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竜人のお姉さまと、幼馴染で修羅場る

 ゲーム内での能力が、ゲームに酷似した世界へ移動した少女に宿った。

その情報に踊らされ、激しくステップを踏んで世界があらぬ方向へ進もうとしていたその時。

 元凶となった遥とルベウスはこれ以上調べる事は無い、というほど調査し尽くされた。

 異世界探知技術の開発に火が付き、異世界でのヒーローのような能力の獲得を夢見る人々を生み出してから、実に半年が経ってからの話。


 その日遥とルベウスは条件付きながらも研究所から開放された。

検体となった報酬に、僅かな金額の金銭と、日本に戸籍の無いルベウスの身分証明書を渡されて。


「おかーさん、おとーさん。ただいまー!」


 平凡な小家族用一戸建て家屋のインターフォン越しに声を上げた遥が待たされるなどということは無く、即座に家のドアは開かれた。


「おぉぉぉぉぉ!遥!遥ー!お父さんなぁ、お前がいきなり連れて行かれてどうなるかと……!良かった!無事に帰ってきて良かった……!」


 開かれたドアから飛び出してきて肌着に股引姿で土足のまま遥に抱きついたちょっとお腹が出始めた短髪の男性は、父である健三だ。

 彼はルベウスがこの世界に来てから即座に隔離された娘と、半年顔を会わせていなかった。

 電子技術が発達した世界で、メールも許可されていたとはいえ、だからこそアナクロに顔を合わせる事に特別性を感じる人間は居る。

 健三はそういったタイプの人間だった。


「やだお父さん。近所迷惑よそんな声を上げて。……お帰りなさい遥。メールどおりに元気だった見たいね」


 続いて出てきたのは白い厚手のブラウスに、薄茶色の綿のスカートを履いている母、由香里だ。

 半年、家を空けても両親が変わっていない事が嬉しかったのか、遥の顔に笑顔が浮かぶ。


「ただいま。二人とも変わってないね」

「それはお前だって……半年も施設に押し込められて塞ぎこんでないか心配してたんだ」

「そう?私は心配してなかったけど……ちゃんとお互い顔を見て話すのは初めましてね、ルベウスさん」


 母が遥と手を繋いでいたルベウスの方を見て、すっと眩しいものを見るように目を細めながら言った。

 それに対してルベウスはその美しさをいや増すように微笑みながら答える。


「始めましてお義母様。ルベウスと言います。よろしくお願いします」


 そう言って空いた手を差し伸べるルベウスに、ややたじろぎながら由香里は握手を返す。

 だが父健三はそんなルベウスに噛み付いた。


「お前ー!おとーさんは認めんぞ!2000年の告白とか知らないからな!ポッとでの人間に娘取られてOKだす父親がいるかー!」


 擬音であらわすならぷんすかと言わんばかりに遥を抱きしめていた腕を離し、ルベウスの角に掴みかかろうとする健三。

 ルベウスは由香里との握手と遥と繋いでいた手を離してその手を止める。


「どこを触ろうとしているんですか?」

「その頭に生えてるごんぶとの憎いあんちくしょだよ!その角へし折って追い返してやる!」

「遥以外の人間にこの角を触らせる気はありません。下がってくださいお義父さん」

「お義父さんいうなー!」


 玄関先で騒ぐ健三を遥と由香里がたしなめる。


「こらっ。ダメでしょお父さん遥の恋人にそんな態度は」

「おとーさんうるさいよ。ほんと近所迷惑」


 言葉と共に二人掛りで健三の角を掴もうとする腕を引き下げる。


「は、放せー!お父さんには戦わなきゃいけない時があるんだ!」


 まだ暴れる健三を、遥が背後から言葉のナイフで突き刺す。


「ルベウス様の角は女の人の胸より大事な部分なのに。そんな場所を勝手に触って折ろうとするおとーさん、サイテー」

「ぐわぁぁぁぁぁ!止める!止めるからお父さんを最低だなんていわないでくれ遥ー!」


 今度は先ほどとは違う身もだえをしながら叫ぶ健三を、母子二人で家の中に引きずり込む。

 少しどうしたものか迷っているルベウスに遥が声を掛ける。


「ルベウス様も入って入って。おとーさんの事は気にしなくていいから」


 さばさばとした物言いの遥の言葉に、苦笑しながらルベウスは恋人?の後に続く。


「はい。ではお邪魔します」


 しかし、その言葉は遥に打ち消された。


「あ、ダメダメ、ルベウス様。今日から家で暮らして、私の……えと、恋人なんでしょ?だから、お邪魔しますじゃなくてさ」


 その遥の言葉に、少し唇を舐めながら考えたルベウスは、改めて「家」に入る時の言葉を。

 施設で観察されている間に学習した基礎知識から導き出した言葉を放つ。


「ただいまです。遥」


 そういったルベウスを遥は平凡なりに愛嬌のある笑顔で迎えた。


「おかえりなさい。ルベウス様」




 とりあえず、健三が落ち着くのを待ってからリビングで三人がソファに座り、ルベウスがカーペットの上に正座する。

 これは別にルベウス虐めではなく、単に通常の背もたれがある椅子にはルベウスは座れないからだ。


「それで、ルベウスさんはこれからどうするつもりなのかな」


 冷静さを取り戻して一家の長としての取りあえずの威厳を取り戻した健三がルベウスに問う。


「まずこちらの世界の統治者の皆さんから世界に馴染むまでの支度金として、いくらかのお金を頂いています。その使い道はハルと話し合って決めています」

「どうするんだい?遥が考えたらならそう悪い事じゃないと思うが」


 由香里が入れたお茶を飲みながら、健三が聞く。

それにルベウスは遥に目配せをしてから答えた。


「はい。学校に通おうかと思っています」


 学校に通う、その言葉を飲み込めなかったのか、健三と由香里が少しお茶を飲んでいる途中でむせる。


「ごっ……おほおほっ!学校に通うのかい!?2000年以上生きたルベウスさんが!?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔で聞き返す健三に、ルベウスは微笑みながら答える。


「はい。私は2000年生きたと言ってもあちらの世界では棲家からさほど離れなかったので博識というわけでもありませんし。こちらの世界については基礎程度は学習しましたが、殆ど無知に近いですからね」

「む、むぅ。それなら反対はしないが……」

「でもルベウスさんのような、見た目大人の女性が学校に通うと、周囲の子達になにか影響があるかもしれないわねぇ」


 少し悩ましそうな顔をする由香里に、遥が言う。


「そういうの気にしてたら、ルベウスさん何も出来なくなっちゃうよ。ここは私と同じ学校に通ってもらって……」


 少し熱の入った遥の言葉に、由香里はにんまりと笑顔を浮かべて娘の方を向く。


「あらあら。同じ学校って。それが狙いなのね」


 思わせぶりな事を言う由香里に、遥はどもりながら返す。


「な、なななな、なーにが狙いなのよ!解んないなぁ!」

「くっ!」


 娘の様子に悔しげな声を漏らす健三。

ルベウスがそんな健三を見て口を開きかけたが、自分が何を言っても火に油だろうと思い直して口を閉じる。


 こうして1だったルベウスが取りあえず2となり、ついで義理の3と4を得た。

そんな平穏な時間が改めて始まるのだった。




 ルベウスが遥の家に同居を始めてから数日後。

公立第3948学校の総合達成度300以上の人間が集められたクラスの担任が履修開始前のホームルームで生徒達に呼びかける。


「皆さん、今日新入生が入ります。親しい関係の人が居る為にこのクラスになりましたが、達成度はそれほど高くなく150程度です。助けてあげてくださいね。では入ってくださいルベウスさん」


 照の声掛けにあわせて、ルベウスが教室内に入る。

この時代、制服というものは希少になっていて、この学校でも私服登校が採用されている。

 だから、翼を持っていても問題なく身に付けられる黒のチューブトップに包まれた巨峰。

 そして、尻尾がお尻の少し上から生えているためにかなりギリギリと言って良いホットパンツ。

 それをむっちりとした太ももとお尻の上に張り付かせているルベウスの姿に教室の中の生徒達からどよめきが起きる。

 彼女の背中についている人ならざる部位と人である部位にも伸びる鱗に目を引かれたというのはあるだろう。

 だがそれ以上に、豊満でありながらそれを肥満であるとは感じさせないスタイルの良さにが前面に押し出されている事でそれは起こった。


「ルベウスです。学習進度、というのですか。それは皆さんよりかなり遅れていますが、頑張って追いつきますのでよろしくお願いします」


 丁寧に、紅毛を肩口からさらりと流すように垂らしながらお辞儀したルベウスの姿に、教室は騒然となった。


「ちょ、ちょっと!あの人綺麗過ぎ!」

「嘘だろ!あんなのグラビアアイドルじゃねえか!」

「ル、ルベウス様ぁ!?ザ・ワンから居なくなったのは知ってたけど、もしかしてこの学校にテイムした奴がいるの!?」

「おいまじかよ。異世界の人がこんな学校くんの?マジで?」


 がやがやと騒がしくなる教室で、照が生徒達を収めようと声を上げる。


「皆さん静かに!ルベウスさんは既に「地球人」です!そう思って対応するように!」


 パンパンと手を叩く音を端末を介して生徒達の机で最大音量で鳴らし、注意を逸らす。


「質問は履修の間の休憩時間に、個人的にしてください。席は稲穂さんの隣です」


 照の言葉に、朝から少しの違和感を覚えていたクラスメイト達が納得する。


「あぁ、稲穂の奴、なんで席移動してんのかと思ったらルベウスさんの面倒みる係りだからか」

「い~なぁ。私もあんな美人の隣に座りた~い」

「あ、あの席の電脳接続機と椅子が変な形になってると思ったら……あの体型かぁ」


 そんな周囲からの声が上がる中、ルベウスは並ぶ机の合間をすり抜けて遥の隣、窓際に座る。

 教室最後尾の席に座ったルベウスは、隣に座る遥に微笑みながら言った。


「よろしくお願いしますハル。ふふ、学校というのがどんな事をするのか楽しみです」

「うん。皆楽しい人だから、勉強頑張ろうねルベウス様」


 親しげに言葉を交わす遥とルベウスに、注目を集めているクラスメイトの中でも特に鋭い視線を飛ばす者が居た。

 それは前髪を綺麗に整えて、長い後ろ髪を一本の緑の紐で括った、ルベウスより胸はないが、背の高さは同じ位の少し大柄なスタイルの良い女性とだった。

 桜色の着物を着たその女性は元から鋭い目つきを更に鋭くして二人を見つめていた。




 電脳に意識を接続しての履修、実時間では1時間だが電脳内では1月の時間が過ぎて、1時間の休み時間に入ると、ルベウスの周りに人が集まり始める。

 ルベウスは遥と電脳内での勉強の成果を話したいと思ったが、周囲との接触も学ぶ場所が学校であると教えられていた為、そこを押さえて応対する。

 大半は異世界はどんな世界だったのかとか、そういえばルベウスをテイムしたハルというアバターは遥の物なのかとか。

 ルベウスの事を積極的に知ろうとする若さ陽性の質問ばかりだったのだが。


「『私の』遥ちゃんから離れなさい。トカゲ女」


 教室に沈黙が降りた。

声を発したのは先ほどルベウスと遥を鋭い目つきで見ていた少女だ。

その女子としては低めの声で放たれた声に、周囲の生徒達はやばい、この人を忘れていた、という気持ちになった。


「……ハル。この女性は?」

「あ、えっと、そのー。クラスメイトの光条路 翠。私の友達……かなー」


 少し困ったような声を出す遥に、翠はずっと近づいて額をつきあわせる。


「友達?私と貴女は、そんな浅い関係じゃないでしょう?私は、貴女の、最良の妻よ」


 その言葉に、ルベウスは翠の後頭部を掴んで二人を引き離す。

そして静かな声で遥に問いただした。


「ハル。この女となんですって?」

「ち、違うよ!?翠さんが勝手に言ってるだけで、私まだ独身だよ!フリーだよ」

「くっ!放せトカゲ女!」

「フリーというのも違いますよね、ハル。貴女は私と一生を添い遂げる仲。そうですよね?」

「それは私の役目よ!トカゲに出番は無いわ!」

「……ハル、私非常に、速やかにこの女をこの世から排除したいのですが」


 ギリギリと掴まれた後頭部から手を引き剥がそうと力を入れる翠だが、ルベウスの力は常人のそれよりはるかに強い。

 ただ、心臓が2つも潰れている為ゲームで見せたような圧倒的な力ではないが。


 そんなルベウスと翠の間で発生する異様な緊張感にクラスメイト達は固まっている。

 遥は、もしかしてコレ私がどうにかしなきゃなのかなー、などと冷や汗をかいていた。


「あ、あのね。翠ちゃんは本当ただの友達だけど、暴力はダメだよルベウス様」

「なんで!?なんでそんな事言うの遥ちゃん!私をお嫁さんにしてくれるって言ったじゃない!」

「……本当ですか?ハル」

「そ、それはもっと小さい、そう、5歳くらいの時の話だよー。私そん時は結構やんちゃで、考え無しに言っちゃったっていうか……」

「子供の時の言葉でも、約束だもの。守るわよね?遥ちゃん」

「ハル?」


 ルベウスの興味の対象が遥に移ったためか力が抜けた腕を引き剥がして、再び遥に迫る翠。

それとあわせて低くなるルベウスの声に思わず遥はのけぞる。

 内心遥は、誰か助けてよー!と思いながら周囲を見回すが、クラスメイトは翠とルベウス以外全員顔を逸らす。


「えっと、その。幼年期の責任能力の無い時の言葉は無効って事にしてくれないかなー。なんて」


 遥の言葉に、翠は瞳の輝きを消して僅かに脱力してより一層遥に顔を寄せる。


「今、なんて?」

「だ、だからね翠ちゃん。もー私ほんと平凡だし、翠ちゃんみたいな美少女と釣り合わないよ。だからお嫁さん宣言は無効にですね」

「ひ……」

「ひ?」

「酷いわぁぁぁ!わた、私はずっと遥ちゃんのお嫁さん目指して生きてきたのにこんな裏切り!酷い、酷い!うぇぇぇぇぇぇん!」


 ルベウスの前をまたいで遥の胸元に顔を埋めて涙を流しはじめる翠に、遥はわたわたと声を掛ける。


「ご、ごめん!でもね、お互い結婚とか良く解ってない時の約束だからね……!?」

「じゃあ、今改めて約束して」

「え、えぇ!?」

「遥ちゃんのお嫁さんになる事が目的になってた、私の人生の責任を取る為に、今お嫁さんにするって言って」

「あのね、今の私はどっちかっていうとお嫁さんになりたいかなーって……」

「今の時代、お嫁さん同士で結婚なんて珍しくないよ。遥ちゃん、誠意を見せて」


 言い募る翠に押される遥にルベウスが手を差し伸べる。

具体的には思い切り翠を遥から引き剥がして思い切り遠ざけた。


「ハル。貴女が望むならこのミドリという女、始末しますよ」

「ダメダメ!私の事がちょっ……大分、熱烈に好きなだけなんだから!それにー。殺人は犯罪だよ!」

「ああ、そういう決まりごとが人の間ではあるんですよね。失念しかけるところでした」

「は、放せぇ……!遥ちゃん!遥ちゃん!」


 じたばたと足掻く翠を押さえながらルベウスは遥に囁きかける。


「ハル。確認しますが貴女は私を愛している。そうですね?」


 ルベウスの言葉に、完全に引いていた多感な年齢の少年少女達の間からどよめきが起こる。

 その空気にも少し気圧されるものの、翠からの強烈な圧力よりはましだと思いながら、息を整えて遥は答えた。


「私の気持ちがルベウス様の気持ちに追いついてる気がしないけど、それは、まぁ……」

「私と共に在りたいと、そう思ってくれますか?」

「うん。ルベウス様と一緒に居たい」


 素直に答える遥と、その言葉に輝きを増すルベウスの笑顔に、周囲のクラスメイト達は魅入られ、翠は再び泣きそうになる。

 だが、そこでルベウスは視線を翠の方へ向ける。

そして縦に裂けた瞳孔を絞り込むように細めると、遥に言った。


「私、少しこのミドリという女とお話をしてきたいのですが」

「え?あのー、ルベウス様酷い事しない、よね?」

「しませんよ。ハルにとって友人なんですよね」

「うん。ちょっと行き過ぎてるところあるかなーって思うけど、友達だよ」

「なら何も酷い事はしませんよ。さぁ行きましょう」


 すっと席から立ったルベウスは翠の頭をそのまま引きずりまわそうとして、はたと気づいたように掴む場所を肩へと変える。

 そして改めて掴んだ腕を引いて翠をどこかへ連れて行こうとする。


「ひっ、嫌!助けて遥ちゃん!」

「心配しなくていいですよミドリ。純粋に貴女とはお話するだけです。ハルの名に懸けて誓いましょう」

「翠ちゃん。そんないルベウス様を怖がらないであげて。本当にお話するだけだと思うから」

「嫌よ!放して!助けて遥ちゃん!」


 恐怖に震え暴れる翠を強引に押さえ込んでルベウスは何かを囁く。

するとピタリと翠は動きを止め、むしろ積極的にルベウスに囁きかけてなにやら話始める。

 遥が何話してるんだろうなー、とのんきに考えていると、翠は突然真顔になって、むしろルベウスの腕を引く勢いで教室の中から消えていったのだった。

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