、あまり有名でない村や集落などを旅行するのが趣味らしく、今回は俺より早くここに来ていたらしい。
「それで望月? うちらはどこへむかっとんのや?」
「ああ、あそこだよ」
停留所から集落を抜け浜辺に出た、そこから見える崖の上の立っている建物、東風荘を俺は指差し、藤波に示す。
「なんや? あそこ?」
「東風荘、民宿だよ、まぁ、俺のお届け先でもあったんだけどね」
藤波は「ふーん」と返すと、少し不安そうな顔をして俺の方を見る。
「けど、大丈夫なん? うち、そんなに銭持ってきてヘんで?」
俺も届け物をしたらすぐ帰るつもりだったので、あまり財布には金銭は入れてはなかったが、こんな、見ず知らずの所で野宿するよりかは、どうにか頼み込んで寝られるスペースを確保したい、正直賭けだ。
「まぁ、なんとかするさ」
俺達は、民宿”東風荘”へと夕方で薄暗くなっていく道を走って移動する。
東風荘につき、民宿オーナーである摩周さんに、停留所でのことを説明すると、なんと、あっさりと泊めてくれることになった、しかもタダで、そして、俺達は部屋と案内される道中、俺は摩周さんに声を掛ける。
「すみません、無茶なお願いを聞いていただいて」
「いやいや、構いませんよ、今日はさっきの大学生達の他に1人しか宿泊していませんから部屋は余ってますし、それに、未成年を外で野宿させるわけにもいかないですからね」
なんだろう、初めて常識人な大人の人に会った気がする、そんな感動を覚えていると、俺達が借りる部屋に到着をし、摩周さんが鍵を渡す。
「望月君は305号室、藤波さんは304号室を使ってください」
「わかりました」
「あんがとな、おっちゃん!!」
藤波は、相変わらずの無礼な態度でお礼を言う。
「ちょっと、藤波! せっかくご好意で泊めてもらえるのに――」
「ははは、構いませんよ」
摩周さんは部屋に案内し終えると、風呂場とトイレ、食堂の場所を簡単に説明し、ロビーへと戻っていた。
部屋の扉の前には俺たち2人が残される。
「それじゃ、うちは疲れたしもう寝るわ、望月はどうするの? もう寝るん?」
「いや、今日は結構動いたし、風呂に入ってからにするよ」
「そぉか、ほんじゃの」
そう言うと藤波は自分の部屋へと入っていた。
俺も、自分の部屋に荷物を置き、室内にあった、バスタオルと浴衣を持って風呂場へと向かう。
浴場の更衣室に着き、着替えをかごに入れて、浴場へと入る。
「へぇ~結構いいかんじなところだな」
浴場は、露天風呂になっていて、竹で出来た目隠しで囲まれ、まるで温泉のような作りで浴槽に1mくらいの岩が設置されてる、6月だというのに外の気温が低いためか浴槽から湯気が立ちあがりまるで霧のように漂っている。
体をお湯で流し、浴槽へと入る。
「ふぃぃ~~」
体から、今日の疲れが一気に流れ出す、上を見ると、きれいな夜空が広がいる。
無愛想な住民、自分勝手な運転手、寂れた漁村に、人がいい民宿のオーナー、2人の大学生、藤波……。
「だめだ、考えがまとまらない……」
いいお湯加減も手伝ってか、俺の思考が鈍るが、ふと、家で待っている母親のことを思い出す。
「はぁ……あとで、家に電話しないとな……」
トラブルだったとはいえ、無断外泊、おそらく家にいる母親は心配しているはずだ。
けど、丁度いいお湯加減もあってか、そんな考えは後回しになる。
「まぁ、風呂から出たら電話すればいいか」
「おや? 誰か入ってきたのかしら?」
「え!?」
突如、女性の声がし、俺は周りを見ると、湯気のせいでよく見えないが岩の陰から誰かがこちらに近づいてくる。
その人物が俺との距離が近づき、正体が見えてくる。
黒髪を後ろにまとめ、年齢は淳子さんと同じ年くらいだろうか、とてもグラマーな裸体の女性が俺の目の前に現れた。
「あああ!! す、す、すみません!! ここ、女風呂でしたか!!」
俺は慌てて女性を見ないように後ろを向き、入ってくるまでの経緯を思い出す。
「えっと、たしか、入り口は1つだけだったし、何か注意書きでもあったかな、いやけど……」
俺がブツブツと呟いていると、女性から俺に話しかけた。
「ふふふ、そんなに、驚かなくても、ここはもともと混浴のだよ、オーナーの人から説明されなかったかい?」
「そ、そんなこと、言ってませんでしたよ!!」
「ふふふ、そうなの」
まるで、先輩と話をしているような感じを覚える。
「本来は、水着を着て入るのがルールみたいだったけど、誰もいなかったし、つい私もそのままで入ってしまったのよ」
「いや、けど、その」
初めて見る女性の裸に俺は動揺して声にならない、そして、逃げ出したい、ここから今すぐ。
「す、すみませんでした――!!」
俺は、タオルで前を隠し、一目散に浴槽から更衣室まで逃げ出す。
「はぁはぁはぁはぁ……や、ヤバかった」
更衣室で急いで浴衣に着替え、トイレの個室で息を切らす。
まさか女の人がしかも裸で入っているなんで誰が創造できただろうか、しかも、混浴なら混浴と部屋に案内しているときに言ってほしかった。
オーナーの説明の不備を愚痴り、一段落した俺は、個室から出て洗面台に向かう。
洗面台の鏡には、急いで着替えたせいか、ぐちゃぐちゃに着付けられた、浴衣姿の自分が写っている。
「はぁ……」
このままでは、見っとも無いと思いさっさと着なおし、きちんとした姿になる。
「これでよしと……」
そしてもう一度、鏡を見ると……。
鏡に写った自分の姿の後ろに、身長は2mくらいで肌の色は緑、そして大きな魚の顔した人型の化け物が写っていた。




