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魔術師のいる部室  作者: 白い聖龍
魔剣士
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やぁ、おつかれさま、望月君

5月4日……

 須藤先輩の命令で、俺は写真部から持ってきた一眼レフやらフィルムやら三脚などを持ち、西金アリーナに新聞部の応援をしにやってきた。

 ゴールデンウィークの朝だと言うのに、会場の前の広場には、各高校の剣道部や、その応援、新聞部などなどでごった返している。


 「さて、うちの高校の新聞部は……」


 広場を見渡し、応援要請をした新聞部を探す。 

 すると、後ろから肩を叩かれ、声を掛けられた。


「君が、須藤君の言った後輩君だね?」


 振り向くと、そこには、黒髪で長髪、整った顔立ち、俺と同じ学校指定の制服を着た男子が立っていた。


「はい、望月秀一といいます、今日は部長が来られなくてすみません」


 俺は自己紹介と須藤先輩のサボりの謝罪をすると、男子高校生はさわやな笑顔を見せる。


「いやいや、大丈夫気にしなくていいよ、僕の名前は ”高橋 淳二” で3年生で新聞部の部長を務めている……ところで」


 突然、俺の両手を掴み、高橋部長の顔面がぐいっと目と鼻の距離に近づく。


「ところで、望月君っといったかな……今晩デートしないか?」


「はぁ!?」


 何を意味の分からないこと言っているんだこの人は、いきなりそんなことを言われ俺は大パニックになる。


「大丈夫だよ、僕は君みたいな子はタイプだしやさしく出来ると思うよ」


「え! ちょ! ええええ!!!」


 背中にゾクゾクしたものが俺を襲う、間違いなく貞操の危機だ。

 高橋部長に口説かれているとまたしても、突然の大声が空に響き渡った。


「だ・か・ら!!!! 何ナンパしてるんですか!!! このホモが!!!!」


「ブガっ!」


 声が聞こえた瞬間、誰かの両足が部長の横腹に命中し、彼は3mほどぶっ飛び、何者かがスタっと着地した。

 俺の目の前に栗色のショートカットで、腕に新聞部の腕章を付けたミニスカートの女の子が登場した。


「ほんっと、その性癖直らないですね!!」


「ひ、ひどいじゃないか」


「ひどいじゃありません!! 何回男の子をナンパすれば気が済むんですか!!! まったく!」


 ぶっ飛んで地面に這いつくばっている部長に更に言葉を浴びせていたが、呆気に取られていた俺に気がついたのかすぐに声をかけてきた。


「ごめんね、うちのバカ部長が 大丈夫だった?」


「あ、え、はい」


 さりげなく俺は胸元のリボンを確認すると赤、つまり2年生だ。


「私の名前は ”平 真帆” 2年生で新聞部 (ここ )の副部長を務めてます。」


「写真部の望月秀一です、今日はよろしくお願いしますけど、部長さん大丈夫ですか?」


「ああ、あの人の悪い癖なんだよね、ちょっとまってて」


 俺が横目で部長の方を見ると、まだダメージが抜けないのか、地面に伏せったままだ。

 そんな心配を他所に平先輩は、部長の方へとつかつか歩いていった。


「高橋部長!! いつまで寝てるんですか!! もうすぐ開会式が始まってしまいますよ!!」


「ちょ、ちょっとまってね平君、まだわき腹が……」


 確かにあのドロップキックだっけか? あんなものをモロに食らえば、常人ならまず立ち上がれまい、それを平気で使うとは……。

 そんなことを、俺は心の中で思っていた時、彼女は、部長の胸倉を掴み上げる。


「あれは、完全に部長が悪いでしょ!? 応援に来てくれた子をナンパするなんて、どんな神経してるんですか!!」


「何を言ってるんだい? 僕はただ、望月君と今後、どうお付き合いするかを……ぐぇ!」


 その部長の開き直った態度に激怒した平井先輩が掴んでいる胸倉を思いっきり締め上げる、、彼女の周りにオーラ的な物が見えるのはおそらく気のせいでないはず。


「いい加減にしなさいよ!!このホモが!!!」


「ぐぇぇぇぇぇーー」


 新聞部の2人のやり取りを見ていた俺だったが、部長の顔がどんどん血の気が引いていくのに気づき、急いで、平先輩を止め入る。


「……あ! 平先輩!! 部長の顔!! 顔が!!」


「はっ! あ……」


 俺の張り上げた声に気づいたのか、彼女は部長を解放する。


「げほげほ、し、死ぬかと思ったひどいじゃないか、平井君」


「自業自得です!! さて、それじゃ望月君、会場に入りましょうか、他の部員はすでに入場していますから」


 平先輩に促され、俺は会場入り口へと向かおうとする時。


「待ちたまえ! 平君!!」


 高橋部長の方に振り向くと、何かしら真剣な表情をして平先輩を呼び止める


「な・ん・で・す・か? 部長?」


「実は平井君に、一言言いたいことがある!」


 とても、真剣な眼差しで、彼女を一点に見ている、一体何を言いたいというのだろうか。


「平君……僕は………」


 さっきの茶番的な雰囲気が一転、シリアスな空気に包まれる。

 あまりに真剣な光景に俺も、平先輩も生唾をごくりと飲む、そして、部長が吼える。


「僕はホモではない!!! ”バイ”だ!!!」


 俺と平先輩は、会場入り口へと向かう、彼女にボコボコにされて、地面にキスしている部長を放置したままで。

 

 アリーナの会場に入ると、外とは違い選手たちによるピリピリとした空気が会場全体を包んでいる。

 俺は、新聞部の平先輩に指示の元、試合の光景や、インタビューされる選手などの写真を取って回る。

 あまりに、あっちこっちに呼び出しが掛かるため、忙しなく動く、確かにこれは、あの面倒くさがりの須藤先輩が俺に丸投げするわけだ。

 

 そして、西金高校 (うち)は、順調に勝ち進み、準々決勝で成西高校と当たる。

 俺は、2階の観客席からその光景を撮影しようと準備をしていると、平先輩にボコボコにされた時のダメージが抜けたのか、高橋部長がやってきた。


「やぁ、望月君、撮影は順調かい?」


「ええ、おかげさまで、今のところは順調ですね」


 そう答えると、部長は俺の隣に立ち、下の試合会場を見下ろす。


「ならよかった、今回は、新聞社が開催している男子女子混合の団体戦だからね、まぁ、今年は|西金<<うち>>もがんばってるみたいだしね、次の相手は?」


「ええっと、どうやら成西と対戦みたいですね、これで勝てば準決勝、決勝ですね」


 部長とそんな会話をしていると、選手入場のアナウンスが入り、俺はカメラを構える。

 ぞろぞろと、選手たちが試合会場へ入ってくる。


「ん?」


 カメラのファインダー越しに、相手側の成西高校の大将を見ると、他の選手は面を外して入場したのに対しその人だけ面を着けたまま試合会場へ現れた。

 選手たちは試合会場の端に順々に正座で座っていって試合が開始される


「なんだろ? 変な人だな…… えっと名前は……」


 カメラの望遠を使い、正座している相手高校の大将の垂に書かれている名前を確認する。


「”北沢”か…… ねえ部長?あの人だけ面をつけたままなんですけど?」


「ん?どれどれ?」


 部長も相手側の大将を遠めで覗くと、何か思い出したような感じだった。


「ああ、北沢君か、彼は成西高校の3年生でね、腕も立つと聞くよ、しかし、面を着けて入場してくるってことはしないはずだけど」


「へぇー」


 (さすがは、新聞部の部長だけに情報通だ……ただ、変な性癖持ちだけど……)


 その後、西金と成西の試合は続き、2勝2敗で、大将戦、|西金<<うち>>は、巨漢で豪腕で通っている岸田先輩が大将を勤めるに対し、成西は先ほどの面を着けたままの剣士北沢さんが出てくる。

 試合会場に対峙する2人だったが、身長差をみると、まるで大人と子供のようにようだ。

 両者が位置に着き、試合開始の合図が発せられる。


 試合開始直後から、岸田先輩の猛攻が続き、成西は防戦一方の試合運びが続く。

 

「成西は防戦一方だね、これなら準決勝に上がれそうだね」


 西金の好戦に部長はそんなことを意見を言う。


「確かにこれだけ、攻撃しているんですし、勝てますね」


 俺も西金の勝利を確信していた………が、5分経つが全然決着がついていない。


(まだ決まらないのか?)


 岸田先輩は、胴、小手、面などあらゆる所に打ち込むが、どれも、止められるか、受け流されている

 時間はもう3分ほど経過し岸田先輩にも疲れの色が見てくるのが、観客席にいる俺たちにもわかった。

 そして、岸田先輩は、一気に蹴りを付けようと、北沢先輩へ一気に距離を詰め、相手の脇腹目掛けて竹刀を振る。

 北沢先輩は、咄嗟のことに、動けなかったのか、防御しようとしない。


「決まったね」


 高橋部長がそう呟いた時、信じられないことが起きる。

 竹刀が北沢先輩の脇腹に当たる瞬間、彼の姿が消え、岸田先輩の竹刀が空を切りる。


(え、消えた!?)


 そして、長身の岸田先輩より上空から面目掛けて竹刀が振り下ろされ、審判の一本の声が響き、試合が決した。

 突然の逆転劇に、俺も部長も目を疑った、一体何が起きたというのだろうか? たしかに岸田先輩は、相手が防御する隙をあたえずに放った一撃は、常人では避けようがないはずだ。

 けど、北沢先輩は、それを避けて、カウンターを決めた。


「今のは完全に決まると思っていたのにね」


「はい、俺もそう思いました」


 結局のところ、西金高校は準々決勝で敗退、成西も、なぜか準決勝で、大将不在のためか、準決勝敗退となった。

 そして、大会が終わり、一通り片づけを終えて、会場前広場に集まった。


「いや~今日は助かったよ」


 部長からお礼の言葉を言われ、平先輩からも写真について尋ねられる。


「今日撮った写真は、どのくらいでできるの?」


「えっとですね、大体、4,5日ぐらいで仕上がると思いますから、できあがった、新聞部に届けますね」


 粗方、新聞部面々に挨拶を済まし別れた俺は、荷物を持ち西金駅方面へ行こうとした時だった。


 携帯の呼び出し音がなり、着信相手を確認すると、須藤先輩からだ。

 俺は、通話ボタンをプッシュし、電話に出る。


『やぁ、おつかれさま、望月君』


「おつかれさまじゃないですよ、先輩、こっちは忙しなかったんですから」


 俺が、須藤先輩が来なかったことに不満を言うと、いつもどおり笑いながら流されてしまう。


「ふふふ、すまん、すまん、この後、何か用事があるかね?」


 先輩にそう言われたが、もちろんこの後の予定は、家に帰って、ゲームするぐらいである。


「ありますよ、家に帰って、積んであるゲームを消化しないといけないですから」


『はは、そう言うと思ったよ、けど、悪いんだが今すぐ、アークライトに来てくれないか? 淳子姉が用事があるそうなんだ』


「淳子さんが……ですか?」


 淳子さんは、俺が食人鬼に襲われた時に、お世話になった人だ。

 だが、用事とは一体なんだろうか? 俺は首を傾げていると、先輩の話が続く。


『私はもう店に来ているから、望月君も早く来るように、それじゃ』


 俺は回答することもなく、会話を一方的に切られた挙句に、アークライトに行くことになっている。

 携帯電話をポケットにしまい、「はぁ」とため息をついて、駅とは反対側のアークライトへと向かうことになった。


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