表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/92

Lesson1.ワスレナグサ(17)

 目的地であるフランガルは、別名『夜の森』と呼ばれ、常闇に支配されている。といっても、別に魔法で夜が作り出されているわけではなく、鬱蒼と茂った木々に日の光が遮られているだけなのだが、そのサイズがおかしいのである。


「私の知ってるコナラじゃない」

「デカイな」


 巨大な楢の木を見上げるコレットの横で、クダチが感心したようにうなずいている。後ろでは、マウノがグルルと低いうなり声を立てていたので、商隊の人達が怯えていたが、実はアレは機嫌が良い時の癖なのだ。ほんの3日ほどの短いつき合いだが、だんだんとその生態がわかってきた。


(獣人って面白い!)


 本人が聞いたら怒り出しそうだが、旅の仲間を良く知ろうというのは悪い事ではないはずだ。そういうことにした。


「しかし、ドングリもデカイのは良いことだ」

「マウノって、肉以外も食うのか」


 クダチが素で驚いていた。


「お前なぁ、獣人は獣とのハーフじゃないんだぞ。普通に食事くらいするわ」

「しかし」

「なんだ」

「その手でどうやってドングリを食うんだ」


 獣人の手は人よりもむしろ獣に近い形状をしている。剣や盾を持つには不便がなくとも、小さなフォークやスプーンを持つには不便そうに見える。


「気合いで食うんだ」

「だんだんお前という生物がわかってきたよ」

「細かいことを気にしてると、ハゲが進行するぞ」

「ハゲてない!」


 コレットが、男同士って楽しそうで良いなぁ、などと羨ましげに見ていると、スランバートル商会の面々に呼び出された。


「さてと、無事到着しましたな。これから3日間、我々は『紅しぐれ茸』採取組と『葵の石』採掘組に分かれて行動いたします」

「二手に分かれるんですか」


 困惑したように三人は顔を見合わせた。この少ない護衛人数で二手にわかれて警護すると、確実に片方が手薄になる。しかし、スランバートルにそのつもりはないようだった。


「あなた方は『紅しぐれ茸』の方を警護してください。採掘組には我々の方で警護をつけますから」

「はあ、あの、採取組の方々は何名くらいになるのでしょう」

「私と、ハヌマンの二人ですな」

「え」


 商会のメンバーにあって、トップの座に君臨するスランバートルその人がたった一人の部下だけをつけて採取をするという。いくら冒険者を護衛につけたとはいえ、危険極まりない。何度か部下を増やすように説得するが、変える気はないようだった。


「そのために、あなた方を雇ったのですから。死ぬ気で護衛してください」

「わかりました」


 結局クダチ達が折れ、あまり深くまで行かないこと、危険だと判断したら即撤退することを条件に引き受けた。3人で2人を守るのであれば、なんとか出来ると考えての決断だったが、出発が夜だと聞きクダチは思わず舌打ちをする。


「夜の森か…マウノ、どう思う?」

「夜にしか採取できないなら、筋は通っているが…少々臭うな」

「わざわざ冒険者を雇って、少人数で挑むメリットは何だろう」

「用が済んだら使い捨てられる点だな」

「しかし、それだと道中のリスクが高くないかな」

「あるいはリスクをコントロールできるか」

「あぁ…なるほど」


 ボソボソと小声で相談する男達の横で、コレットはせっせと何かを作っていた。途中でクダチが何を作っているのかと声をかけたが、秘密としか応えて貰えなかった。まあ、どうみても花冠か花のネックレスなわけだが。

 そして、その予想は見事に正解した。


「で、どうして俺の首に?」

「なんで私まで?」

「何ですか、何ですか、その反応は! 二人とも酷いじゃないですか!」

「いやだって…」

「なあ…」


 顔を見合わせる男達に、思い切り頬を膨らませて抗議をした。コレット渾身の作、ピンクの花の首飾りである。何の花か聞いても、秘密としか応えて貰えなかった。


「これ、付けないとダメなのか」

「一生懸命作ったのに…がんばったのに…」


 折り曲げた指を唇にあて、うるっと瞳を湿らせる。


「おおっ、よく見れば似合っているじゃないかクダチ!」

「そうか、マウノもなかなか男前に見えるな」

「はははは!」


 その晩、桃色の首飾りを下げた男達と、やけに上機嫌な少女に守られたスランバートル一行が、静かに森の中へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ