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Lesson2.クラブ・ペコー(2)

 コレットとクダチは、馬を併走させながらキャラバン隊の周りをゆっくりと巡回していた。


「馬まで借りられるとは、幸運でしたね」

「隊長さんには感謝しないとな」



 キャラバンの隊長ロ・ミケは、スロという砂漠だらけの暑い国からはるばる旅をしているのだという。オレンジ・クラブ採取の依頼人に会うために、アサギ海岸へと向かう手段を話し合っていた時、ギルドから運良く海岸近くを通って故国に帰るこのキャラバンを紹介され、護衛する代わりに近くまで乗せて貰える事になったのだ。

 マウノは馬に乗れないので荷台の方へと回った。コレットは一緒に乗りましょうと勧めたのだが、マウノは激しく首を振った。そんなに拒絶しなくてもいいじゃないとむくれるコレットに、マウノは深いため息をついていた。


「それは、わざとなのか、本当に鈍いのか?」


 マウノのものか、クダチのものかわからない呟きが聞こえたという。

 そんなこんなで今は穏やかに時が流れており、取り立てて脅威もない現状では自然と目新しい事へと意識が向けられる。きっかけは、お昼の休憩でロ・ミケが祖国の話をし始めた事であった。

 

「砂が、熱いんですか」

「熱いなんてものじゃありません。日中裸足で歩けば確実に火傷しますよ。逆に夜は凍結するほど寒くなります」

「ふおぉ、行って見たい!」


 ロ・ミケは、零れるような白い歯を覗かせて祖国の話を面白おかしく語っていく。コレットに向けられた爽やかな笑顔にとは対照的に、クダチの顔は不機嫌そのものだ。

 巧みな話術でみるみるうちに話へと引き込まれていったコレットは、一刻もしないうちにまだ見ぬスロ国へと思いを馳せていた。見たことのない景色や、異文化に触れてみたいという気持ちが、急速に膨れていく。


「よしっ。この依頼が終わったらスロ国に行っちゃおうかな」

「いつでも歓迎いたしますよ。何なら私がご案内しましょう」

「思いつきで言うなって、ミケさんの迷惑になるだろ」


 頭を小突かれてエヘヘと笑うコレットは可愛らしかったが、クダチの心中は穏やかでない。パーティーというものは組織ではなく、緩やかな繋がりでしかない。気に入らなければいつでも解散できるし、一人だけスロの国へと向かうことだって出来る。

 そして彼女は独りでも充分に旅が可能な才能を持ち合わせているではないか。


(もし、独りで行くと言われたら俺は…)


 しかし、次にコレットから紡がれた言葉は、優しくクダチを救ってくれた。


「ねぇ、一緒にいこうよ。砂漠の国!」


 クダチは無邪気にはしゃぐコレットを見てほんの少し胸が痛み、その何倍も嬉しくなる。本当は即答で了承したかったのだが、ロ・ミケの存在がそれを邪魔する。こいつに案内されるのは、何か嫌だと。


「しかしなあ、花も咲かないほど過酷な気候らしいぞ」

「それは、おそろたのしい」

「勝手に言葉を生み出すな」


 その後、マウノやロ・ミケを交えて観光名所やら食生活やらについて大雑談会が繰り広げられる事になった。護衛の任務は、まあそれなりである。なにせ、大きな街道沿いを行くだけなのだから危険は少ない。

 結局、次の日もスロ国の話で盛り上がり、コレットの妄想はヒートアップしていく。


「絶対に行きたい」

「暑いのは嫌いなんだよなぁ」

「じゃあ、カニが不味かったら、次はスロ国に行くって事でどう?」

「なんだ、俺の裸踊りじゃなくていいのか?」

「そっ、それはマウが見たいだけでしょ!私じゃないもの」

「なんだ、コレットは見たくないのか」

「えっ…いや、えっ?」


 あれ、何かおかしい、何の話だっけとコレットが顔を真っ赤にしながら動揺していたところに、荷台から顔を出したマウノが助け船を出す。


「そんな貧相な体を見たいというご婦人は少なかろう」

「馬鹿いえ、脱いだら凄いぞ」

「人間は皆軟弱だからなあ」

「見るか?」

「ガリガリ君を見てもつまらんが?」

「マウこそ、本当はブクブクのデブ虎なんじゃないか?」

「面白い」


 コレットは、無言でシャツを脱ぎだした男達に向かって「もう、勝手にするといいよ」と呆れ顔で放置し、馬をキャラバンの先頭まで進めた。

 街道にはわずかに若葉の香りが漂っている。そろそろ、生命が沢山生まれる時期が近づいているのだろう。

 心地よい香りに包まれながら、コレットはこれからの事を思った。

  

 暫くはクダチやマウノ達と共に冒険を続けるのだろう、しかしその後はやはり魔法使いとして本業に戻らざるを得ない。この楽しい旅もいつか終わりを迎えるのだと思うと、何かがちくりと胸を刺した。

 しかし、その正体が何だかわかる前に、キャラバンとのお別れが来てしまう。

 

 お互いの連絡先を聞き、ロ・ミケ達と別れた一行は、目的のアサギ海岸へと歩を進めるのであった。

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