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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
魔剣士
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闇が来る

 


 泥人形使いの事件を解決することのできた翌日に俺と先輩は、骨董店”アークライト”へとその足を向かわせていた。


 結局の所だが剣士が姿を消した後、泥人形使いを魔術協会の人たちに託して周りも暗くなってきたと言うこともあって俺は自宅へ帰り、先輩は淳子さんに報告するためにアークライトに向かった。


 夜が明けて学校に行く前にガーディアンの弾薬が心もとなかったので淳子さんの居るアークライトで購入してしまおうと思い立ったのだ。


 学校が終わり放課後、偶然にも下駄箱で先輩を見つけて彼女に声を掛けてみたところ、彼女も昨日捕まえた泥人形遣いの様子を聞きにアークライトに行くと言うことだったので、一緒に向かっているのだ。


 ただ泥人形使いを捕まえた後に出てきて先輩に絡んできたあの剣士の事が、昨晩から頭から離れずにいる。


 剣士あいつは一体に何者だったのだろう?


 あの時、先輩は”そちら”と言う言葉を口にしていた。


 なら彼女は彼の正体について知っているのだろうか?


 俺は着い剣士のことを先輩に聞いていた。


「結局、あの剣士の正体はわからなかったですね。 一体何者なのだろう?」


「さぁ? ただ分かっていることは奴の腕は恐らくだが、私の居る限りA級クラスの探索者と同じくらいだろう。それに奴の持っていた刀なのだけど」


「あの氷の柱を飛ばしたり、地面から生やしたあれですか?」


 彼女は俺の隣で歩きながら少し考えて答えた。


「多分なのだけど、あの剣士が持っていた物は、もしかして魔剣かもしれないな」


「ま、魔剣ですか? あのゲームとか漫画とかに出てくる?」


「そうだ」


 彼女は即座に”そうだ”と答えた。


 俺にとって魔剣とは魔術と同じくゲームやファンタジー小説、漫画、アニメの類に登場している物で、まさか現実にそんな物があるとは思いもしなかった。


 いや思いもしなかったは語弊があるな。


 現実に先輩は魔術を使い、昨日の捕まえた男も泥から人形を作っていた。


 そこに魔剣があってもおかしくはないってことになる。


 いつから俺の居る場所はファンタジーの世界へ入り込んでしまったのだろうか……。


 それに魔剣を持っていた言うとこは、俺が知っているRPGなら主にラスボス級の魔王やら元帥やらが所持している。


 やれやれこの事を考えると頭が痛くなってきたぞ。


「それで先輩。 あの魔剣とやらは剣士アイツ魔術道具マジックアイテムってことになるんですか?」


「いやいや。 昨日の剣士が使っていた魔剣と言う者は、君が使っている魔術道具ガーディアンとはちょっと違うな」


 率直な俺の考えなのだが、魔術師…いや自分の魔術すらろくに使えない俺から見ると、使い手の熟練度の差があると思うが、剣士が持っているのは俺のガーディアンと同じに見えてしまう。


 (う~ん。 魔剣……か)


 俺が腕を組んで歩きながら考えいると、自分のその姿を見てだろう。 須藤先輩は俺に説明するように話し始めた。


「そうだな……。 分かりやすく言うと魔剣と言うのは、魔術道具マジックアイテムと違って誰にでも使えるわけじゃないだ。 剣が意思を持ち、剣が自分の使い手を選ぶんだ」


「剣が…使い手を選ぶ?」


「本来、魔術道具は魔術師の捕手的な役割が、主な使い道なのだけれど、現に望月君も今は魔術は使えないが、その代わりにガーディアンは使えているだろう?」


 確かに彼女の言うとおりだ。


 俺は魔術は使うことはできないが、カード状の魔術道具マジックアイテムガーディアンの形に戻したり、敵を撃ったりすることはできている。


「魔力が未熟な君や魔術師が、実際にある拳銃や剣のように誰でも使えるように調整しているのよ。けれど魔剣は違う。 使い手が剣と同等もしくはそれ以上の強靭な精神、魔力の持ち主でなければ、剣に精神を乗っ取られて自らの破滅する……が、もしも魔剣に認められ力を得ることができれば、その刃は決して欠けず、どんな強力な異能の者達や人間を寸断する鋭い切れ味を常に持ち続け、なおかつ剣に宿る魔の力を使うことができる。 まぁ昨日の氷柱がその力と言うところだろう」


 なるほど剣士が先輩に使った氷柱は奴の持っている刀の力と言うことか。

 そ彼女とそんな会話をしていると、道路の向こうに淳子さんの経営する骨董店”アークライト”が見えてきた。

 

「まぁ~とにかくだ。 あの剣士…いや魔剣士とはまたやり合うかもしれないな」


「……魔剣士…ですか。 俺は正直な所もう会いたくはないですよ」


「ふふふ。そうだな」


 先輩はいつもの笑いながら、アークライトのドアに手を掛けた時に俺はあの事について聞いてみた。


「そう言えば魔剣士と対峙した時に、先輩は”そちら”と言いましたよね? あれは相手が素性、もしくは所属している組織的な物を知っているんじゃないんですか?」


 俺の問いに先輩は少し硬い表情を見せてすぐにドアの方を向いてポツリと呟いた。


「その内…わかるさ」


「…えっ?」


 無言で彼女がアークライトのドアを開けると、カランカランと扉に備え付けられているベルがなり来客を告げる。


 店の中に入ると同時に先輩は店の奥に向かって大声で淳子さんの名前を叫んだ。


「淳子姉ー! いるー?」


 先輩が叫ぶと木製のカウンターの奥の部屋から亜麻色の髪の毛を後ろに束ね、白いワイシャツとジーパン姿、そしてくわえ煙草をした女性が現れる。


 この店の家主である”白井 淳子さん”だ。


「御帰り恵美、それに望月君よく来たね。 今日は何用だい?」


「こんにちは、淳子さん。 実は―」


 俺は彼女に軽く挨拶をして弾の購入をしに来たことを伝えた。


「え! もうほとんど使っちまったのかい! 全くしょうがないね。 それでいくつ欲しいんだ?」


「え~っとじゃあ取り敢えず、最初に銃を貰った時と同じくらいでお願いします?」


「あいよ」


 そう言うと淳子さんはカウンターの横にある木の戸棚から大きさが文庫本くらいの箱を1つ取り出しカウンターの上に置いた。


 俺は出された箱を手に取って開けると、中にはガーディンに使う弾丸が約50発前後入っているのが確認できた。


「ありがとうございます。 それで御幾らですか?」


「はいはい。 魔力注入加工済み弾薬1ケース3500円ね~」


 俺は淳子さんからその金額を聞いた時、つい”はぁ?”と言ってしまった。


 弾が有料なのはこのガーディアンを受け取る時に説明をされているので理解しているが、バイトせず親から貰っている少ない小遣いで、日々ゲームソフト購入している俺に取っては3500円と言う金額はとてもは大きな痛手だ。


 なぜなら3500円あれば新品なら廉価版のゲームソフトが一本、さらに中古なら下手すれば10本以上買えてしまう金額だからだ。


 俺が彼女から提示された金額に苦虫を噛み潰した顔をしていると、続けて淳子さんはこう言った。


「別に高いと感じるなら無理に買わなくてもいいよ。 けどまた異形の者どもや敵の魔術師に遭遇した時に困るのは、君だと思うけど? 望月君」


 この守銭奴めと心の中では思ったが、現実に彼女の言うとおり、またあの怪物達と対峙する可能性が高いことを考えると、残弾が少ない丸腰に近い今の自分の装備ではどうにもならない。


「うぅ…買い…ます…」


「まいどっ!」


 俺はガクッと肩を落として、渋々制服のズボンのポケットから財布からなけなしの小遣いをカウンターの上にあるつり銭トレイに置いた。

 

 トレイに置かれた金額を見た淳子さんは目を輝かせてニカっと笑いトレイから金額を手に取ると、いそいそとレジスターへと入れる。


「とほほ…。 今月の末に予約していたゲームソフト……後でキャンセルしに行かないと……」


「まぁ望月君。 たった3500円で自分の身が守れるないそれでいいじゃいか」

 

 先輩は俺の横で淳子さんとの茶番をニタニタしながら見ていたが、彼女に昨日捕まえた泥人形使いのことを尋ねる。


「そういえば淳子姉。昨日、捕まえたあの男はどうだった? 何か進展はあったの?」


 俺達が捕まえた泥人形使いの話を先輩から振られた淳子さんの表情を強張らせて、神妙な面持ちで彼女の問いに答える。


「ああ、その事なんだが……あの男は死んだよ」


 突然の泥人形使いが死んだと言う淳子さんの言葉に、俺も先輩も思わず声を上げて彼女に詰め寄った。


「え! 死んだ!? 淳子さん本当なんですか!?」


「どういう事なんだ淳子姉!? 死んだ言うのは誰かに殺されたのか!?」


「ええい!! 一篇に喋るな!! 今説明するから!!」


 淳子さんは俺達を一喝し、口に咥えていた煙草を灰皿で消すと、着ているワイシャツの胸ポケットから新しい煙草を取り出して火を付けて一服すると、泥人形使いが死んでいた状況について話し始めてくれた。


「昨日お前達が引き渡した後、協会の連中が本部で男を尋問が行われたんたんだが、こちらが質問をしても何と言うか。 どうにも要領の得ない話ばかりしていたみたいなんだ。 ただ尋問終えて部屋を出るときにの最後に男は小さな声で”闇が来る……”っとだけ呟いたそうだ。 そして今朝になって、男が拘留していた部屋を監視員が見に行ったら、部屋中の壁と言う壁が真っ赤に染まっていて男が倒れているのが見つかったんだ。 壁に付いていたのはそいつの血らしくてね。 何を考えてそんなことをしたのか全身を掻き毟って死んでいたそうだよ」


 想像しただけでも悍ましくなってくる。


 いくら泥人形を使って魔術的な事件を起こしたから言って、まさかその男が死ぬなんてことは俺は全く予想していなかった。

 ただ思ったのは一晩で彼に一体何が有っというのだろうかと言うことだけだ。


 そして説明を聞いた先輩は一言だけ小さく喋った。

 

「そう……」


 俺がチラッと先輩の顔を見ると、哀傷に満ちているように感じる。


 淳子さんは1回大きく煙草を吸い込んでフゥーっと強く煙を吐くと、深刻な面持ちで続きを語り始める。


「結局の所、その男がどうやってあのノートで魔術式を完成させたかは、協会の方でも調査しているみたいだけど、当の本人が死んでしまったわけだし難航するかも知れないね」


「それで昨日、淳子姉に話した剣士のことについては何か分かったの?」


 先輩の質問に淳子さんは難色を示す。


「いやそっちもさっぱりなんだよ。泥人形を操ってた男が捕まってからは、何処にも姿を見せていない」


「……」


 淳子さんの言葉を先輩からは何の言葉も発せなかった。


 そして黙ったまま店の奥へと入っててしまった。


 店内に残された俺は購入した弾薬のケースを持っていた学校用の手提げ鞄の中に突っ込んで、淳子さんに別れの挨拶をして店を後にした。

 

 今回の事件は俺達の手で犯人を捕まえることが出来た。


 けど本人は自殺しまい、後に襲ってきた剣士……いや先輩が魔剣士と呼称しようか、そいつがなぜ探索者である

俺達を襲っていた動機も目的も分からなかったが、先輩は”その内分かる”と言っていた。


 その意味は何なのか?


 今分かっていることは、何も分からないと言う後味の悪い結末を感じただけだった。


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