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Lesson2.クラブ・ペコー(1)

 ギルドの掲示板前では、いつも通りコレットがぴょんぴょん飛び跳ねていた。時折「ぐぬっ」とか「くおぉ」とか奇声を発する彼女を、ギルドのメンバー達も微笑ましい目で見守っている。誰も助けようとしないが、別に薄情だからというわけではない。その必要が無いと知っているからだ。


 コレットが再びピョイと跳ねた瞬間だった。そのまま体がふわりと浮き、何かに包まれる。


「うわわわっ!」


 慌ててしがみついた先で、クダチが笑っていた。


「クダチ」

「何か良さそうなのあったか?」

「落ちる、落ちたら打撲ですよ、危険が物騒ですよ」

「落とすわけないだろ」


 クダチの片腕に収まったコレットは、ひとしきり危ないから降ろせと騒いだが、クダチは笑うばかりで降ろすつもりなど毛頭無いといった表情で掲示板を見ている。

 仕方ないので、顎をクダチの頭にのせながら掲示板を眺めはじめた。

 2人で端から順々に眺めていき、中段にさしかかったところでコレットの耳がピクリと動いた。


「あ、カニがある」


 唐突に身を乗り出して掲示板を指さしたせいで、クダチの体勢が崩れる。


「あぶねえ、うぶっ」


 咄嗟にコレットの体を引き寄せると、顔に柔らかいものが押しつけられた。今日の彼女は冒険用の装備ではなく、茶色のロングスカートに白のブラウスという町娘の格好だから、色々と柔らかい。そして彼女は、小さいが大きいのだ。

 慌てて床に降ろすと、深呼吸をして気持ちを落ち着かせつつ依頼に目を向ける。


「何々、クリンブル海岸でオレンジクラブのハサミを2本採取と。ああ、良さそうだけど報酬の支払い方法がなぁ」

「あ、本当だ。後払いですね。むむぅ」


 コレット達は当座の資金繰りに困っていた、ぶっちゃけて言うと貧乏であった。明日の宿代も怪しい状態なのである。従って、できれば完全前払いもしくは一部でも払ってもらえる依頼を探していたのだ。

 あれこれ悩み始めた二人を救ったのは、上機嫌で入り口に現れた白虎の獣人、マウノであった。


「よう!」

「あー、マウですか」

「あーとは何だ、傷つくな。トラウマになるじゃないか。トラだけに」

「今忙しいのです」


 全力でスルーしたコレットに代わり、クダチが事情を説明する。面白そうな依頼があった事、しかし成功報酬なのでそれまで手元資金が不足することを話すと、意外な答えが返ってきた。


「それなら心配するな。先ほど金貨が3枚手に入った」

「えっ!?」

「お前、貧乏だからってついに強盗を」

「仲間内から犯罪者を出すとは思わなかったです。今からでも遅くないです、自首すべき」

「まっとうな金だ!」


 ゴスッとクダチの頭に大きな拳が落ちる。ぐおぉと転がっているところを見ると、相当痛いらしい。


「コレットのアレ、実は一つ残っていてな。運良く知り合いのルートで捌けた」

「アレとは、花飾りですかね」

「うむ、伝説のアイテムとして希少価値が高くなってるな。当時の三倍だとさ」

「そか」


 コレットは微妙な顔である。魔法で商売する事を嫌うテレーズに、売り上げを全部没収された記憶はまだ新しい。


「まあ、贅沢しようという訳じゃないし、大目に見てくれるだろう」

「う、うん。そうだね」


 無理矢理自分を納得させると、気持ちはもうオレンジ色のカニへと向かっていた。彼女は気持ちの切り替えが非常に早い。


「よーし、カニだ!」

「うむ、カニだな」

「美味そうだよな」

「え?」


 何気なく言ったクダチに、コレットとマウノは驚愕の表情を向ける。


「ク、クダチ、趣味が悪いです」

「まさか、食う気か?気持ち悪いな、お主」

「はぁ?何だよ、普通食うだろう、普通」


 マウノには散々「食わんぞ、ゲテモノ」と言われ、コレットからは微妙に距離を置かれたクダチは、ついにキレた。


「食ってから、ぬかしやがれ!」

「えー、やだ」

「食わずとも判るわ。あんな化け物を食すとは、味覚が崩壊していると言わざるを得ないな」

「んだとこの野郎」


 マウノとつかみ合いの喧嘩が始まったところで、コレットが仲裁する。結局、クダチが調理し、一口だけ食べてみることに落ち着いた。


「美味かったら、コレットは膝枕しろよ。で、マウノはマッサージしろよ」

「おおともよ。不味かったら、クダチは裸踊りだぞ」

「ああ、やってやるよ、コノヤロウ」

「えーと、じゃあ二人とも頑張って…ね?」


 可愛らしく首を傾げるコレットに、男二人は同時に振り向き、そして吼えた。


「何言ってんだ!」

「え、だって私には、全然メリット無いし」

「コレットも喰うんだよっ」

「逃がさんぞ!」


 鬼気迫る顔の男達を前に、ついうっかり頷いてしまったコレットであった。

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